タビスルムスメ

深町珠

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新水前寺駅にて

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築堤の上を列車が、ゆっくりゆっくり。駅で停車した。
水曜日の午後なので、降りる人はまばら。
銀色の電車、長い編成。ストライプが3本。

特急電車かな、と、友里絵は築堤を見上げて。

はい、有明だと思います、と真由美ちゃん。
水前寺にお参りする人の為に、この駅まで特急電車が乗り入れられていて
電化前は、ディーゼル機関車で牽引していた。

「新水前寺」と、書かれた駅名看板が、直裁でいいな、と愛紗は思う。
コンクリートの階段があり、ホームへ上がれるようになっていて。


ちょっと、真由美ちゃんも淋しそう。

友里絵は、ちょこちょこ、と・・・ホームへ上がって。

「あれー?」と。声を上げた。

階段はちょっと暗いので、明るいホームの友里絵はシルエットにしか見えない。

由香は「ゆりえー、どしたの?」

友里絵は「ゆかー、ほら、あの、さっきメールくれたCAさん」

由香も、階段を駆け上がった。

真由美ちゃんも、続く。
愛紗、菜由も登った。

列車のドア前に立っていたのは、昨日、吉松駅で別れた「はやとの風」のCAさんだった。

凛々しい感じの美人なんだけど、友里絵と話していると
ふにゃ、と、かわいい笑顔になる。

「偶然ですねー。」と、にこにこ。

友里絵も「あたしもびっくりだよー。さっき、メールくれたから、お電話しようと思ってたの。
ちょうど良かった。
きょうね、真由美ちゃんが熊本を案内してくれたの。」

真由美は、会釈。こんにちは。

CAさんもにっこり、「こんにちは」


友里絵は「夕方、お兄ちゃんと駅で待ち合わせなの、真由美ちゃん。」

CAさんは「あ、それじゃ、この列車で折り返し回送だから、乗っていけば?」


真由美ちゃんは突然だったので、「え、あ、はい。そうします」

乗客が降り、CAさんは「乗降、終了!」と。確認。


真由美ちゃんに「ドア閉めるわ、乗ってくでしょ?」と。

真由美ちゃんは「あ、はい。それじゃ・・・。」と、促されるままに
銀色の電車に乗り込む。

「楽しかったです。また、来てくださいね!」と、真由美ちゃん。
淋しそうだけど、涙をこらえて。

友里絵も、明るく「じゃーねー、また来るから。お兄ちゃんのお嫁さんになって!」

ははは、と・・・明るく。

CAさんは乗務員室に入り、ホーム乗降確認。

再度。

乗降、終了!

乗務員室扉の横にある、ドア・スイッチを下げた。

空気シリンダに空気が入る音。

しゅー・・・。

引き戸式のドアが、がらり、と、閉じて。

真由美ちゃんと、友里絵の間に銀の扉が閉ざされて。

CAさんは、乗務員室に入り「じゃ、また!」にっこり。

友里絵は「真由美ちゃん、宜しくお願いします」

CAさんは「まかしといて」と、口調が綻びる。にっこり。
笑うと少女のよう。


乗務員室ドアを閉じ、腕時計を見て
ブザー連絡。 ツー、ツ、ツー。

運転士からも返信が。

CAさんは「わたし、これで勤務解放だから、真由美ちゃんと一緒に
お兄さん待ってあげる」と、にこにこ。

乗務員室の窓を開けて、ホームを確認しながら。


友里絵は「ありがとー。お願いします」と、ペコリ。



運転士は信号現示確認。

新水前寺、出発、進行!

定時!


2ノッチに緩めてあったブレーキを、解放。

MCを1ノッチへ。


ホーム、安全、よし!

前方を確認。

緩く右カーブしている築堤上の線路に障害はない。

前方、よし!



電車がゆっくり、ゆっくり・・・。熊本に向かって走り出した。

風が巻き込んで、友里絵の長い髪を揺らして。

車掌室で、真由美ちゃんとCAさんが手を振っていて。

カーブを曲がって、ゆーっくり・・・見えなくなった。


「行っちゃった。」と、友里絵。

由香「なんか、あっけなかったね。」

菜由「でも、かえってよかったかも」

愛紗は「泣いちゃいそうだったもんね、真由美ちゃん」


ホームに、風が吹きぬけた。




傾きかけたお日さまが、時間を告げている。

友里絵は「次の下りで行くの?」

愛紗は「そう。立野乗換えで。高森線の終点まで。
あとは町内バス。・・・・いまからだと最終に間に合うかな」


菜由は「最終って?」

愛紗「17:30。」

友里絵は「いいなー、日勤」

と、現実味のある言葉を。

言うので、愛紗も、ふと、現実を振り返った。


・・・旅が終わったら、どうするんだろ、あたし・・・・。

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