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第十話・私が思っていたクリスマスデートとちがう

イルミネーション

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 足腰が立たないくらいだったので、お風呂に入ったら疲労がドッと出た。1時間くらい眠った後、起きるともう夜の9時だった。

「もう夜遅いけど、昼に食べたきりだからお腹が空いているよね? ご飯を食べる?」

 誠慈君の問いに「うん」と頷いて、いつもより遅い時間にご飯を食べることになったのだが

「本当に良かったの? せっかくのクリスマスなのに、晩御飯がコンビニで」

 誠慈君は私が動けないだろうと心配して、ルームサービスを頼もうとしてくれた。しかし世間知らずの私でも、ルームサービスが高いことは知っている。

 今日だけでいくら使ったか分からない誠慈君に、これ以上お金を使わせたくなくて

「誠慈君は、今日はもうお金を使っちゃダメ」

 ホテルにいちばん近いコンビニ。そのレジ前で改めて誠慈君を止めると、いつもすんなり譲ってくれる彼には珍しく真剣な顔で

「俺も1日でこんなにお金を使うのははじめてだけど、アイドルやゲームに課金するのと同じで、好きなもののために支払う喜びがあると思うんだ」

 お風呂の時といい、誠慈君はたまに狂ったことを言い出すな。

 でも趣味や感じ方は、きっとそれぞれだ。誠慈君はいつも私のワガママを許してくれるのに、こっちだけ「そんなのダメだよ。間違っているよ」とは言いたくなくて

「私はお金を使わなくても感じられる喜びのほうが好きだよ。何か買ってもらわなくても、一緒に居られるだけで幸せだよ」

 そんなに全身全霊で尽くしてくれなくていいとやんわり伝えると

「あ、ありがとう」

 誠慈君はホワッと喜色を浮かべた。が、次の瞬間

「でも俺は萌乃にそう言われると! 嬉しくて余計になんでもしてあげたくなるんだ!」

 普段から溢れ返っている愛情をワッ! と氾濫させて

「だからゴメン! ここも払わせて!」

 私が会計しようとしていたレジに割り込んだ。ブーケを売れば女性の人だかりができるほどイケメンな誠慈君だけど、流石に私たちの会話を聞いていたレジのお姉さんは、ドン引きしていたな……。


 コンビニのイートインで晩御飯を済ませたあと。ホテルの部屋に戻る前に、誠慈君が

「ちょっと寄り道していい?」

 と、私をある場所に連れて行った。

 それはホテルの1階にある中庭に面した大きな窓の前。夜とは言えホテルの中なのに、その付近の照明は落とされていた。それは節電とかではなく

「すごい……」

 一面ガラス張りの窓から見える中庭の光景に息を飲む。中庭にはクリスマス用のイルミネーションが施されて、夜闇をはね返すように美しく輝いていた。光の海に目を奪われる私の横で、誠慈君は他のお客さんの迷惑にならないように小さな声で

「宿泊客用に中からイルミネーションが見られるようにしているんだって。ここなら屋内だから寒くないし、萌乃も大丈夫かなって」

 嬉しそうに微笑みながら私を見下ろすと

「クリスマスだから一緒にイルミネーションを見られたらいいなって。思ったより混んでなくて良かった」

 スイーツビュッフェだけじゃなく、屋内から見られる見事なイルミネーションが、誠慈君が奮発してこのホテルを選んだ理由だったらしい。

 だとすると部屋を取ったのも、単に私を休ませるためではなく、イルミネーションが見られる時間まで、負担なく待てるようにだったのだろう。

 なんで誠慈君は、いつもこんなに私を思いやれるんだろう? 当たり前のように惜しみなく注がれる大きな愛情に

「も、萌乃? どうしたの? 大丈夫?」

 急に泣き出した私に、誠慈君はオロオロして

「ただでさえ疲れているのに連れ回してゴメンね? もう部屋に戻ろう」

 体調が悪いのだと誤解する彼に、私はフルフルと首を振って

「違う。すごく嬉しくて」

 頭の中には誠慈君が私にしてくれることや向けてくれる想いが、どんなに特別でありがたいか、たくさんの感謝が溢れているのに、いざ言葉にしようとするとうまく出なくて

「いつもたくさん優しくしてくれて、ありがとう」

 ようやく出て来たのは、これまで何度となく口にした在り来たりな台詞。なんで私はいつも咄嗟に、こんな簡単な言葉しか出ないんだろうと、すごくもどかしくて

「……誠慈君はすごく考えてくれたのに、いつもろくなことを言えなくてゴメン」

 不甲斐なさに俯くと

「そんなことないよ」

 温かな腕にギュッと抱きしめられた。驚いて顔を上げると、誠慈君は眩しいくらいの笑顔で私を見下ろして

「萌乃の言葉にはいつもたくさん心がこもっているから、ちゃんと気持ちが通じているって感じられて嬉しい」

 誠慈君は再び大事そうに私を抱きしめると

「いつも大切に想い返してくれて、ありがとう」

 想いの一つ一つを大切に返されているのは私のほうだ。でも誠慈君の腕に抱きしめられると、もらってばかりで申し訳無いという後ろめたさは消えて、ただ温かな幸せだけが残った。

 でも次の瞬間。

「って、ゴメン! 人の居るところで!」

 そう言えば、この空間には少なからず他のお客さんも居る。カップルは私たちと同様、他人を気にするどころじゃないけど、少し年配の夫婦や家族連れにはチラチラ見られていたようだった。

 誠慈君は人目を気にして恥ずかしそうに私から離れたけど、改めて手を繋ぎ直すと、そのまましばらく2人でイルミネーションを眺めた。
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