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お部屋デート編

気づいた気持ち(嘉門視点)

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 夜の8時から6時間ゲームして今は深夜2時。流石にそろそろ帰らなければいけない時間だが

「本当に泊っていいんですか?」
「うん。と言うか、むしろ泊って。こんな遅くに車で帰るのは心配だから」

 運転が苦手な丸井さんは、ただでさえ視界が悪い夜間に、眠い状態で車に乗るのは危険だと俺を引き留めた。

 確かに悪条件が重なってはいるが、俺は運転が得意なので別に危険だとは思わない。眠気についても1日くらいの徹夜なら平気なので問題ない。

 でも丸井さんが泊まれと言ってくれるなら、泊まりたい気持ちはものすごくある。変な意味では無く、丸井さんの傍は心地いいので、もっと一緒に居たい。

「じゃあ、いいですか? お言葉に甘えても」
「うん。歯ブラシなら替えがあるから大丈夫。お風呂も良かったら入っていって」

 普通は同年代の異性に「泊まって行け」「風呂に入れ」と勧められたら少しは下心を疑う。しかし丸井さんの場合は、親戚の子どもに風呂を勧めるように親切な態度だった。

 俺は丸井さんの浴室で

(もしかして俺は男だと思われていない……?)

 湯船に浸かりながら少し考えた。確かに俺は図体の割に、あまり男っぽくないかもしれない。外見的にも父よりは母似の女顏だが、何より中身が。

 人は興味や欲望の対象によって、自分が男性的か女性的か判断する。俺は他人に対して興味や欲望が薄いせいか、自分に男っぽさや女っぽさを感じることも無かった。

 だから人から性的な目で見られるのも苦手だった。汚らわしいというのではなく、俺にはそういう原始的な情熱が欠けているので、期待に応えられないことが心苦しかった。

 その点、丸井さんは俺と異性としてではなく、人として付き合ってくれる。そういうところが好きで安心していたはずなのに

(丸井さんに意識してもらえないのは寂しい気がする)

 異性として意識されていないからこそ、こうして家に呼ばれて泊まりまで許してもらえるのに。俺はわざわざ警戒されたいのだろうか? ……自分の思考が謎だと、首を傾げながら風呂を出た。

 自分の服を着直して出て来た俺に、丸井さんはすまなそうに眉を下げて

「ゴメンね。貸してあげられる服が無くて。男っ気が無いもので」
「いえ。体を洗うだけでもサッパリしましたから」

 俺の返答に、丸井さんは何を思ったのかスッとこちらに近づくと

「嘉門君。男の人なのに全く臭くないどころか、いい匂いがするからすごい」

 胸元に顔を寄せてクンクンと匂いを嗅がれる。なぜか心臓が変な跳ね方をして

「……流石に近いです」
「あっ、ゴメン。嫌だった?」

 幸い丸井さんはすぐに身を引いてくれたが

「……嫌とかじゃなくて、油断しすぎじゃないかと」
「油断って?」
「……いくら先輩後輩の仲だからって、夜に男と2人きりで、そんな無防備に振る舞ってはダメです」

 丸井さんへの注意のはずが、俺のほうが急にこの状況を意識してしまう。問題なのは年齢や性別の組み合わせではなく犯意だ。どちらかにその気が無ければ、別に男女だろうが何も起こらないから、いいだろうと考えていた。

 だけど今は

「ん~。確かに嘉門君は今をときめくイケメン俳優だけど、相手が私じゃ絵にならないかと」

 見るからに人のよさそうな可愛い顔に、ふっくらと柔らかそうな体。何かあっても、ろくに抵抗できないだろう小さな手。

 触りたいと欲望を誘うものが、無防備に目の前にある。理不尽だと思っても、丸井さんの無防備さに少しイライラして

「映画じゃあるまいし、人からどう見えるかなんて関係無いですよ。俺は男で丸井さんは女性なんですから、気をつけてください」

 少し強く言うと、丸井さんはなぜか顔を赤くして

「ひゃ、ひゃい」

 その動揺の仕方に、また変な風に胸が騒ぐ。テレビでもマイチューブでも見せない顏。俺しか知らない特別な表情。そういう顔を、もっと見たくなる。

 気づけば見つめすぎていたようで、丸井さんは少したじろいだように

「か、嘉門君?」

 俺はハッと我に返ると

「……なんでもありません。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」

 俺と違って丸井さんの部屋には、たまに友だちが泊まりに来るようで予備の布団があった。でも親切な丸井さんは友だちにベッドを貸して、自分が予備の布団を使うようだ。

 ベッドと布団のどちらを貸してもらっても丸井さんの匂いがして、ずっと目を背けていた本心を自覚させられた。

(……丸井さんに触れたい)

 あの柔らかそうな体を思い切り抱きしめて、手や指や唇で、彼女の全身に触れてみたいと。
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