タビスルムスメ

深町珠

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友達

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愛紗は、ふと思い出す。
東山急行に入社したのは・・・当時流行のDMV乗務が出来るかもしれないと
思ったのも少しあった。
西営業所で、導入テストが行われていたのである。

・・・そう思うと。どこかに鉄道への憧れがあったのかな・・・・。

でも、鉄道の運転士は夢のまた夢だと思っていて
自分なんかには無理だと思って、それでバスへ、と・・・


でも。

理沙のように、一歩一歩頑張って。それで機関士になった。

美しく見えた。清々しかった。




なんて、わたしはダメなんだろう・・・。と、思った。



何が違うんだろう、わたしと。


「やっぱり、心構えかな」


みんなが、楽しそうに、にぎやかに
オハナシしてる時、愛紗は、なんとなく物思い。



理沙は、その愛紗の様子を見て・・・
近くで、静かに「バスの運転ってすごいねー」と、明るく。


愛紗は、突然だったので少しびっくりして。「そうですか?」


理沙は「うん。だって。道路って人も歩いてるし。私、無理無理」

と、明るく笑うので、愛紗も笑顔になって


「わたし、まだ乗務はしてなくて。教育中に怖くなって、会社が
無理するな、って言ってくれて。それで・・・」

気にしてたことを言った。


理沙は「うん。無理することないと思うなー。ホント。怖い事我慢しなくても。」


そう言われると・・・なんか、愛紗は涙が出てきて。


ごめんなさい、と・・・・お部屋を出て行った。



回廊から、階段を昇って屋上へと。

重いドアを開くと、夜風が心地良かった。


木綿のハンカチーフで、涙を拭いた。


由布院の風が、ふわり、と・・・
解いた、愛紗の髪と
心に触れていった。



愛紗、と、友の声。


菜由だった。

愛紗は、にっこり。

菜由は、笑顔を返して「よかった。大丈夫みたいね」


愛紗は「ごめんね。心配かけて」

菜由は、何も言わずに愛紗の肩を抱いた。

愛紗は、温かみを感じて、また落涙した。
「わたしって、ダメ」と・・・。

菜由は、愛紗の背中をぽんぽん、と叩いて。

「そんなことないよー。ガイドだってちゃんと出来てたし。
ただ、バス・ドライバーは危険すぎるよ。私たちには。
理沙ちゃんもそう言ってたんでしょ?」


愛紗は、落涙しながら、こくり、と頷いた。


「しばらく、ゆっくりしたら?ドライバーは諦めて」


その、菜由の言葉に・・・愛紗は
何か、心にささっていた氷が
解けていくような気がした。



ふたり、しばらく・・そうして。風に吹かれていた。



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