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funny girl cecile at
しおりを挟む天使クリスタさん
元々、クリスタさんは
天使になりたかった訳でもなくて
ただ、向いているから
神様に呼ばれた、そういう事。
あまり欲がある訳でもない、ふつうの人間だった
クリスタさんは
そんなに裕福でもなく、さりとて貧しくもない
ヨーロッパのどこかの村に、昔生まれて。
そんな暮らしをしていたので
天使さん向き、と
時が来た時に、神様に呼ばれたのだった。
今は、天使さんを退職若いして
地上に降りているけれど
それは、元悪魔のにゃご、が
クリスタさんに救いを求めたからだったりする。
にゃごが、長い時を経て
いつか、神様のお気にめされるまで。
長い時を、にゃごと共に
過ごしていく事を選ぶ。
そんな、欲のないクリスタさんは
天使さん。
めぐと、ミシェルの
ふたり、素直に
欲を持ってる事を表す事を
天使として、ふんわりと眺める。
羨望、なんて感情は
天使さんにはないから(笑)
傍観するのみ、である。
その夜、めぐのおばあちゃんは
御馳走を作って待っていて。
人間になったルーフィーが
美味しいものを味わうって楽しさに
出会えるように。
そんな、晩餐のあと
お屋根でのんびりしているルーフィーに
声を掛けて。
おばあちゃんのお部屋に呼び入れた。
「マダムのお部屋に夜、憚られますね」と
ルーフィーは軽妙だ。
おばあちゃんは笑って
「人間の言葉ね、それは。実感できるわ」と。
ルーフィーも楽しそうに「人間は楽しい事も多いです」
おばあちゃんは、静かに微笑み「めぐは、2どめの人生を歩んでるのは覚えてる?」
ルーフィーは、頷く。
おばあちゃんは、静かに
窓辺の緑、生い茂ったそれは
地面から生えているかのような
鉢の葉に触れながら
「なぜか、めぐは
魔界の方から好まれるのね。そちらの世界に
連れて行ってしまうには、人間としての
生命を絶たないとならない。それで
魔物は、めぐを我が物としようとした。
それは、掟破りなので魔王がそれを止めた。
クリスタさん、その頃は普通の天使だったのに
めぐを守護してくれて。
クリスタさんも、悪魔くんに好かれるあたりは
波長が似ているのね、めぐと」おばあちゃんは
思い出のお話をしながら
過去を懐かしんだ。
「なんか、悪魔くんに好かれる理由があるのかな、クリスタさんといい」と、ルーフィは
言った。
おばあちゃんは、にこにこ。
「そうねぇ。かわいいものね。クリスタさんは
めぐにそっくりだし。それでにゃごちゃんが
救われたのはいい事なのでしょうね」
にゃごは、人間世界で辛い事があって
命を落とした少年だった。
地獄から魔世界へ行き、人間世界へ出てきて
クリスタさんに出会った。
「めぐちゃんが魔法を使えるせいかな」
「いくらか、あるかもしれないわね。
魔法、と言ってもわたしたちの魔法は
魔世界と関係はないのだけれども。
魔法が使われる時、空間の歪みが
少し変に思われるのかもしれないわね」と
おばあちゃんは言った。
「クリスタさんには、にゃごがついているから
悪魔たちは近づけないけれど、めぐちゃんには
誰もついてないから、悪魔に誘惑されたら
また」ルーフィは案ずる。
それで、一度めぐは命を落としたのだった。
なぜか、魔王がその悪魔を退治したのだけれども。
「ルーフィさんがこちらにいらしたのも
ご縁なんでしょうね」と、おばあちゃんは
にこにこ。
明くる朝、ルーフィは
朝早く、起きて
屋根の上から、遠い水平線を眺めていた。
丘の上のめぐの家からは、図書館のある通りや
駅の方のケーブルカー、大きな川や
海、遠い岬も見える。
三角屋根の稜線に腰掛けて、そらを見ていた
ルーフィは、ある思いつきをして
屋根から、ふわりと宙に舞い
それから、自分の凧を魔法で取り出して
ハンググライダーのように、風に乗った。
「これなら、魔法使いだとは思われないかな」
解るのは、魔法を使える人が気配で感じるだけだろう。
空間が歪む時、その重力場の微妙なエネルギーが
そう感じられるのは
同じく、空間を歪めて飛翔できる者だけだ。
「でも、昇ったら風を掴んで飛ぶ方が
楽しいな」と、ルーフィも思う。
鳥が、飛ぶ為だけの為に
他の総ての機能を捨てているように
飛ぶ事は、それだけで楽しい。
もし、鳥人間が居たら
きっと、進化せずにずっと鳥のままで
いただろう。
そんな風にルーフィは夢想した。
翼を右に傾けると、ゆっくりと旋回して
そのまま、風を受けると翼は仰ぎ、空に立ち上る。
風が頬をすり抜けるようなこんな感覚は
凧ならではのもので
飛行機なら、目が疲れてしまう。
ルーフィは、魔法を一瞬使ったけど
その後は、翼の傾きだけで凧を操縦した。
その一瞬の魔法が、地上にいたにゃご、や
めぐには伝わる。
空間が歪んだのだ。
瞬間的に質量を減らすと、重力が
かからなくなるので、飛び上がる時
ルーフィの上下の空間が歪む。
それを、感じ取れる魔法使いは
解る。
人ひとり浮き上がるエネルギーは結構大きいのだ。
「ルーフィさん、どこへいくの?」めぐは
まどろみながら。
にゃごは、廊下の椅子で丸まって
「悪い奴に捕まるなよ」と、心配。
多分に人間のイメージが入っているが
悪魔が、悪いと言う感覚は
人が基準になっている信仰的なものだ。
宗教を広める上で、悪い事をすると
地獄に堕ちて悪魔に仕置きを受ける(笑)とか
そんな感じのものであるから
悪魔たちは、元々なりたくて悪魔になった訳絵でもない(にゃごがいい例だ)。
大抵は人間世界に適応できなくて
悪魔世界に来た。
天使も同じである。
人間世界よりも、天国の方に
向いていたので呼ばれた、と
プロスポーツ選手のようなものである。
悪魔と言う言葉のイメージのせいか
おどろおどろしい感じもあるが
嘘つきな人間よりむしろ、正直に
感情を表すので
それで、争いになってしまう、なんて
ところもある(笑)。
それでも、地獄に堕ちてくる人間よりは
エリートである(笑)。
力を持ち、使うべき時を弁えているから
悪魔として存在でき
例えば、めぐを狙った悪魔は
魔王に退治されてしまうが
それは、人間世界の領域を侵したからである。
今、めぐの国からは
異世界への交通は出来なくなっているので
さほど案ずる事もない。
別の国では、そうでもないので
そこは思案である。
「なんで、蛸に乗るの?」と、めぐは
ルーフィに尋ねるけど
「凧ね、日本語だと一緒だけど」と
楽しそうに笑う。
「蛸に乗れたら楽しそうです」と、めぐは
恥ずかしそうに笑う。
ルーフィも、蛸に乗って飛んでいる姿を
想像して、笑顔になってしまった。
「そういう風船があるよね。日本の」と
ルーフィは、日本に帰ってしまった
ななを思い出しながら。
どうして、空を飛ぶのに凧なのか、と言うと
なんとなく、飛行機乗りがカッコイイと
思っただけだった。
魔法で飛べば簡単なのだけど。
機械を操る事が、楽しいと思うのは
どこか、少年じみた趣味。
でも、それが男なんだろう。
過去からの旅人のルーフィは
夢に見るような、プロペラの飛行機で
空を飛んでみたかった。
いつか、そんな旅をしてみたいと。
ルーフィーは、魔法使いなのに
機械が好きだ。
屋根も好きだけど。
めぐの家の農機具小屋で、古いエンジンを
見つけて。
「なんだろう?」
ひとりの朝である。
小さなシリンダのヘッドに、丸い玉が付いていて
なにやら、煤けた跡。
重そうな弾み車。
「何かの辞典で見たことがあるな」
ボードのエンジンかな?
弾み車に触れて、揺すってみると
ピストンが、空気を切る音がして。
勢いを付けて回してみると
蒸気機関のような音。
しゅぽしゅぽしゅぽ。
「いい音。」
機械の音に喜ぶのは、男の子だからかと
そんな風に思っていたら
めぐが「ルーフィーさん、おはようございます。」
ああ、おはようめぐちゃん、と
ルーフィーはにっこり。
そんな、他愛がない事でも
めぐは、胸が暖かくなる。
すこしときめきながら
「エンジンですね。」
そういえば、めぐは理系少女でもあった。
「そうだね。これ、どうやって動かすの?」
ルーフィーは、楽しそうに尋ねる。
めぐは「えっと、確か、そこのボウルを
熱くして、それで燃料を一滴、一滴。
蒸発させて、シリンダに吸い込んで。」
「そうか!圧縮して爆発すると、ボウルが
熱くなるから、燃料を蒸発できるんだね。」と
ルーフィーは、そこまで言うと
エンジンを掛けたくなってきた。
「燃料はなんでもいいのかな?」
「はい。ストーブの灯油でも」
めぐは、そんな
普通の会話でも、なんとなくうれしい。
楽しい。
そんなものだけど。別に理由がないけど
好きってそんな気持ち。
灯油を、とりあえずタンクらしきところに
入れて
手動ポンプで、圧力を掛けた。
エンジンが回れば、機械のポンプが回る。
旧式の焼玉エンジンは、電気がいらない。
それで、長く使われてきたのだが
ディーゼルエンジンに変わられた。
でも、いいところも多い。
雑燃料でも回る、機械として堅牢。
ガソリンが
入ってこなくなれば、いずれ
焼玉エンジンも役に立つ。
それから、水をタンクに入れた。
シリンダの冷却に、水を滴下させるのである。
「えーと、バーナー、かな」
ルーフィは、あたりを見回す。
「草焼のがあります」と、めぐは
ケロシンバーナーを持ってきた。
ルーフィは、バーナーの太鼓についている
手押しハンドルを数回押して、それから
わずかにバルブを開き、霧吹きの先端を
天に向けて、油でバーナーの先端を濡らし
そこに、ライターで火を付けた。
めぐが、図書館にいかない時は
クリスタさんが、代わりにアルバイト。
見た目、よく似てるので
図書館の人でも、よく間違える。
そんな図書館に、なぜかセシルがやってきて
クリスタさんに、受付カウンターで会うのだけど
いつもの、元気なセシルとちょっと違ってて
しおらしく「アルバイトをしてみたいです、」
クリスタさんは、柔和に微笑み、主任さんに
お話。
大きな瞳と、柔らかい髪、
天使さんなので、質量がない(笑)から
ふわふわとした存在感は、誰にも
真似できない。
その、振る舞いは
よく似てるめぐにも、ちょっとかなわないほど
素敵ね、と(笑)
思うところ。
セシルも、そんな風に眺める。
クリスタさんの、すらりとした長身は
ちょっと小柄なセシルからすると、憧れる
感じ。
でも、男の子から見るといろいろで
元気でにこにこなセシルがかわいい、と
思う男の子もいるだろう。
ただ、セシルの思い人の
ミシェルは、めぐ、みたいな感じの
お姉さんに憧れている、って
そんなところ。
気持ちって不思議なのだ。
セシルは、なんとなく
ミシェルの思いひと、めぐのバイト先の
図書館でバイトすれば、ミシェルの
気持ちが解るかな、とか思ってた
けど。
めぐは、あんまりバイトに来なくて
代わりにクリスタさんが来ているのだけれども
天使さんだから、ふんわり、ふわふわ
優しげで。
「ミシェルったら、クリスタさんの方がいいのに」
なんて、思ったりするセシルは
ふつうの女の子。
ミシェルの気持ちは、特別なの。
似てる天使さんでも、好きか、は別。
そういうものなの。
セシルは元気で、図書館にはちょっと
似合わないくらいの笑顔で
「いらっしゃいませー、は、変ね」と、笑うと
クリスタさんも笑顔。
「こんにちは」と、笑顔のセシルは
割と事務的なのがふつうの図書館では
ちょっと目立つ。
短く切り揃えた綺麗な髪は、かわいらしく
ミシェルが、どうしてセシルの気持ちに
答えないのか、不思議なくらい。
その愛らしさは、図書館の利用者、特に
男の子たちの人気を集めたりするのだけど
若い男の子たちは、ヌード芸術写真とかを
借りれなくて困ったりして(笑)。
図書館の受付
貸出と返却は、今はコンピュータになったから
楽。
それでも、受付は
本そのものを扱うから
昔ながらの手仕事。
人に会うから、ちょっと出会いもあったりするけれど
あんまり可愛い子が受付だと、困ったりする事もあったり。
セシルは、明るい子で
誰にでも優しいから
普通、受付って
割と事務的で、もの静かなんだけど
「こんにちは。」とか言って
視線を合わせて挨拶したりすると
男の人の中には、その視線に
恋を覚えたり、好感を持ったり(笑)。
誤解なのだけど、セシルが
自分に好意を持っているのかな(笑)
なんて、思ったりして
ときめいたりする男の人もいる。
そのひとり、ルグランは
54才の男。
だけれども、見た目は40才くらいに見えて
82才の母と暮らしている。
耳の遠いお母さんと一緒に、にこにこしながら
ゆっくり歩いて来て。
受付の方の言葉を、お母さんの
耳のそばで話してあげたり。
お母さんの好きな時代小説を
探してあげたり。
優しいルグランに、セシルは
自然に微笑む。
「ステキなおじさま」と思って
にこにこしながらルグランを迎えたりする。
そうすると、ルグランも
セシルの笑顔を、眩しいように
少し俯いて、微笑む。
照れた少年のような表情は
セシルにも好ましく思えてしまって。
なんとなく、好ましいな、と
それまで恋していたミシェルの事を
その瞬間、少し忘れたりして。
もちろん、恋ではないけれど
いろいろな魅力が、ひとり、ひとりに
あるのね、と
セシルはそれを知る事になったり。
セシルのいる図書館で
時々、本を読んでいたルグラン
は
セシルのお父さんくらいの年齢だけれども
未婚、恋愛もほとんどしていない。
容姿もそれなりだし、紳士なので
割と、慕われる事も多かった。
けれども、恋愛をしなかったのは
自由を尊重するタイプだったせいもある。
恋愛、なんて言う束縛する関係を
相手に強いたくない、そんな気持ちがあったのは
彼自身が、家族に束縛されていたせいもある。
経済的に恵まれず、家庭を支える為、と言う
理由は
ルグランにとって、いい理由でもあった。
どちらかと言えば、自分の欲の為に
動くよりも
家庭や、社会の為に動く方が高級だと言う
価値観を彼は持っていたから
自らの恋愛、なんて言うものが
どのくらい幸せなのか、感じた事もなく
青年の時期を過ごしてしまって
若い娘に慕われても、恋愛、と言う
気持ちにもなれなかった。
その娘が、いい青年と付き合った方がいいと
自らの青年の時期を振り返り思うのだった。
そうしたルグランが、母をいたわりながら
図書館に来る姿を見て
セシルは、青年とは違った
魅力を、ルグランに感じるのだった。
自分の為でなく、周囲に優しく。
共和国のこの国でも、青年はやはり
エネルギーがあるから、いくらか闘争的だったりして
女の子には優しくても、おばあちゃんを
いたわりながら、歩くような
青年はあまり見かけなかったりもする。
それが自然なのだけれども。
そんなルグランにとって、セシルの真っすぐな微笑みは、少年期を思い起こすような
爽やかな気持ちを回帰するに十分だった。
ひととき、歳を取ってしまった
我が身を忘れさせてくれる、その微笑みに
会える、それだけで
図書館に来るのが楽しみになった。
そして、また
ルグランは、母を連れて
図書館に行く。
古ぼけた国産の白い車のリアシートが
母のお気に入り。
ドライブが好きなのだけれども
決して自ら
遊びに行こう、とは言い出せない。
そういう奥ゆかしさは、物の無かった時代の
美徳だった。
生きていくのが大変だった時代。
元々、人が生きていくのは
大変だ。
太陽のエネルギーを使って
植物が有機物を作り出し
それを動物が得る。
人の営みで言えば、果実を採取して
食べ物を得て、生きていく。
それだけでも大変だった、それが
人間の根源だ。
農耕が興って、食べ物を
安定して得られるようになっても
母の時代には、まだまだ物が
不足していたから
子供を育てる為に、倹約は美徳だったのである。
そうしてルグランは育ち
そういう女性を美しいと
思うようにもなっていた。
この国は共和国だから、経済も
安定している。
景気などと言うものに左右されず
人々の暮らしは静かで、争いなどは起こらない。
そういう暮らしなので、例えば
自動車などは高価な代物だった。
それに乗る事が楽しみ、などと
言う事は
女性の慎みとしては控えるべきものだったし
そうして人々は、地道に暮らしていた。
でも、ルグランの母は
自由経済の国の自動車、フォルクスワーゲンに
憧れた事もあった。
どこかで見かけたのだろう、ドイツの
ツーリストが
かぶと虫、と呼ばれる
流線型の不思議な自動車に乗って
街角を旅していくのを
少女だった母は、見かけて
言葉に出来ない感銘を受けた。
自由なものは魅力的なのだ。
でも、口に出す事はない。
無事にルグランを成長させ、今は
時々図書館に来る事を楽しみにしている
慎ましい女性。
そういう人が、ルグランの好みでもあるのだろう。
図書館の受けにいる、愛らしい少女
セシルが
どうして気になるのかは
ルグランにも解らない。
ルグランは、母親を愛している訳ではなく
彼以外に頼れない弱者への労りの気持ちで
優しく接していた。
その接し方が、セシルには
親切、と言う感じに受け取れて
「素敵なジェントルマン」と
セシルはきちんと、母親に甘えた
大人とは
違う、ルグランに好感を持ったのだった。
それなので、彼が来ると
自然に笑顔になれたが
別に、だからそれが恋愛として
何か、対応をルグランに求めている訳
でもなかった。
それでも、自然に丁寧な対応になったし
指先まで美しくあろうとする、セシル自身が
不思議に思えたけれど
可愛く見られたい、と言うのは
自然な気持ちなので
ルグランが笑顔になってくれると
それが恋愛でない、と
わかっていても
セシルは幸せな気持ちになれた。
いつも週末に訪れるその時が
セシルは楽しみになった。
ルグランもまた、週末に図書館に
行くのが楽しみになった。
セシルにたまたま会えないと
なんとなく、寂しい気持ちになったりもした。
それは、もちろん
青年の激情のような、恋愛ではない。
例えば、夢想のなかで
その恋人を抱きしめてしまいたいと
思うような、そういう感情。
そういう感じでもなく。
さりとて、娘を見るような
慈愛だけ、とも
少し違うような
楽しい感情で、ルグランは
カクテルピアニストだから
仕事中に、サティの[きみがほしい]などを
さらりと弾いてみても
音が優しくなって、ひとり
微笑んでしまったりもする。
ルグランはまた、母の気持ちを
気にしてもいたから
娘くらいのセシルの愛らしさを
微笑んで見ていても
それは「甘え」なんだろうなと
思ってもいた。
愛らしく微笑み、指の先まで
愛らしく振る舞おうとするセシルの
気持ちを
清々しく思った。
それは、例えば
ダンサーが踊るような
そんな表現なのだろうと
ピアニストらしく、音楽に結び付けて
考えるのは
記憶の中に音楽があるからだ。
そうでない、例えば
ルグランの母などは
同じ女性としてセシルを見て
「ルグランが過ちを犯さないだろうか」などと
要らぬ心配をする(笑)。
ルグランの行動まではわからないのに
想像するから悪い心配をするのだ(笑)。
しても無駄な心配は、しないのが
ルグランの信条でもある。
セシルは、なんとなく
母に優しいルグランを見て
安心するものを感じたから
そういう人に、見てほしい。
優しい言葉をかけてほしいと
甘えの気持ちで、愛らしい表情に
なったりする。
そうして、ひとの思いをのせて
また、土曜日がやってきて
セシルは、図書館に
クリスタさんと一緒にアルバイトに来る
朝。
大きくて広い空間の、この図書館は
ちょっと見ると無駄な空間に思えるけれど
そこがいい。
セシルは、まるい微笑みで
弾むように歩いていく。
クリスタさんは、質量がないから
ふわふわと、歩いていくのだけど
天使だと、誰も思わない。
見た目は、めぐによく似ているのもあって。
クリスタさんとセシル
クリスタさんは、めぐよりちょっと
大人、に見える。
でも、天使に年齢があるのかは
よくわからない。
でも、みためは愛らしい女の子。
セシルの、まるい微笑みに、
クリスタさんは
「可愛らしいですね。何か、いい事が
あったのですか?」
と、穏やかで静かに話すところは
めぐと全然違うけど
顔はそっくりだから。セシルは
なんとなく不思議な気持ちになるけれども
かわいい、って言われて
うれしい。
まんまるの笑顔で「いい事、あったのかも。」
と、セシルは、なんとなく気づかない。
ルグランに、時々の土曜日
図書館で出会った時
微笑みを交わずだけで、嬉しい。
そんな気持ちは、どう言っていいかも
わからないけれど
優しい気持ちになれる。
それは、ミシェルへの気持ちとは
なんとなく違うのは解る。
なんていうか、安心できる気持ちみたいな。
「いろんな嬉しい、ってあるのかなっ」と、
セシルは思う。
クリスタさんは、天使だから
たぶん、いろいろ知っている。
でも、何も語らずに
静かに微笑む。
セシルは気づく。
「ルグランさんと、クリスタさんって
なんとなく似てる」
静かなところ。優しい所。
ルグランが、天使だという訳もないけど
優しく生きようとすると、どちらかというと
天使さんに近づいてくる事もあるのかもしれない。
年を取って母に、優しくしてあげる事が
ルグランの日々。
我が儘も言うし、怒りもする母は
ふつうの人間。
努めとか、義務とか
修業とか
そういうものではなくて
ルグラン自身が、優しくするのが
好きなのだろうと
セシルは感じる。
そうして、セシルにも微笑んでくれると
セシルも嬉しい。
優しい気持ちになれる。
クリスタさんも、似ていて
幼い頃からめぐを護ってくれていた。
優しい事が好き。そういう感じ。
なぜか見た目もめぐに似ているのだけど。
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