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季節五 冬
謎の書
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あれからまた時は過ぎて、白い雪の舞う、寒さの厳しい冬へと季節は変わっていった。そんなある日、春は八歳の時に地下室で見つけた、あの書を久しぶりに開いていた。
「一一〇五年、娘が生まれる。一一一三年、陰陽師と会う。一一一四年、刺客に襲われ、殺されかける」
春はまた、それを口に出して読んだ。あの時から、何も変わらない。新たに書かれることなど無く、また、その文章が消えることもなかった。それが当たり前と言われれば、返す言葉は無い。しかし、春はそんなことが起きてもおかしくはないと思っていた。
そもそも、本当に春の未来が書かれているのだとすれば、新しいことが書かれていても不思議ではない。寧ろその方が当たり前ではないのか。しかし、この書にはもう過去のことしか書かれていない。
ならば、この書の目的とは、一体何なのだろう。それに何故、この書の題名が「百鬼夜行の封じ方」なのか。そして、この書は何の為に七の部屋の地下室にあったのか。数え切れない程、この書には謎が多かった。
「春」
不意に名前を呼ばれ、春は我に返った。どうやら考えているうちに夢中になっていたらしい。いつの間にか部屋に人が入ってきたことにも気が付かないくらいに。姿を見ずとも声だけで分かる、その人の名前を呼んだ。
「……蒼。どうされましたか?」
「その書、どこにあった?」
聞かれた質問の内容に驚いて振り返ってみれば、蒼は突っ立ったままで、春の持つ書に目が釘付けになっていた。その顔を一瞬見ると、いたたまれない気持ちになって、春はすぐに視線を逸らした。言いにくそうに質問に対する言葉を返す。
「…七の部屋です」
「私は七の部屋で見たことはない」
蒼が即答する。そう、蒼だって七の部屋に入ったことは何度もあるのだ。予想が出来ていた答えに春は一瞬躊躇ったが、今度は蒼の顔を真っ直ぐに見て言った。
「……正確に言うのであれば、七の部屋の地下室です」
「地下室……? そんなものが……?」
蒼はそう言ったきり、押し黙ってしまった。春は書に関して何か知っているのか聞きたかったが、今の蒼に聞くことは躊躇われた。
「……春、その表紙見せてくれないか?」
「へ?」
暫くして、突然蒼が言葉を発したので、春は思わず変な声を出していた。何かを言われたのだと気付いた春はとにかく謝ったが、蒼は何も気にしていない様子で、書を見せてくれともう一度繰り返した。いつの間にか手が赤くなってしまう程握り締めていた書を、蒼に手渡す。
「…はい、どうぞ」
「やはり、これは…」
蒼は一人納得して、うんうんと頷いている。何がどう納得しているのか解らず、春は先程からずっと気になっていた疑問を口にした。
「その書のこと、何かご存知なのですか?」
「一一〇五年、娘が生まれる。一一一三年、陰陽師と会う。一一一四年、刺客に襲われ、殺されかける」
春はまた、それを口に出して読んだ。あの時から、何も変わらない。新たに書かれることなど無く、また、その文章が消えることもなかった。それが当たり前と言われれば、返す言葉は無い。しかし、春はそんなことが起きてもおかしくはないと思っていた。
そもそも、本当に春の未来が書かれているのだとすれば、新しいことが書かれていても不思議ではない。寧ろその方が当たり前ではないのか。しかし、この書にはもう過去のことしか書かれていない。
ならば、この書の目的とは、一体何なのだろう。それに何故、この書の題名が「百鬼夜行の封じ方」なのか。そして、この書は何の為に七の部屋の地下室にあったのか。数え切れない程、この書には謎が多かった。
「春」
不意に名前を呼ばれ、春は我に返った。どうやら考えているうちに夢中になっていたらしい。いつの間にか部屋に人が入ってきたことにも気が付かないくらいに。姿を見ずとも声だけで分かる、その人の名前を呼んだ。
「……蒼。どうされましたか?」
「その書、どこにあった?」
聞かれた質問の内容に驚いて振り返ってみれば、蒼は突っ立ったままで、春の持つ書に目が釘付けになっていた。その顔を一瞬見ると、いたたまれない気持ちになって、春はすぐに視線を逸らした。言いにくそうに質問に対する言葉を返す。
「…七の部屋です」
「私は七の部屋で見たことはない」
蒼が即答する。そう、蒼だって七の部屋に入ったことは何度もあるのだ。予想が出来ていた答えに春は一瞬躊躇ったが、今度は蒼の顔を真っ直ぐに見て言った。
「……正確に言うのであれば、七の部屋の地下室です」
「地下室……? そんなものが……?」
蒼はそう言ったきり、押し黙ってしまった。春は書に関して何か知っているのか聞きたかったが、今の蒼に聞くことは躊躇われた。
「……春、その表紙見せてくれないか?」
「へ?」
暫くして、突然蒼が言葉を発したので、春は思わず変な声を出していた。何かを言われたのだと気付いた春はとにかく謝ったが、蒼は何も気にしていない様子で、書を見せてくれともう一度繰り返した。いつの間にか手が赤くなってしまう程握り締めていた書を、蒼に手渡す。
「…はい、どうぞ」
「やはり、これは…」
蒼は一人納得して、うんうんと頷いている。何がどう納得しているのか解らず、春は先程からずっと気になっていた疑問を口にした。
「その書のこと、何かご存知なのですか?」
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