花の舞散る季節

色音花絵

文字の大きさ
上 下
72 / 101
季節五 冬

七と兄弟

しおりを挟む
 顔が似ているだけだというのに、何故こんなにも緊張してしまうのだろうか。七は空に手を引かれながら、彼の後ろ姿を見詰めて、そんなことを考えていた。散々連れ回された挙句、空は一室の襖の前で立ち止まった。振り向くと七が息を乱しているのに気付き、二人の目線の高さが同じになるように、空は腰を落として優しく言葉を掛ける。
「大丈夫か? すまない、無理矢理に引っ張って」
「いいよ。…それより弟達がいるんでしょ? 早く行かなきゃ」
 七はそう言ったが、自分から襖を開けようとはしなかった。七に背を向けて腰を上げると、空が一気に襖を引く。襖の向こうには、確かに空の弟の二人がいた。これまた蒼と空と瓜二つの顔であった。そんな二人がぽかんと口を開けて七を見詰めていた。
「…誰だよ」
「こんにちはー」
 二人は対照的に、しかし同時に言葉を発した。一人は辛気臭そうな顔だが、もう一人は笑顔である。そんな二人を見て、空が苦笑したのが見えた。
「明るいのが音、性格が悪そうなのが歴だ。随分似てない双子だよな」
 空が大ざっぱに説明する。それだけの情報で、七は何方が何方か理解出来た。これだけの情報で見破ることの出来る双子というのも、そうそう居ないのではないだろうか。七は珍しい物を見るように、二人を交互に見やった。
「そして、この人は七。蒼の幼馴染…だったよな?」
 七は二人から空に視線を移すと、後ろ手に襖を閉め、首を縦に振った。更に、少しばかりの説明を付け加える。
「あたしは陰陽師を生業としてるの。多分貴方達は知らないだろうけど、あたしが十歳…だから、蒼が十歳の時からここで働いてるわ」
 急に辺りが静まり返った。陰陽師の話をしたからか、年の話をしたからか、きっとそれは後者だと考えられる。音が聞きにくそうに尋ねた。
「…えーと、七さん? つまり、今何歳…?」
「二十七歳だけど…」
 年齢を告げると、やはり沈黙が続いた。かと思うと、歴――だと思われる双子の片割れ――が笑い出した。嘘だと思われてしまったのか、そう思った七が抗議する。ここで、この二人と同年代か年下だと思われてしまうのは避けたい。
「あたしは本当に…!」
「分かってる。…その、真剣な顔がさ、少し面白くて」
 その言葉で、七を除いた三人が同時に声を上げて笑い出した。どちらにしても失礼な人ね、と思いながら、七はその場に腰を下ろした。それに倣うようにして、笑うのを止めた空も、立っていた場所に座り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

三賢人の日本史

高鉢 健太
歴史・時代
とある世界線の日本の歴史。 その日本は首都は京都、政庁は江戸。幕末を迎えた日本は幕府が勝利し、中央集権化に成功する。薩摩?長州?負け組ですね。 なぜそうなったのだろうか。 ※小説家になろうで掲載した作品です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...