花の舞散る季節

色音花絵

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季節二 冬

傷跡

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 家に戻ってから数日が経った頃、蘭がしつこい程に何度も同じことを繰り返し言うようになっていた。心配して言ってくれているのだろうが、春にとっては有難迷惑に感じる言葉でしかない。
「春様、傷跡を見せてください」
「い、いいよ、もう痛くないし。こんなの、見せるようなものでも無いから」
 蘭にさえも、傷跡が無くなった話はしていなかった。それが知られたなら、きっと、蘭であろうと、春を不気味に思うだろう。一番身近にいる蘭には、特にそう思って欲しくなかった。しかし、今日の蘭はなかなか引き下がらない。いつものように、どうにか言い訳して逃れようとしたが、今日はそれさえも蘭は納得しなかった。
 もうこれ以上の言い逃れは無理だと判断した春は、観念して着物の帯を解き始めた。蘭が心配そうに見詰めながら、その動作を息を詰めて見守る。着物が肌から離れると、胸の少し上辺りから腹にかけてにかけて、ぐるぐる巻きにした包帯が姿を現した。
「蘭。驚かないでね…?」
 春が包帯の先端部分から、ゆっくりとそれを外していく。その下に現れた肌を見て、蘭がはっと息を呑んだ。蘭が望んで包帯を取ったのに、春は何故だか申し訳ない気持ちになってしまった。恥ずかしさやら、申し訳なさから、蘭の顔を直視することが出来ない。
「…やはり、あなたは…」
 一言呟いて、蘭ははっとして口を噤んだ。しかし、気付いた時にはもう遅い。蘭の口から声が出て、更に春の耳にそれが届いてしまった以上、何も言っていないと言うことは出来ないのだ。当然、聞こえてしまった春は、その意味が気になって仕方が無い。
「何、知ってるの? ねぇ、蘭。分かってるなら、教えて。これは……一体どういうことなの?」
「……あなたのご両親から、成人するまでは絶対に言わぬように、と言われております。……申し訳ございません、春様」
 そう言われて、春は説き伏せられた。自分の両親のことを出されてしまえば、何も言えないのを分かっているのか、それとも本当にそういう話をされているのか。春にはどちらか分からなかったが、それ以後幾ら聞いても、蘭からはそれ以外の返答は無く、聞く度に謝られるだけなのだった。
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