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第九話・私が思っていた萌え服とちがう

秋なので学園祭をやる

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 私たちの学校は11月の中旬に学園祭がある。だから本番には少し早いけど、10月の下旬に学園祭の出し物についての話し合いがクラスで行われた。

 私たちのクラスは、愛見さんを筆頭とする女子たちの猛烈なプッシュにより『森の動物カフェ』をやることになった。当日は売り子が森の動物の仮装をして、手作りのお菓子とお茶を提供する。

 漫画やアニメではメイド喫茶が定番だけど、保護者も来る現実の学園祭で、そこまで萌えに走るのは恥ずかしいのでほのぼのした内容で良かった。今日のところは出し物だけ決めて、係の分担など細かいところは後日詰めることになった。

 その日の帰り道。

「萌乃は調理班と接客班、どっちにする?」

 誠慈君の質問に少し悩む。決して調理が得意なわけじゃないが、接客班は当然ながらお客さんの対応をしなければならない。知らない人の応対や、お金の受け渡しをするほうが大変かもしれないと

「知らない人と話すの、苦手だから調理」

 しかし単なる雑談かと思いきや

「そ、そっか」

 なぜか残念そうな誠慈君に気付いて

「もしかしてコスプレ、見たかった?」
「いや! 萌乃がやりたいほうでいいんだけど!」

 咄嗟に否定したものの、彼は正直な人なので

「……森の動物の恰好をした萌乃、絶対に可愛いだろうなって」

 そう言えば、誠慈君は私を猫や雛のように思っているのだった。あれからずいぶん私の邪悪な面を知ったはずなのに、まだ幻想は壊れないようだ。以前なら「大丈夫か、この人」と思っていたところだが、今の私はむしろ誠慈君の幻想に寄せていきたい気持ちがあるので

「……誠慈君が見たいなら接客にしようかな」
「えっ? でも嫌だったんじゃ」

 ちょっと無理をしてでも、誠慈君に可愛いと思われたいと素直に伝えると

「その姿勢がもう可愛い……」

 誠慈君は軽く悶えながらも

「でも萌乃はそのままで十分可愛いから、俺のために無理しないで。学園祭の準備だけでも大変だろうし、自分が楽なほうを選んで」

 誠慈君は心配してくれたけど、なぜか私は余計にやりたくなった。そう言えば、前に誠慈君のバイトを止めようとした時。

『ゴメン。でも俺は萌乃がそうやって心配してくれるほど余計に尽くしたくなるんだ!』

 って、かえってやる気になっていたっけ。

 今その現象が私にも起きているようで、誠慈君が気遣ってくれるほど、怠惰な私には珍しくがんばりたくなった。

 その旨を誠慈君に伝えると「うわぁ~! もうっ!」と両手で顔を覆いながら

「萌乃が日に日に愛おしくて困る……」

 堪らなそうに呟くと、足を止めて私の頭を撫でながら

「学園祭、すごく楽しみになった。ありがとう」

 眩しいくらいの笑顔を向けられて、私も学園祭が楽しみになった。


 翌日。学校に行くと愛見さんたちからも、どちらの班になるのか希望を聞かれた。接客班をやりたいと伝えると

「良かった! 池田さんが接客班を選んでくれて!」

 なんで愛見さんたちが喜ぶんだろうと疑問だったが

「実は森の動物カフェは光城君のための企画なんだ! 池田さんの可愛い森の動物姿を、光城君に見せてあげたくて!」

 まさかクラスの出し物が私たちのために私物化されていたとは知らず、私は目を丸くした。何をどうしたら、自分の好きな人に、他の女の可愛い恰好を見せてやろうと思うのだろう。相変わらず愛見さんたちの誠慈君に対する無償の愛がすごい。

 それにしても

「なんで森の動物なの?」

 男受けを狙うなら、それこそメイド服とか、もっと他の恰好がありそうだ。少なくとも森の動物たちの仮装が、男子にとって堪らない恰好だと聞いたことは無いが

「池田さんは普段から小動物っぽいから、魅力を最大限に生かせるかなって! 光城君目線で考えてみたんだ!」

 彼女たちの善意100%の笑顔を見たら、ズレているんじゃないかとは言えなかった。


 それにしても衣装もお菓子も内装も全て手作りとなると、作業負担が大変だ。去年の学園祭は私をはじめ、クラスの人たちみんなやる気が無くて、仕事の押し付け合いのようになっていた。今はすごくウキウキした楽しいムードだけど、やりはじめたら大変でギスギスしないか不安だった。

 けれど、このクラスは誠慈君を中心にものすごく団結力がある。

「光城君の喜ぶ顔が見たい!」

 と燃えている愛見さんたちもそうだけど

「女子は衣装作りで大変だから、内装はなるべく俺たちでがんばろう」

 と誠慈君の先導で男子も協力的だった。
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