タビスルムスメ

深町珠

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662D,人吉、定発!

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人吉駅は、改札掛さんが
駅舎の中から切符を見るタイプ。
一応、改札口にラッチはあるが
そんなに忙しく、人が乗降することはないらしい。

友里絵は、どこかに行ったかと思うと・・・急がしそうに帰ってきた。

由香「なにしてたんだ?」
と。時間を気にして。

友里絵「おみやげだってば」
と、なんだか・・・白いビニール袋を下げて。

由香「昨日、宿で見てたじゃん」
袋の中を見ると・・・駄菓子がいっぱい。


コーラ、えびせんべい。

キャラメル。

アメ玉。

よっちゃん酢いか。

揚げいか。


ラムネ玉。

チーズあられ。



真由美ちゃんも「なつかしいですね」と、にこにこ。

友里絵は「そでしょ?ね。なんかお菓子あると・・楽しいよね」



「あとね、水あめがあると・・・いいけどね」と、友里絵。


菜由は「紙芝居のおじさんが持ってくるの」

愛紗は「なんか、おせんべいに挟んでくれるのね」

真由美ちゃん「そうそう」(^^)。

沈んでた気持が、明るくなった。



駅員さんがマイクで「急行、球磨川2号は1番線から発車しまーす」


愛紗たちは周遊券を駅員さんに。

真由美ちゃんは職員証を出そうとしたけど、駅員さんは「いいよ」と。
顔パス。


「いいなあ。何でも乗れるの?」と、友里絵。


真由美ちゃんは「・・・在来線は乗った事ありますけど。指定席は取らないとダメだと
思います。乗った事ありませんけど」


愛紗は「割引になると思ったな」

真由美ちゃんは「そうだった・・かもしれません」
と、すこーし考えの表情。

菜由は「すごーい、愛紗。よく知ってるね」
と、びっくり。


愛紗は「へへ」と、言ったけど
無意識で。


・・・・・そういえば、ずっと昔に・・・・
そういう事があって、指定券を割引証で貰ったような・・・。
そんな気がしてきた。


・・・誰と一緒に行ったんだろう?




改札を通り、1番線ホームへ。
急行「球磨川」2号は、既に停まっている。

友里絵は「折り返しかな」
と、ふるーい車両のディーゼル・エンジンの響きを聞きながら。


真由美ちゃんは「はい。1号が人吉までで、その折り返しで熊本行きです。
湯前行きもあります」


由香は「さすがは乗務員さん」

真由美ちゃんは「はい。これはアンチョコがあるんです。見てると覚えますね」

友里絵は「あ、あるある!あの、車掌さんが持ってるカードの」


真由美ちゃん「はい。乗り継ぎ列車とか、書いてあります。
でも、遅れた場合は書いてないので、それは調べるしかないですね」


由香「そうそう。
「駅員にお尋ね下さい」

って言ってるね、良く。」と、にこにこ。


1番線ホームに停まっている車両に、乗り込む。
クリーム色で、窓のところだけ赤い。
よく見かける車両だ。
けっこう、あちこち凹んでいるように見える。」



エンジンの音が、ちょっと変わっていて
がらがらがら・・・・ではなくて

ごー・・・・と。連続音だ。

屋根の上に排気管があり、そこからの煤で結構、屋根が黒くなっている。


ディーゼルカーは、バスみたいな感じだけど
この列車は、船みたいな感じ。


ドアは、特急型らしく
デッキにある、一枚、引き戸タイプ。
薄緑の、室内塗装が・・・なんとなく・・・懐かしい。

「うちの近所にも走ってたね」と、菜由。
「まだ、走ってるんだね」と、愛紗。微笑む。

由香は「東海道線で、むかーし、走ってたのに似てる」
友里絵「そうそう。オレンジ色の」

真由美ちゃんには、日常(^^)。

旅すると、そんなふうに・・・懐かしい気持に出会えることもありますね。




駅員さんのアナウンスで「1番線、熊本ゆき、発車します」と。
直裁に。
単純な方が、聞く人には嬉しい。
車掌さんの笛が鳴って。
指差し確認。

信号、よし!
乗降確認、よし!
ホーム安全、よし!

乗務員室扉にある、ドアスイッチを上げる。


ドアが閉まるとき、「ツー」と、機械音のブザーが鳴るところが
旧式らしく、懐かしい。

床が、すこし暖かいのは
エンジンが大きいから。
車体も、少し揺れている。


全体が、有機的な生き物のような感じが
愛紗には、親しんでいたディーゼル・エンジンの
大型バスのような感じがして、好ましかった。


シートは、緑のモケットで
それも、なんとなく見覚えがある懐かしさ。

シート肘にある、小さな灰皿、ところどころ焼け焦げのあるシートも
時代を思わせる。

今は、煙草を吸う人もいない。

時代の変化、だろうか。

ふたり掛けのシートが、並んでいて。

水曜の午前なので、空いている。

友里絵は「向かい合わせにしよっ」と、通路側にあるシートの下にある
ペダルを踏んで。
シートをぐるりっ。

「こないださーぁ、シート倒してるおじさんが居て。
勢いよくまわしたら、シートがゴン!」と、友里絵。

真由美ちゃんはころころ笑う「かわいそうですー。」

由香「危ないなぁ」と、笑いながら。

愛紗「まあ、人には当たらないと思うけど」と、マジメ。


シートを向かい合わせにして「あ、でも、5人は初めて」と、友里絵。

「ほんと」と、真由美ちゃん。


「新幹線だったら6人だね」と、由香。


菜由「そうだね、一昨日だったら」



真由美ちゃんと、友里絵が窓際に。
友里絵の隣に由香。
真由美ちゃんの隣に、菜由。
廊下を挟んで向かい側に、愛紗。

「いえ、わたしは乗務員ですから・・・」と、真由美ちゃん。


「いいの!今日は非番でしょ?」と、菜由。

友里絵「おまわりさんみたい」


「都知事と同じ、青島です」と、由香。敬礼のポーズ。


「古いぞ」と菜由。


愛紗は「今は・・・誰だっけ」

友里絵は「なんだっけ、あの、カブトガニみたいな顔の人」

真由美ちゃんは「カブトガニって・・」と、くすくす。



ごー・・・・と言うエンジンの音はあまり変わらないのに
車体がゆっくり走り出す。

ブレーキを解放したのだろう。
下り坂なので、それだけで
エンジンは、ごー・・・のまま。

アイドリング。


車体は、重そうに

がったん、がったん・・・・。


愛紗は、車窓を見ながら・・・・。
人吉、いろんな事あったな。いっぱいお話したな・・・。
なんて。

旅情に耽る。
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