タビスルムスメ

深町珠

文字の大きさ
上 下
123 / 361

いい子、悪い子、ふつーの子

しおりを挟む
愛紗は思う。友里絵ちゃんはとてもかわいい。

天衣無縫なところは、深町とよく似ているな、とも。

「友里絵ちゃん、かわいいわ」と、愛紗は心から、そう言った。


友里絵は「えー。あたしみたいな不良が?」

由香が「自分で言うな、って。タマちゃんも言ってたじゃん」

菜由は「深町さんが?」


友里絵は「そう。不良なんかじゃない、キミは。世の中がヘンなんだ」



愛紗も、その気持は判る。友里絵ちゃんはまっすぐに生きて行きたいと
思っているだけだ。
自分は、なんて不純なんだろう。
友里絵ちゃんを見ると、そう思う。


上手く立ち回って、いい子でいようとする癖がついているし
いい子でいないと、回りが規制する。

だから・・そうなってしまった。


それがイヤだったのではないのか。


そんなふうに、気づく。


バス・ドライバーになろうとしたのも、反発だったのかもしれない。





「どうしたら、友里絵ちゃんみたいになれるのかな」と、愛紗は思わず。


友里絵は「あたしは、前からこんなだもん。ずっと。
あたしは、愛紗みたいにかわいいお嬢さんになりたいな」



由香は「こじきと王子、みたいね」

友里絵は「あたしはこじきかい」


「そーじゃないの。ほんっとに学がないね、あんた。
そういうお話があるの!」と、由香。
笑って。



菜由は「なんかあったね、小学校で習ったっけ。
お互いに相手が良く見えるけど・・・立場を変えて見ると
それなりに、いろいろある。そんな感じの」



みんな、それぞれにいいトコがあるよね。
ほんと。






「明日は、どうするの?」と、友里絵。


愛紗は「隣の駅が、日本で一番南にある駅、だったかな。
お山が綺麗に見えて、あの辺りにでも行ってみようか。
湖もあるし。行ってみたいところある?」


菜由は「わたしは地元だから、一杯見てるし。普段来れない人が
決めたら?」


由香は「そうだね。2泊だったら一泊はそんな感じで」

友里絵は「うん。そだね。のんびりした方が楽しいかも」


「湖は恐竜がいるって」と、菜由。


友里絵は「本当にあった怖い話」の愛読者なので・・・
「それ、行ってみよう!」

由香は「まあ、ネッシーと一緒じゃない?」

菜由は「イッシーだって」

由香「ほらね」


友里絵「イッシー緒方」

由香「字が違うってば」


友里絵「いっしっし」

由香「ケンケンかい」


友里絵「なにそれ?」



由香「ブラック魔王の」


友里絵「あんたがブラック魔王じゃ!とりゃ」と、空手チョップ(^^)。


由香「やったな、このぉ」と、枕を投げる。


「やーめーろって。修学旅行じゃないんだから」と、菜由。


楽しく、指宿の夜は更ける。












同じ頃、深町は新幹線から在来に乗り換えて
片野駅で下車。

「やれやれ、今日も終わった」

駅前を歩いて、バスロータリーの前を通ると
東山のバスが見えた。



「誰かなー。」と、ちょっと覗いてみると

古参のドライバー、伊郷が
時代小説を、運転席で読んでいた。

大柄、短髪、白髪交じり。
ちょっと中尾彬に似ているけど、温かみのあるいい人。

入ったばかりの頃、深町をいろいろ、助けてくれた。

まだ、担当車が持てない頃、人のバスをぶつけてしまい
そういう時、担当が怒らないように話をしてくれたり。


過酷な貸切業務の時、新人が楽をできるように
早く、帰宅させてくれたり。


家来にするのではなく、育ててくれた。
とてもいい人。

それだけに、バスを辞めてしまった今では
ちょっと、申し訳ない気持が一杯。


でも、会うと笑顔で「やあ、タマちゃん、元気ー。」なんて
変わらない笑顔で接してくれる。


そんな、いい人。


この日も・・・・「やあ」と、運転席の横の窓を開けて
「時代劇、書いてるー。」


深町がお話を書けるので、時代小説をリクエストしたのだった。


「こんばんは。書いてるけど人気でないね」

と、いうと伊郷は、笑顔で

「まあ、そのうち売れるかもね」

元、何かの会社を経営していた、と言う人で
確かにそういう、きっぷのいい、親分肌のところがあった。


「あ、そっか。今はなんか、すごい仕事してるんですね」

と、言葉まで丁寧になるので、深町は



「すごくないですよ。誰でもできます」


と、言って笑う。




「そっちで頑張って。戻ってこないでいいよ」と、野田と同じ事を言う。


「はい」と、深町も素直になれる。この人の前だと。


でも、気持の上では・・・・また、あの頃に戻りたい。
そんな気持だったりもする。



勤務はきつかったけど、温かい思い遣りのある人たちに囲まれていた
あの頃に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

とうめいな恋

春野 あかね
青春
とうめい人間と呼ばれている瑞穂と、余命僅かと宣告された爽太は一週間だけ、友達になるという約束をする。 しかし瑞穂には、誰にも言えない秘密があった。 他人に関して無関心だった二人が惹かれあう、二人にとっての最期の一週間。 2017年 1月28日完結。 ご意見ご感想、お待ちしております。 この作品は小説家になろうというサイトにて掲載されております。

これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範
ホラー
 オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。  読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。  (*^^*)  タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。

【完結】何やってるんですか!って婚約者と過ごしているだけですが。どなたですか?

BBやっこ
恋愛
学園生活において勉学は大事だ。ここは女神を奉る神学校であるからして、風紀が乱れる事は厳しい。 しかし、貴族の学園での過ごし方とは。婚約相手を探し、親交を深める時期でもある。 私は婚約者とは1学年上であり、学科も異なる。会える時間が限定されているのは寂しが。 その分甘えると思えば、それも学園生活の醍醐味。 そう、女神様を敬っているけど、信仰を深めるために学園で過ごしているわけではないのよ? そこに聖女科の女子学生が。知らない子、よね?

汽車旅つれづれはなし

深町珠
エッセイ・ノンフィクション
鉄道の旅についてのあれこれを、ちょっとノスタルジックに お送り致します。 筆者は汽車旅歴40年余、夜行列車ファン。 国鉄一家の孫子。

処理中です...