上 下
54 / 86

Lotus Super 7

しおりを挟む







同じ頃、

北欧の、ななが滞在した国。
めぐは
修道院から借りてきたテナーサックスを
吹いて見ようと思って。


自分の部屋で吹くと、反響して
すごく大きな音になるので(笑)


驚いて。


ベランダに出て、吹いて見ても


あんまり綺麗な音にならない。



それはそうで、リードを
同じ音程で吹く事が出来ないと


音楽にならない。


「魔法で吹いてしまおうか」と

思ったりしてみて。




そうすると、ウインド・シンセ吹いてるみたいに

機械っぽい音楽になってしまって
面白くなかったり。




下手でも、自分の音の方が楽しいのだ。





「魔法も万能じゃないんだなーー」と


めぐは、楽器を下ろして空を見上げた。





魔法をなくしてしまったルーフィさんも

なにか、思うところがあったのかしら?




「ルーフィさんにも、学園祭ライブに
来てもらえるかなぁ?」と、めぐは
御招待をしようかと思った。

けど。



「あ、そっか、並列時空間なんだ」

めぐは魔法使いだから、つい、隣に
いるような気がしたけど



彼に会うには、魔法を使って
行かないとダメだし


来て貰うのは無理って事。




「ま、仕方ないか」




遠い空の下で幸せにしているのを
願うくらいしかできないな、と


めぐは、ちょっと淋しい。










ルーフィは、自分で作った
簡単な飛行機の、エンジンを掛けた。



オートバイ用のエンジンなので、キックペダルを蹴飛ばして。



ガソリンを、キャブレターに吸い込ませて。



何回かキックすると、エンジンが
のどかな音を立てた。


空冷のV型2シリンダエンジン。



大きなプロペラは、ぐいぐいと
風を後ろに送る。





遠い、イギリスの並列世界で
魔法使いじゃなくなったルーフィは
のんびり。



「でも、居候って訳にもいかないから」




「当たり前よ。」



魔法使いだったら、お腹も減らないのだけど(笑)



ご飯も食べるし、ビールも上手い(笑)


と、なれば労働である。




とりあえず、配達の仕事を
飛行機でやろう、なんて
アイデアで。



簡単な飛行機を作った。


パイプフレームに、合繊を貼って翼にして。


オートバイのエンジンを付けた。




「飛ぶの?それ?」Megは、笑っている。




「飛ぶさ」ルーフィは
楽しそうだ。


魔法でなんでも出来た頃には、感じた事のない作り上げる喜びを感じている。





飛行機と言うよりは、エンジン付きの凧の
ようなそれ、を

彼は、ひょい、と
丘の草原を蹴って、宙に浮かせて
自分も飛び乗る。



「飛んだぁ」彼自身も、半信半疑だった(笑)。

丘の上から落ちるように、舞い上がる。



翼を上に向ければ、上昇し

右に向ければ、傾いて曲がる。


エンジンは一定の回転で回り、プロペラの向こうに遠い水平線も見える。



飛び立った丘が、とても小さく見下ろせて

恋人たる彼女は、手を振っている。





「飛んだけど、あれで仕事できるのかしら」と、地面のMegは、ニコニコ(笑)。



何を運ぶつもりなのだろう?(笑)。



空を飛ぶ事は、それだけで気持ちいいから

ルーフィも、特に意味なく

凧を作った。

魔法使いなら、魔法で飛べばいいと
魔法を使えない人は思うだろうけれど


達成感のようなものが、人間にはあって

魔法使いには、あんまりなかったりする。





そうしないと、辛い労働などが
辛いだけになってしまうから
面倒臭い、となにもしない

物ぐさな人間ばかりになってしまう(笑)。



便利に、魔法でなんでも出来ると
実際にそうなのかもしれないと

ルーフィは、風を頬に感じながら

そう思う。

翼を右に傾けて、少し仰ぎ角をつけるとふわり、と上昇。



そのまま左に傾けて旋回したり。



楽しく飛びながら、ルーフィは

眠ったままのご主人の事を思ったりした。




「魔法使いだと、なんでも出来てしまうから
つまらないのかな?」
青年らしくルーフィは直裁に思う。




魔法使いだって、ままならない事もあるさ、と


Megと、並列世界のめぐ、ふたりの愛しい人の
事を思ったりもした。




人間だったら、出会えないふたりだけど



「3年経ったら、めぐちゃんはMegのように
なるのかな?」

などと想像するのは楽しかったりする(笑)



並列時空間でも、性格までは同じじゃないけれど。


ルーフィの凧は、ふわふわと頼りなげに

鳥くらいの速度で飛んでいる。


エンジンを止めれば、風の音しかしない。



それでも風に乗ると、かなりの高さまで
飛べるから


「郵便飛行機とか、できそうだな」とは
思う。





のんびりと、そんな事を考えながら
飛んでいると


遠い空の向こうに、ジェット旅客機が
降下して行くのが見えた。




「空港があったかな?」


ルーフィは、凧を降下させて

旅客機に近づいて見る。



パイロットはいない。


コーパイが、一人で操縦していて
ちょっと、定まらない視線で
降下させているようだ。



「危ないぞ!」叫んでも
声は届かない。



「操縦桿を引け!」と、言ったところが




目前に迫る里山に、このままでは激突する。





ルーフィは、どうする事も出来ない。



「せめて、魔法があれば!」と、ルーフィは
願った。







すると。




空中に光る魔法陣!




「おお!」ルーフィの心は何かを思い出したらしい。



魔法でなくては出来ない事。



大惨事を防ぐには、それしかない!





ルーフィは魔法を使う。



real g=9.8;
real h=300;
real m=600;
real sin=modelica.constant.sin;
real f;
parameter real theta=30;
equation;
f=mgh*sin*theta;






enter!




飛行機は、勝手に上昇を始める(笑)


コーパイは狼狽している。


「どうしてなんだ!俺は死にたいのに!」



飛行機が言う事を聞かない(笑)




ルーフィは、彼の心に語りかけた。



「死にたいならひとりで死ね!表に出してやろうか?」





声が聞こえたのか、コーパイは
頭を抱えた。







飛行機は上昇し、
ルーフィは凧を下降させて
巻き添えを逃れた。





「魔法でなくては出来ない事もあるな」

ルーフィは、咄嗟に蘇った魔法に
驚く事もなかったけれど



そのおかげで、旅客機は救われた。


コーパイの勝手な都合で墜落させられては
かなわない。


凧のエンジン回転を上げて

ルーフィーは
また、空へ舞い上がり


のどかなVツインの音を聞きながら



魔法がどうしてか、使えた事に気づき




「やっぱり、めぐちゃんに済まないと思ったのかな?」

そんな風に思う。


魔法で作られたルーフィー自身が

ご主人の魔法が切れたら消えてしまう運命。



それを、神様に頼んで
消えないようにしてくれたのは、めぐちゃん自身だった。



でも、ルーフィーには
恋人がいたので

めぐちゃん自身は、想いを叶えず
ルーフィーの幸せを考えた。


それで、ルーフィーは

魔法がなければ、ふたりに出会う事もなかったと
思い込んだせいか

魔法が使えなくなってしまってた。。



ルーフィは、丘の上の飛行場(笑)に戻って
凧を持って着地した。


いくら、ふんわり下りようと思っても
そこは、空飛ぶ凧だから
対地速度は早い。



「パラグライダーみたいなものの方がいいかな?」なんて思いながら

草原の上を走って着地した。




丘の家に戻ると、Megはにっこりと「おかえり、魔法戻ったんだね」



ルーフィはなぜか、どきりとして「うん、なぜだか。」




「いい事じゃない。それで人が救えたんなら」と、Megはのんびりと構える。



どうして魔法が使えなくなったか、って事には
あまり詮索するつもりはないらしい。

そういう、のどかなところは
向こうの世界のめぐと同じだ。



でも、こちらは普通に
人間が嘘もつくし、争いもある世界だから
それなりに、防御もする。


でも、魔法使いルーフィは過去からの旅人だから



まだ、人々が損得の為に争う事を恥じて
いた時代からんの旅人。



そこが、異端の者として

めぐたちに信頼されるわけ、でもあった。



「魔法、治ったんだね。良かった」Megは、屈託なく笑う。


どうして使えなくなって、使えるようになったか?と問う事もない。


それが、かえってルーフィの心に響く。




「うん。飛行機を救おうと思ったら、なぜか」
と、ルーフィも素直にそう言った。




「んでも、魔法って自分の力じゃなくて
古くから伝わる手順なんだ、って
よく解ったんだ。魔法使いだから
自分が神様みたいな全能じゃないって。


ルーフィは、苦労して凧を作って飛べたから
旅客機に出会って、きっかけになって
魔法が戻ったと考えた。



「別に、魔法が無くても生きていけるから
人として暮らして行った方が楽しいみたいな
そんな気持ちだな」と、ルーフィ。




「ご主人様は、そういう気持ちになれなかったから眠ったのかしら」と、Meg。





「僕はMegに出会えたけど、ご主人様は
そういう事が無かったのかもしれないね。
或いは、もっと悲しい未来を見てしまったとか」と、ルーフィはなんとなく、予感でそう言って。




ラジオの臨時ニュースで、ルーフィが
助けた旅客機が
空港に不時着して

墜落させようとしたコーパイが
捕まって。


理由は、心を病んでいて
飛行機の操縦が出来なくなるかもしれないと
言う、そんな理由で死にたいと思った、とか

ラジオのアナウンサーは冷静に告げていた。


「かわいそう」と、Megは言う。



「そうだね。ほかに人生、楽しい事が一杯
あるって事に気づかないのは、かわいそうだね」と、ルーフィ。



「もちろん、旅客機を巻き添えにするのは
間違いだけど」とも。



「いい事したね、ルーフィ」と、Meg。



「誰だってすると思うよ、たった一人の
絶望のせいで、多くの人が巻き添えになる
事はないさ」と、ルーフィは


ちょっと淋しそうに言った。

「飛行機が好きだったらさ、自分ひとりで
飛べばいいんだよ。それで墜落しようが
自由さ。」と
ルーフィは言った。




「うん。飛行機のパイロットに
なりたくてなれない人だって一杯いるんだもの。ひと時でも副操縦席に座れただけでも
幸運だと思うけどなぁ」と、ルーフィ。



「魔法使いになりたくてなれない人も
一杯いるのに」と、Meg。



「ホントだね。僕も幸運?なのかなぁ」と、ルーフィは笑う。




とりあえず、魔法は戻ったのだけれども、




ラジオのニュースはさらに続ける。


「旅客機の副操縦士が見たと言う小型飛行機の
行方を当局は追っています」と、冷静な声。




「まずいわね、ルーフィ」




「どして?」



「だって、あなたは魔法使いだけど
パスポートもないし、戸籍もないもの。
密航者って事になったら、当分警察に」





「ま、そうなったら凧で逃げるさ」ルーフィは
楽観的だ。(笑)




それにしても、簡単に絶望する人って
やっぱり生きていく事に希望が持てないんだろうか?



ご主人様は魔法が使えるから眠ったけど。


と、ルーフィは希望のない生活って
どんなものだか想像してみたけれど



よく理解できなかった。




楽観的な人には絶望もない(笑)


「とりあえず、夜になるまで
飛ばない方がいいわね」と、Megは言った。



「うん、でもまあ、捕まったにしても
悪い事はしていないからさ」と、ルーフィは
楽観的だ。

元々、失うものを持たない
魔法使いならでは、だろう。


人間はいろいろある。


家族があったり、会社があったり、
対面があったり。


そういう、どうでもいいものは
全部捨てたっていいのだ。


人間が作った仕組みが、苦しいなら
捨てればいいとルーフィは思う。


人間になりたかったルーフィ、だけど
そういうものは欲しくないと思う(笑)。


「魔法って、悪魔と契約するのかと
思ってた」Megは、ユーモアが好きだ。



「だったら君も悪魔使いだね」ルーフィも
軽妙に返す。



「ルーフィの魔法は、自分で封印してたのかしら」




「よくわからないけど、使えなくなる事も
あるんじゃないかなぁ、心で使うものだし」と
ルーフィは、凧をどこに仕舞おうか
考えながら。



「夜遅くに飛ぶのって危なくないかしら」とMegは気にするけれど



他に方法もない。


「どこへ行くの?」




「さあ?とりあえず、ご主人様の眠っている
城へでも飛んでいきましょうか」と、ルーフィは楽観的だ。


「いつ帰るの?」




「さあ?」


「同じ凧だと、見つかり易いんじゃない?」Megは現実的にそういう。


こちらの世界は、めぐの住む世界と違うから

軍隊もある。


それなので、空の管制もあるだろう。




「クルマで行けば」Megは笑って
ルーフィを倉庫に連れて行く。


埃よけのカバーを取ると

そこには、低く構えるアルミニウムのボディから
4つのタイヤが伸びやかに突き出し

自転車のようなカバーがついていて

葉巻型のボディに、丸いヘッドライト。


「あ、これロータスでしょう?」ルーフィは
楽しそうに。




「そう。でも部品を買って組み立てたから
キットカー、って言われてる。見た目は同じだし、部品も一緒だけど」Megは楽しそうに言った。





「そんなのがあるんだね。」ルーフィは
シフトレバーを左右に振り
エンジンキーを捻る。


セルフスタータが勢いよく回るけれど
エンジンは掛からない。

「キャブレターだもの」




「そうか」




低い運転席に滑り込み、ルーフィは
アクセルペダルをあおった。


そうして、アクセルを戻してから

また、スタータを回す。



ほんの少しアクセルを踏んで様子を見ながら
ガソリンの爆発を聴く。


エンジンが身震いするように。



アクセルを軽く踏み込むと、回転計の針が
ゆっくり上昇。



エンジンが冷えているので、アクセルを戻すと

回転はゆらゆら、安定しない。


なので、アクセルを踏んだまま温める。



「エンジンとお話するみたいね」




「こういう楽しみを無くしたから
クルマは売れなくなったのさ」


コンピュータ制御で、誰にでも
扱えるクルマは
だから、自分だけのクルマにはならない。

愛せない。


だから、クルマを守ろうとは思わないから
事故が増えるんだとルーフィは思う。





自分で作ったりすれば、直す事を思うと
壊せない(笑)


アルミニウムのボンネットは、かまぼこ型で
エンジンのアイドリングに合わせて
ゆらゆら揺れている。

4本の掛けがねで、ボディに止められるあたりは
軽飛行機のようだとルーフィは思う。


「じゃ、ちょっと走ってみるか」ルーフィは
庭にあるガレージから走り出す。


やや固いギアシフトは、フロアトンネルから
短く突き出している。

フォード・シエラのミッションだ。

エンジンも同じくフォード853C。

改良型のケントOHVユニット。


ロータス・フォードとして1960年代の
F1マシンが1500ccだった頃の
名残である。



割に軽いクラッチは、ワイヤー式で
深く踏み、シフトを左へ。
奥で引く。


ギアの2速が、普通の1速の位置にある。



クラッチを離すと、呆気なく走り出すのは
500kg
しかない軽いボディのおかげである。



低い排気音は、左手ボディサイドの
集合排気エキゾーストから吐き出される。



オイルの燃える、いい匂いがする。




「じゃ、行ってくる」ルーフィは楽しそうだ。

アクセルを踏むと、エンジンはOHVらしく
弾むような反応をして
軽いクルマを、ぽん、と押し出す。


低い長いボンネットごしに見える路面は遠いけれど


ドアのない運転席は、路面に触れられるほど低い。



走り出すと、路面のでこぼこの
ひとつひとつが、直接体に
響いてくる。

柔らかいタイヤだけれども。


ゴムを使っていないサスペンションは

振動を和らげない代わりに、

反応そのものが、カーブを曲がる力に
変えられる。



ぐい、とアクセルを開き

加速、そしてカーブで減速せずとも

ハンドルを回すだけで低いボディは

整然とカーブする。



ゆっくりと走っていても、それだけでも楽しい。



「面白いなぁ」と、ルーフィは思う。



とりあえず西に向かおうと

山道に、緑色のノーズを向けると



ルーフィは、重大な事に気づいた。



「僕は、運転免許がない」(笑)。



そういえば、魔法使いなので
戸籍がないから当然だった。(笑)




なんだって、と思う間もなく



パトカーが(笑)



追いついて来るけれど、でもまあ
そこはロータスであるから




「まあ、余裕だよな」


パトカーは、まあ、ベンツのセダンだったけど


普通なら速い部類だろう。



でもまあ、ロータス7はレーシングカーだから


勝負になるはずもない。


カーブひとつでもう、ベンツはバックミラーにも映らない



ルーフィは、ガレージに舞い戻る。



「どうしたの?」Megはにこにこと
出てくるけれど

笑顔だと、ルーフィからみると

めぐによく似ている(笑)。



「僕、免許ないんだよ、こっちの世界の」





「あ、そっかぁ。アハハ」


明るい笑顔になんとなく和む。




「向こうの世界だと免許あったの?」




と、問われても
「免許なんて取らなくても魔法ですーっ」と
ルーフィ。




そうよね、と
Megはまだ、笑いながら



「でも、楽しいでしょロータスって」と、Meg。




「機械っていいよね、なんか心があるみたいで」と、ルーフィは率直な実感。



そういうと、向こうの世界でめぐと
リトルホンダに二人乗りした時に
言った事を思い出して


ふと、懐かしく思う。



ちょっと前の事なのに、遠い昔話みたいだ。






「暗くなってから凧で飛んだ方が良さそうだ」と、ルーフィは言うけれど



「空軍はここには来てないみたいね」と、Megは言う。




別に、悪い事はしていないから
見つかっても困る事はないけれど、と
ルーフィは思う。
でも、ここに住んではいられないだろうね、とも思った。


「このロータスってさ、昔っからF1レーサーなんだよね」と、ルーフィは
さすがに詳しい。

「そう。その7だって、1965年までは
F1だったのよ」と、Megはライターらしく
歴史に詳しい。



「チャプマンさんが作ったんだね」



「そう。でもね、その7は南アフリカ製」




「なんでイギリスじゃないの?」




「それが、不思議なんだけどね。」と、Megは
雑誌記者らしく、ルポルタージュっぽく。



「チャプマンさんはね、死んだ事になってるんだけど、
実はイギリスで罪に問われてて。
なぜか、その時埋葬されたんだけど
誰も遺体を見てないのよ。」




「ミステリーだねぇ。もしかして、服役が嫌で
死んだ事にして?」




「そういう噂があって、直後にその
改良版の7が南アフリカから売られたの。
売った人はヘイゼル、チャプマンの奥さん」




「まさか?」




「奥さんが設計なんてしないしね。その

南アフリカ製は、古いイギリス製を
よく知ってないと作れないような
改良版なの。
南アフリカのF1サーキットで、死んだはずの
彼を見た、ってジャーナリストもいたわ」



「密入国かなぁ。僕と同じく」




「ははは。密入国は
ともかく、ロータスのF1ドライバーが
発売記念パーティーに来たりとか、ちょっと
不思議なのね」





「うーん、面白い話だね」


「1990年の話だけど。それで、イギリスで7を作っていた会社と裁判になったんだけど
なぜか、引き分け」




「どうして?」



「そう。変でしょ?噂だと、設計したご本人が居たから、って事みたいで」




「その後、お互いに譲り合いで
存続、だけどご本人はまた
雲隠れしちゃってね。その頃よ。
日本のヤマハがF1に出たり、トヨタがF1に出たり。ホンダには勝てなかったけど」




「ふーん。それってミステリーにしては
出来過ぎだよね」




「そうでしょ?調べるのって面白そうね」と、Megは、トラベルライターらしい言い方をした。


ルーフィは、凧でイギリスの
ロータスを作った、チャプマンさんの事を
調べに(笑)


出かけてみようかと思ったり。




「凧で一緒に行きたいなぁ」と、Megは
なんとなく、かわいらしい言葉。




「そういう顔すると、めぐちゃんみたい」と
ルーフィ。



「そりゃ、私の3年前なんだもの」と、Megは
笑う。




「嫌じゃない?」と、ルーフィは

ちょっといたずらっぽく。




「同じ人なんだもの。それよりさ、ルーフィは
若い方が好みなの?」





「そんな事もないけど。」と、ルーフィは
特に
基準のない事を聞かれて、困る(笑)。




別に、物理学のように基準がある訳でもない(笑)。



いや、物理学でも量子論とかもそうだし
化学反応なんかも確率論だ。


反応する分子がどの位出会うか?と言うものを

式でも適合するのである。


恋愛の出会いのようだ(笑)。





夜の闇に紛れて、魔法使いルーフィは
凧で飛び立ったのだけど


飛ぶのはよかったが「暗くて、何も見えないぞ」(笑)



それが月夜だったとしても、魔法のほうきで
飛ぶのと違って



一応飛行機のようなものだから、立木を避けたり

山に当たったりしたら墜落だし(笑)



郵便飛行機に命を懸けた時代の男の
勇敢さがよく分かった彼だった。




それで、また家に戻ってきて(笑)



「どおしたの?」と、笑うMegに

「暗くて飛べないよ」(笑)と

言う事になって

魔法を使って時間旅行、過去に行く事にした。




「チャプマンさんって労働階級だったんでしょ」と、Meg。



「そうらしいね。だから、南アフリカに行って安い労働力を使うってあんまり本人の考えとは
思いにくいな」と、ルーフィ。




「どして?」



「労働者の辛さが分かるから」




「そっか」



魔法って言っても、ルーフィのそれは
18世紀の科学だったから
その力を恐れた政治家が、迫害したりする
ような代物。

今も昔も同じである。



ロータスの創始者、チャプマンは
労働者階級だったから

才能を怖れる上流階級から疎ましく思われた事は
想像に難くない。




「そんなにお金に困っていないのに、些細な
会社乗っ取りを企てるなんて、変だね」ルーフィは


その事件の概要を掴んで。



「禁固なんてね」と、Megも思った。



そんなの、普通なら罰金刑くらいだろう。




「でも、死んでしまえば服役はないから
偶然急死したってのも変だね」




その直後、南アフリカのサーキットに
似た人が居て。


「南アフリカ製の新型ロータス7を
チャプマンの奥さんが売り出した。
新開発のね。設計を誰がしたかは判らない。」


その後、彼の姿を見かけた人はいなくなって。

日本のF1マシンは速くなった。


以降のロータスは、トヨタエンジンを積んでいる。



「まだあるわ。事件の直前のロータスには
もうトヨタの部品が使われ始めてて。
事件があってしばらくは使われなくなった。」




と、Megは調べた内容を語る。


「君はさ、日本のトヨタが事件に関わってるって言いたいの?」ルーフィは
楽しそうに言った。



「そう考えると面白いでしょう?」Megも
楽しそうだ。

推理小説書きになるつもりだろうか(笑)。





「でもロータスって昔からエンジンは
作らないんだよね」と、ルーフィ。



「どこでもそうよ。その7だって
エンジンはフォードだし。」と、Meg。



「ま、いいか。記事にするなら写真がいるよね」と、ルーフィは

時間旅行をするつもりなのか、光る魔法陣を
空中に導きだした。


元々、higgs-environは光子の固定環境である。



環境を解放すれば、光の速度で飛び始める物質。


魔法が使えるルーフィは
その事に疑問を持たなかった。


もともと、深く考えない人(笑)


そこが彼の魅力で、こだわるタイプよりは
付き合っていて気楽だとMegも思う。


こだわりって、まあ、癖だし
自己主張だから、紳士の国イギリスには
不似合いだ。



でも、Megは女の子だから

魔法を失って、ホントだったら
消えてしまう運命だった彼を

救っためぐ、つまり彼女の
並列時空間の存在が


ルーフィの心に影響している。


そんな気持ちも、少しはあって



ルーフィが、時空間の狭間で悩んで
魔法を失った、なんて思ったりしたのも


まあ、女の子っぽい心配でもある。



魔法がなければ、こっちの世界に
戻ってくる事もできなかったから


ルーフィの心は、向こうに留まって居たかったの
じゃないかな、なんて(笑)


ふたりが飛んだ先は、1981年の
イギリス、ロータス社。


意外に質素な工場である。



「こんなとこでF1が?」と、ルーフィが
思うくらいのもので

実は、F1はヨーロッパのクルマ好きの
遊びであったから

どちらかと言うと、下流のチャプマンさんに
とっては場違いな場所だったりする。



階級社会のヨーロッパなので
そこに住む人達にしか判らない事もある。



労働者階級は、頑張ってお金儲けしても
所詮は下流。


そういう差別から逃れるには、アメリカに行くか
F1のような所で勝つか
ビートルズみたいに有名になるか。


でもまあ、ロータスは一応有名になった後。



「そんな彼が、どうして罪を犯したの?」


Megは不思議に思う。



「それは、罠かもしれないよ。階級社会って
そういうところがある」ルーフィは言った。



ジャンヌダルクが、魔女と言われて
火炙りにされたみたいに

古い因習の側に居ると
立場を守りたいもの。




見ると、工場の裏手には

TOYOTAの部品箱が幾つも。



「日本人の豊田も、労働者階級だから」と
ルーフィは言った。


日本にはイギリスみたいな差別はないから
それだけに、ロータスを助けたかったのかもしれない。


日本人の本田も、F1でロータスのチャプマンに協力し


エンジンをロータスに送ったりしていたけれど


豊田も、そういうところには構わず
乗用車の部品を供給したりした。




「日本人って優しいのね」Megは思う。


「日本は島国だからね、外から来る人に優しい。侵略される事が歴史的に無かったから」と、ルーフィ。


「イギリスもそうなのかしら」と、Meg。



「そうみたいだね」と、ルーフィは言い、人影に気付く。



でも、ロータス社の外の道だし
別に人影に気遣う事もない(笑)


スパイ映画のように、身構える事もなかった。


まして、F1で有名になったロータス社は
クルマ好きの好む観光地だったりする。



時は1981年。これから
また、ロータスはホンダと組んで

レースで勝ち続ける事になるはずだ。



それで、ヨーロッパの大陸からは
島国同士の日本とイギリスのメーカーを
追い出そう、なんて

そういう陰謀(笑)が渦巻く訳だけど。




「こんなに有名な人が、小さな事件を
起こすのかしら?」




「変なんだよね。国からの研究費を流用したとか
会社を乗っ取るとか。
お金に困ってなかったはずなんだよね。
ロータスは」と、ルーフィは


トヨタ、と書かれた部品の箱が
工場の裏に積まれているのを見る。




「ヨーロッパ人たちが、ロータスを
追い出したかったのかしら」




「かもしれないね。特にドイツとかは
大陸の国だし、ロータスとホンダには
レースじゃ敵わなかった。戦争の時も
敵だったし(笑)」と、ルーフィは
冗談混じりに。


ふたりは、写真を撮ってから
埋葬されているはずの1982年の
お墓に行って。

「どうするの?」


西洋の墓地は、そんなに陰気じゃない。



花が咲いている公園、みたいで。




「ここには人は埋まってなさそうだ」ルーフィは
墓標の下の土の密度を解析した。


空間があれば、音波が反応するのでd
魔法を使って。



equation;

v=pnyu*rambda;


空間を3次元で解析すると、ただの土だけだった。



「埋まってないのは本当だね。」 



トモグラフィの映像を撮影。




「彼の居る場所に行ってみよう」




「どうやって?」


ふたりは、南アフリカのキャラミに飛んだ。


F1サーキットのあるそこで、彼を見たと言う
ジャーナリストが居た年、1984年に。


「もし、会えるとすればこのサーキットだね」ルーフィは、F1レースの開催される前の
雑踏の中で彼、チャプマンの姿を探した。


何しろ、写真も撮られているのだ。




「でも、本当ならイギリスの警察が追い掛けて来るんじゃない?」Megは推理する。



「まあ、そこは役所だから。死んだ人間の罪は問えないって事で。
元々、お金の事で誰かが傷ついた訳でもないし」と、ルーフィ。




「イギリスって紳士の国なのね」Meg。




「あれ?あの人。」ルーフィはひとりの婦人を見つけた。


「彼の奥さんじゃないかしら」Megも気付く。





「ヘイゼルさんですか?」ルーフィは
爽やかな青年なので、婦人も心を許す(笑)。




ヘイゼルは、別に驚いたふうでもなく
ルーフィを見て、イギリス人と気付くと
やや落ち着いた様子で「コーリンは、ここには居ないわ」と、あっさりと。



「どういう事ですか?」ルーフィを、誰かと勘違いしているのだろうか?



「日本に行ったの」ヘイゼルは、悲しそうに
そう告げた。


「どうして日本に?」と、Megは
記者っぽい口調になった(笑)。


答はわかっているけれど。


「イギリスで、コーリンを助けてくれたのは
日本人なの。それで。
南アフリカに来て、ロータス社を
もう一度やろうとした話も、日本人が
支援してくれたの。」ヘイゼルは言葉に詰まった。




「でも、南アフリカの民主化運動が起きたんですね」ルーフィが言うと


彼女は無言で頷く。


「イギリス人が経営するのは差別だって言って。現地の人を社長にしたんだけど。
ロータスのF1ドライバーがお祝いに
来てくれたりしたので」



そこで、写真を撮られて
自動車雑誌に載せられそうになった。



死んだはずのチャプマンが、生きていた、と。


「それで、南アフリカから逃げたの」


「どうして、奥さんは一緒に
行かなかったのですか?」と、Megは尋ねると

ヘイゼルは、はっきりとした口調で

「私は、ここに残ってロータス社を守らないとならない、とコーリンが言ったのです」と。



強い人だ、とルーフィは思った。



未来を知っているルーフィは

そのロータス社があったので、10年後に
ロータス・ホンダF1が素晴らしいレースを
する事になり


また、ヨーロッパ人の差別主義のせいで
F1からロータスホンダは追い出されてしまう、のだけど


その源がここにあったのだ、と気付く。



「そうか。それで日本に行ったんだ」と
ルーフィは独り言。



1965年にも、空冷12シリンダのホンダF1を
ロータスに載せる計画があって。


その続きを、日本に行ったコーリンは
しているんだ。





いま、彼はどこに居るのだろう?


本田技術研究所の中だろうか?


あるいは、トヨタ研究所だろうか。

研究所、と言うところは
そこに住む事もできるから

戸籍のない、死んだはずの人間が
身を隠すには適当な場所だった。


ヘリコプターが発着でき、定期的に
空港へも行っていたから
外国人が、セントレアとかから
直接乗り込んで来る事もあった。


その経緯で、南アフリカから
コーリンは、日本に行ったのかもしれない。



F1サーキット、キャラミでは
プラクティスが始まった。


DFVエンジンを積む、黒い鋭い楔型の
車体が
サーキットを軽々と駆けて行く。



V8エンジンの激しい音が、すごい勢いで
通過する。

なぜ、あんなものを作るのだろう?



人間は変な種族である。



と、魔法から生まれたルーフィには
動物性がないので、そんなふうに思う。



動物は、動いて
何かと出会うように出来ている。



それが同じ動物だったら
戦ったり、愛し合ったりするけど



金属を作り、機械を作った人間は

自動車で動く事を覚えた。



それを使って戦う事を文化としたのだろう。



F1レースのように、ルールのある戦いは
だから、動物性が基本だ。



なので、勝てない奴らが
徒党を組んで、ロータスや
ホンダを追い出そうとするのも(笑)



動物的な、例えば強い狼が
群れから孤立してしまうのにも似ている。



群れる連中は、弱いから群れるのだ。





罪に問われたコーリン。


でも、その罪は本当に罪だったのか?と

ルーフィは思ったり。


ルーフィは、でも気になったので

イギリスの、そのコーリンの嫌疑について
調べようと思った。


国家の研究費用を流用して

新しいクルマ、北米でのそれに
使ったとの事であるが



そもそも、誰が国にそれを通報したのか?
不明だったし


その自動車会社を乗っ取ろうとした嫌疑もあったが

自動車会社の人達がそれを訴えた訳でもなかった。



誰が訴えたのか?



謎である。



「警察に行っても、教えてくれる訳もないしなぁ」と、ルーフィは思った。



「でも、コーリンを助けたのが日本人なら」


ロンドン市警の動きを、日本人は知っていた。


そういう事になる。



誰かが、目的を持って
コーリンを服役させたかったと
考える事もできると


ルーフィは推理した。



国立図書館に行って、雑誌や新聞を閲覧した。


自動車雑誌とか、噂好きの人達が読む
雑誌に

ロータスの、その事件が載っていたが

アメリカで売るスーパーカー、デローリアン
の開発をコーリンがして


お金がないので国からの研究費を流用した、とか


言うもので

嫌疑は不十分。


そのあと、その会社を乗っ取る計画を立てた、と


言うもので


噂では、ロータス72のF1での成功を
妬んだ者が邪魔した、という(笑)。



もともと、ヨーロッパは階級社会だから
コーリンのような労働階級の者がF1で勝つ事を
嫌う
ヨーロッパの貴族なんかが居たりする。


ただの差別で、低俗なものだ(笑)。



日本人が来る事も嫌うので、後年
ロータスホンダが連勝すると、F1に出られないように
クルマの規格を変えたりする。


大陸の国、ってそういう考え方をする。

地続きだから、人類以前の600万年前から
陣取り(笑)を繰り返していたので
閉鎖的なのだろう。



「今は、原始時代じゃないのにな」ルーフィは
笑った。





それじゃ、子供のイジメと変わらない。
そういうのは、劣位な者が優位な者を怖れて
するものだが(笑)


その通りだ。



ロータスやホンダを怖れて、勝てないヨーロッパ人たちは

F1から追い出したのだろう。



「それで日本に行った、と言う訳か。」



南アフリカに逃れたコーリンが、
現地でレース活動を隠れて行う事を
怖れた者が、それを公表したので
コーリンは日本へ逃れた。


南アフリカのロータス社を建てる資金を
日本人が支援したのは?


地続きの国が、国境を隔てて対立するのも
論理的でない(笑)。


そういう事を言う人達の異常さは
例えば、アドルフ・ヒトラーのユダヤ迫害を
見ても解るように


根拠がないのである(笑)。


ご本人の攻撃性を、単に正当化している
理屈なので、客観的にはおかしい(笑)。


ヒトラーの場合は、自分の父がユダヤの使用人に産ませた私生児、と言う
別に気にする事もない理由である(笑)。


民族主義なんてのはそんなもので、ただの
攻撃性に過ぎない。




しかしまあ、F1レースも
欧州のお金持ちの暇潰し(笑)なので
そこに、日本人が行くべきでも無かったのだろうと

ルーフィは客観的に思う。


悪意が無くても、大陸の人々からすれば
侵略の記憶があるので

脅威に感じる。



なので、かつて世界を征服したイギリスの
ロータスも迫害された。



でも、迫害した方も


まさか、コーリンが死を偽装して

罪を逃れるとは思わなかったのだろう。



事件が大事に報道され、更に
事実が発覚するのを怖れたから


本当に、コーリンを葬る事も考えた。



死んだはずの人間だから、葬っても
罪にならない。



嘘を一度つくと、更に嘘をつき続けないと
いけない。


しかし、彼の亡きがらが
発見されると国際警察機構が
動いてしまうので(笑)

まんまと、貨物飛行機で
日本に輸送されてしまうコーリン(笑)。


F1から彼を迫害するつもりが
日本のF1が強くなってしまったのは

日本の自動車会社研究所のセキュリティが
強力な事を
ヨーロッパの人々が知らなかっただけ、だった。
(笑)。




閉鎖的なそれら、研究所の中には
人が住める場所もある。


コーリンは、その一角に住んでいたが
イギリス人も沢山居るし、エンジン研究者も多かったが

幸いな事に、レース好きは少なかった(笑)から


彼の風貌を見て、正体を見破る人も
居なかった(笑)。



居たとしても、中の秘密は口外しないのが
掟の研究所。










ルーフィは「なるほど」と、未来から
来た人間らしい感想。



Megは「でも、それだと記事にはできないね」と、ちょっと口惜しそうだけど(笑)。








その数年後、ルノーがF1にターボエンジンを
持ち込んだが
車体とエンジンのバランスが悪く、おまけに
信頼性も低かった。


ところに、日本のホンダが
1300psと言う破格のパワーを持ち込み
ロータス社の99シャーシが見事に
バランスさせて連戦連勝。




ヨーロッパ人の面目は、またも丸つぶれ(笑)

差別主義なんて、所詮そんなものだ。




その後、またもターボエンジン禁止を打ち立てたものの



F1レースの人気が落ちる(笑)。



ヨーロッパ人も、古い差別主義は
つまらないと思う人々が増えて来たのだ。


世界一だからこそのF1レースだと
思う人々が増えてきた新時代。


ルールを捩曲げて、ヨーロッパ人だけが
勝っても

そんなのは草レースだ。



世界の資産の70%が、僅か1%の
お金持ちに握られていて
ヨーロッパの経済が停滞しているのと無縁でも
無かった。

アメリカに黒人大統領が生まれ、アジアンが
経済力をつけてきて。




再び、F1レースにホンダが戻って来る。


コーリンは、今どこにいるのだろう?


記事に出来なかったから、Megは
すこしがっかり。



「書いてもいいんじゃない!」と
ルーフィーに当たる(笑)



女だねぇ、とルーフィーも
それには慣れているけれど



「彼と彼女の幸せのためさ」と微笑むと


Megも、何も言えない。



幸せってなんだろうと自問するけれど



一緒にいられる事かな?なんて

月並みな事を思った。



魔法使いルーフィーだから


コーリンがどこにいるかは
だいたいわかる。



あてずっぽうで、彼の居そうな
ところへ飛んでみると


そこは、どこか深い山奥で

自動車がたくさん。
サーキットを駆け回ったり、測定されたり。



その中に、ふつうの作業着を着た
イギリス人。
髭を貯えた、厳格な表情。



「彼か」



ルーフィーも、同じ白い作業着姿に化けて(笑)



それは、何て言っても
魔法だ(笑)。





コースから離れた小屋で

クルマの動きを見ているチャプマンに近づいて。



英語で話し掛けると、チャプマンは

驚く。



「君はイギリス人か?」



ルーフィーは「はい。」



チャプマンは「私の事を追って来たのか」と

言うので、ルーフィーは、いいえ、と言って




「信じなくても結構ですけれど、僕は未来から来ました」と言うと



チャプマンは「そうか。ロータスはどうなった?」



大丈夫、安泰ですとルーフィーが言うと




彼は、ようやく笑顔を見せて




「こんなはずではなかったのだが。
どういう訳か、罪に問われる事になっての。
心臓の発作が起きた。
その時、日本人の医者が
助けてくれたんだ。


それで、日本にコンテナで運ばれて」

貨物用のコンテナには冷暖房もついている。


それに入れられて来た、と
コーリンは言った。





「その事件が、仕組まれた事かもしれないと
僕は思うんです。」ルーフィーは言った。




「そうか、そうかもしれない。
騎士道精神も廃れたな。でも、日本人には
まだ
武士道の精神が残っているらしい。
こうして、助けてくれたしな」と、
サーキットを駆け抜けていくF1マシンを見て、そう言った。




「レースには真実がある。遅いやつは負ける、それだけさ。
どんな手段を使っても、同じさ」と

コーリンは笑った。


それは、長い間
モータースポーツに携わった男の笑顔、だっが。


「ダメな奴らって、いつでもそうさ。
汚い手段を使って俺に勝ったって、最初から
自分に負けているって事がわからないんだ」と
コーリンは笑った。


それは、まるで来たる時代で
自らの率いていたロータスF1が、ホンダエンジンを得て

再び勝利を上げる事を予見しているかのようだ。




ルーフィは「いつか、必ずそうなります」と
時間旅行者としては、精一杯の言葉を述べた。

元々、1965年から

ホンダとロータスは親交があったから

コーリンの窮地を助けた事の不自然ではない。


たまたま、危篤だったコーリンを
日本人医師が救ったのも。



でも、なぜ
日本に運んだのだろう?



ルーフィの疑問は残る。



服役を逃れる事を助ければ
イギリス国内では罪である(しかし、日本に
来てしまえばイギリスの捜査は届かない。
死んだ事で、服役は実行されないのは
当然だ)。


そこで罪になるのは、死亡診断書の偽造だけだが


それを日本人医師が書いた証拠はない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

パーティからリストラされた俺が愛されすぎている件。心配だからと戻ってくるけど、このままだと魔王を倒しに行かないので全力で追い返そうと思います

たかみ
ファンタジー
少し角度の違うリストラざまぁ系です。 実際のざまぁ系とは若干違うかもしれませんので、通常のざまぁ系をお求めの方はご注意ください。 具体的に言うと、パーティのひとりがとても酷い思いをしますが、なんかズレています。 コメディ感覚で読んでいただけると良いかと思います。 魔王討伐の旅の途中、主人公のカルマはパーティから戦力外通告を受けて、交易都市クレアドールへと置き去りにされてしまう。 だが、そのリストラは優しさに満ちたものだった。 手切れ金として使い切れないほどの資金。宮殿クラスの家屋に大勢のメイドや召使い。生活に困らないよう、近隣の企業や店も買収していってくれていた。 『あいつら、俺のこと好きすぎるだろ……』 パーティのリーダーは、カルマの姉――勇者フェミル。子供の頃からの凄まじいブラコン。現在進行形でカルマを甘やかしたくて仕方がなかった。凜々しく美しい姫騎士イシュタリオンも、カルマのつくるご飯が大好きで好意を抱いている。ツンデレな賢者リーシェも、努力家のカルマのことが好きでたまらない。断腸の思いでリストラしたのだろう。そもそも、カルマは強い。ギルドではSランク判定を受けるほどの実力なのだ。チート級に強い姉たちのせいで霞むだけなのである。 しかし、姉の気持ちを察したカルマは、自分が町でぬくぬくと暮らすことこそ、姉ちゃんたちが安心して旅を続けることができると思い、この贅沢な環境を受け入れることにする。 ――だが、勇者フェミルたちは、カルマ離れできないでいた。 旅の最中、カルマに会いたい衝動に駆られる。なにかと理由を付けて、彼女たちは町へと引き返してしまうのである。カルマを甘やかすため、屋敷の改築に私兵団の結成、さらなる企業の買収、交通網の整備などの内政を行い、なかなか旅に戻ろうとしない。 ひたすら発展していく町と、自分の生活環境を眺めて、カルマは思う。 ――このままでは魔王討伐ができない。俺のせいで世界が滅びる。 旅に戻ってもらうため、カルマは甘やかしを振り切って、姉たちを町から追い出そうとするのだった。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

庭にできた異世界で丸儲け。破格なクエスト報酬で社畜奴隷からニートになる。〜投資額に応じたスキルを手に入れると現実世界でも無双していました〜

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
※元々執筆していたものを加筆して、キャラクターを少し変更したリメイク版です。  ブラック企業に勤めてる服部慧は毎日仕事に明け暮れていた。残業続きで気づけば寝落ちして仕事に行く。そんな毎日を過ごしている。  慧の唯一の夢はこの社会から解放されるために"FIRE"することだった。  FIREとは、Financial Independence Retire Earlyの頭文字をとり、「経済的な自立を実現させて、仕事を早期に退職する生活スタイル」という意味を持っている。簡単に言えば、働かずにお金を手に入れて生活をすることを言う。  慧は好きなことして、ゆっくりとニート生活することを夢見ている。  普段通りに仕事を終えソファーで寝落ちしていると急に地震が起きた。地震速報もなく夢だったのかと思い再び眠るが、次の日、庭に大きな穴が空いていた。  どこか惹かれる穴に入ると、脳内からは無機質なデジタル音声が聞こえてきた。 【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、一部パラメーターが上昇します】  庭の穴は異世界に繋がっており、投資額に応じてスキルを手に入れる世界だった。しかも、クエストをクリアしないと現実世界には戻れないようだ。  そして、クエストをクリアして戻ってきた慧の手に握られていたのはクエスト報酬と素材売却で手に入れた大金。  これは異世界で社畜会社員が命がけでクエストを達成し、金稼ぎをするそんな物語だ。

サ終手前の元覇権ゲームを極めた俺、再ブームした世界で無双する。

ファンタジー
世界初! 圧倒的グラフィック! 高性能AIによる生きているかのようなNPC! 脳波を読みとるヘッドギアが織りなすリアルと遜色ない操作性! どう成長するかはプレイヤー次第の自由成長システム! キミを待つのはゲームじゃない。もう一つの世界だ。 な〜んて謳い文句で世界中のゲーマーを虜にし、大ヒットを記録したのは過去の栄光であり、過疎も過疎、運営すらも匙を投げたVRMMORPG【Another verse online】。 そんなゲームを共に遊ぶフレンドすら失ったにも関わらず、飽きずにソロで周回する毎日だった主人公。 大規模アップデートをする!と大々的に告知されてから丸2年。アプデに対して黙りこくっていた運営がとある発表をした日から、世界は大きく変わることとなる… カクヨム様でも投稿しています。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...