14 / 16
お部屋デート編
気づいた気持ち(嘉門視点)
しおりを挟む
夜の8時から6時間ゲームして今は深夜2時。流石にそろそろ帰らなければいけない時間だが
「本当に泊っていいんですか?」
「うん。と言うか、むしろ泊って。こんな遅くに車で帰るのは心配だから」
運転が苦手な丸井さんは、ただでさえ視界が悪い夜間に、眠い状態で車に乗るのは危険だと俺を引き留めた。
確かに悪条件が重なってはいるが、俺は運転が得意なので別に危険だとは思わない。眠気についても1日くらいの徹夜なら平気なので問題ない。
でも丸井さんが泊まれと言ってくれるなら、泊まりたい気持ちはものすごくある。変な意味では無く、丸井さんの傍は心地いいので、もっと一緒に居たい。
「じゃあ、いいですか? お言葉に甘えても」
「うん。歯ブラシなら替えがあるから大丈夫。お風呂も良かったら入っていって」
普通は同年代の異性に「泊まって行け」「風呂に入れ」と勧められたら少しは下心を疑う。しかし丸井さんの場合は、親戚の子どもに風呂を勧めるように親切な態度だった。
俺は丸井さんの浴室で
(もしかして俺は男だと思われていない……?)
湯船に浸かりながら少し考えた。確かに俺は図体の割に、あまり男っぽくないかもしれない。外見的にも父よりは母似の女顏だが、何より中身が。
人は興味や欲望の対象によって、自分が男性的か女性的か判断する。俺は他人に対して興味や欲望が薄いせいか、自分に男っぽさや女っぽさを感じることも無かった。
だから人から性的な目で見られるのも苦手だった。汚らわしいというのではなく、俺にはそういう原始的な情熱が欠けているので、期待に応えられないことが心苦しかった。
その点、丸井さんは俺と異性としてではなく、人として付き合ってくれる。そういうところが好きで安心していたはずなのに
(丸井さんに意識してもらえないのは寂しい気がする)
異性として意識されていないからこそ、こうして家に呼ばれて泊まりまで許してもらえるのに。俺はわざわざ警戒されたいのだろうか? ……自分の思考が謎だと、首を傾げながら風呂を出た。
自分の服を着直して出て来た俺に、丸井さんはすまなそうに眉を下げて
「ゴメンね。貸してあげられる服が無くて。男っ気が無いもので」
「いえ。体を洗うだけでもサッパリしましたから」
俺の返答に、丸井さんは何を思ったのかスッとこちらに近づくと
「嘉門君。男の人なのに全く臭くないどころか、いい匂いがするからすごい」
胸元に顔を寄せてクンクンと匂いを嗅がれる。なぜか心臓が変な跳ね方をして
「……流石に近いです」
「あっ、ゴメン。嫌だった?」
幸い丸井さんはすぐに身を引いてくれたが
「……嫌とかじゃなくて、油断しすぎじゃないかと」
「油断って?」
「……いくら先輩後輩の仲だからって、夜に男と2人きりで、そんな無防備に振る舞ってはダメです」
丸井さんへの注意のはずが、俺のほうが急にこの状況を意識してしまう。問題なのは年齢や性別の組み合わせではなく犯意だ。どちらかにその気が無ければ、別に男女だろうが何も起こらないから、いいだろうと考えていた。
だけど今は
「ん~。確かに嘉門君は今をときめくイケメン俳優だけど、相手が私じゃ絵にならないかと」
見るからに人のよさそうな可愛い顔に、ふっくらと柔らかそうな体。何かあっても、ろくに抵抗できないだろう小さな手。
触りたいと欲望を誘うものが、無防備に目の前にある。理不尽だと思っても、丸井さんの無防備さに少しイライラして
「映画じゃあるまいし、人からどう見えるかなんて関係無いですよ。俺は男で丸井さんは女性なんですから、気をつけてください」
少し強く言うと、丸井さんはなぜか顔を赤くして
「ひゃ、ひゃい」
その動揺の仕方に、また変な風に胸が騒ぐ。テレビでもマイチューブでも見せない顏。俺しか知らない特別な表情。そういう顔を、もっと見たくなる。
気づけば見つめすぎていたようで、丸井さんは少したじろいだように
「か、嘉門君?」
俺はハッと我に返ると
「……なんでもありません。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
俺と違って丸井さんの部屋には、たまに友だちが泊まりに来るようで予備の布団があった。でも親切な丸井さんは友だちにベッドを貸して、自分が予備の布団を使うようだ。
ベッドと布団のどちらを貸してもらっても丸井さんの匂いがして、ずっと目を背けていた本心を自覚させられた。
(……丸井さんに触れたい)
あの柔らかそうな体を思い切り抱きしめて、手や指や唇で、彼女の全身に触れてみたいと。
「本当に泊っていいんですか?」
「うん。と言うか、むしろ泊って。こんな遅くに車で帰るのは心配だから」
運転が苦手な丸井さんは、ただでさえ視界が悪い夜間に、眠い状態で車に乗るのは危険だと俺を引き留めた。
確かに悪条件が重なってはいるが、俺は運転が得意なので別に危険だとは思わない。眠気についても1日くらいの徹夜なら平気なので問題ない。
でも丸井さんが泊まれと言ってくれるなら、泊まりたい気持ちはものすごくある。変な意味では無く、丸井さんの傍は心地いいので、もっと一緒に居たい。
「じゃあ、いいですか? お言葉に甘えても」
「うん。歯ブラシなら替えがあるから大丈夫。お風呂も良かったら入っていって」
普通は同年代の異性に「泊まって行け」「風呂に入れ」と勧められたら少しは下心を疑う。しかし丸井さんの場合は、親戚の子どもに風呂を勧めるように親切な態度だった。
俺は丸井さんの浴室で
(もしかして俺は男だと思われていない……?)
湯船に浸かりながら少し考えた。確かに俺は図体の割に、あまり男っぽくないかもしれない。外見的にも父よりは母似の女顏だが、何より中身が。
人は興味や欲望の対象によって、自分が男性的か女性的か判断する。俺は他人に対して興味や欲望が薄いせいか、自分に男っぽさや女っぽさを感じることも無かった。
だから人から性的な目で見られるのも苦手だった。汚らわしいというのではなく、俺にはそういう原始的な情熱が欠けているので、期待に応えられないことが心苦しかった。
その点、丸井さんは俺と異性としてではなく、人として付き合ってくれる。そういうところが好きで安心していたはずなのに
(丸井さんに意識してもらえないのは寂しい気がする)
異性として意識されていないからこそ、こうして家に呼ばれて泊まりまで許してもらえるのに。俺はわざわざ警戒されたいのだろうか? ……自分の思考が謎だと、首を傾げながら風呂を出た。
自分の服を着直して出て来た俺に、丸井さんはすまなそうに眉を下げて
「ゴメンね。貸してあげられる服が無くて。男っ気が無いもので」
「いえ。体を洗うだけでもサッパリしましたから」
俺の返答に、丸井さんは何を思ったのかスッとこちらに近づくと
「嘉門君。男の人なのに全く臭くないどころか、いい匂いがするからすごい」
胸元に顔を寄せてクンクンと匂いを嗅がれる。なぜか心臓が変な跳ね方をして
「……流石に近いです」
「あっ、ゴメン。嫌だった?」
幸い丸井さんはすぐに身を引いてくれたが
「……嫌とかじゃなくて、油断しすぎじゃないかと」
「油断って?」
「……いくら先輩後輩の仲だからって、夜に男と2人きりで、そんな無防備に振る舞ってはダメです」
丸井さんへの注意のはずが、俺のほうが急にこの状況を意識してしまう。問題なのは年齢や性別の組み合わせではなく犯意だ。どちらかにその気が無ければ、別に男女だろうが何も起こらないから、いいだろうと考えていた。
だけど今は
「ん~。確かに嘉門君は今をときめくイケメン俳優だけど、相手が私じゃ絵にならないかと」
見るからに人のよさそうな可愛い顔に、ふっくらと柔らかそうな体。何かあっても、ろくに抵抗できないだろう小さな手。
触りたいと欲望を誘うものが、無防備に目の前にある。理不尽だと思っても、丸井さんの無防備さに少しイライラして
「映画じゃあるまいし、人からどう見えるかなんて関係無いですよ。俺は男で丸井さんは女性なんですから、気をつけてください」
少し強く言うと、丸井さんはなぜか顔を赤くして
「ひゃ、ひゃい」
その動揺の仕方に、また変な風に胸が騒ぐ。テレビでもマイチューブでも見せない顏。俺しか知らない特別な表情。そういう顔を、もっと見たくなる。
気づけば見つめすぎていたようで、丸井さんは少したじろいだように
「か、嘉門君?」
俺はハッと我に返ると
「……なんでもありません。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
俺と違って丸井さんの部屋には、たまに友だちが泊まりに来るようで予備の布団があった。でも親切な丸井さんは友だちにベッドを貸して、自分が予備の布団を使うようだ。
ベッドと布団のどちらを貸してもらっても丸井さんの匂いがして、ずっと目を背けていた本心を自覚させられた。
(……丸井さんに触れたい)
あの柔らかそうな体を思い切り抱きしめて、手や指や唇で、彼女の全身に触れてみたいと。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
大切だった友達に媚薬を盛ったら、怖いくらい溺愛されています。彼が勧めてくれたお茶からも同じ香りがしていたのは気のせいかな。
下菊みこと
恋愛
媚薬を盛ったらとんでもなく愛されたお話。
マルスリーヌは友人、エルキュールに媚薬を盛る。エルキュールと結婚して、多額の結納金を実家に納めてもらうためだ。けれど肝心のエルキュールは、媚薬を入れた紅茶の香りを嗅いだだけで飲んでないのに媚薬が効いてしまった。マルスリーヌは困惑するも開き直るしかなかった。
小説家になろう様でも投稿しています。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています
中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる