ふたりの薗子

深町珠

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ラクロス

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鉄道のガードを越えて、上り坂を歩いていると
プジョーのお店の前には、ミッション・スクール。
ちょっと洒落た雰囲気のせいか、この街の女の子には人気の学校だった。

日曜だったから、学生の姿はまばら。
ラクロスのケースを肩に掛けた女の子が数人
楽しそうに話しながら歩いて行った。

.でも、だからと言って、それに関心を持つような事もなかった。
なにか、何かが違う。僕はそう思っていた。
あまりに、この人たちは現実的過ぎて
恋、なんていう感情を醸す対象足り得ないと思ったから。
どこか、夢を描けるような何か、がほしいと思った。だから

こうした日常の中から、恋が生まれる。
なんて、想像もできなかった。



ミッション・スクールの筋向かいには、モバイル・フォンのショップ。
大きな硝子窓に、涼しげなディスプレイ。もう夏、と言う感じだけれど
早すぎるなぁ...

そう思ってディスプレイを見ていると、<\0>と言うプライス・タグが

目に入った。
僕は、携帯電話を持っていない。もともと、友達が多い訳でもないし
遊び好きな訳でもなかった....と。

そう、嘯いては居たが、本当は少し格好を付けているところもあった。

だから、<\0>が気になった。
情けないかもしれないが、現実はそんなものかもしれない。


「いらっしゃいませー。」モバイル・フォン・ショップの店員の
お姉さんがにこやかに声を掛けてくれる。

軽やかな声に、僕はなんとなく心弾んだ。

いつもなら、「アタイこんなことしたくないけど、商売だから」と
言いたげな、心の入っていない「いらしゃいませこんにちはー」を
聞くだけで踵を返して帰る僕だった。

いらっしゃいませは、こんにちはじゃないんだよ。

なんとなく、その、本当に「いらっしゃいませ」と思っていない
イントネーションも大嫌いだったし、こんにちは、なんて言う
爽やかな言葉を、おざなりに言わせる店も大嫌いだった。

だけど、この日は違っていた。
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