上 下
21 / 38

才能

しおりを挟む


「そうできたらいいなぁ。」と、僕が言うと

そうしなよ、と
渉さん、ナオミさん。

「はい、僕、苦学生なんです、ハイ。
バイトしながら学校に通ってます」と、明るく言った。

渉さんは「なーるほど。でもさ、お金はなんとでもなるよ。
芸術系だとね、『文化財団』って所で奨学金貰えるよ。
才能が認められばね。」と、にっこり。

ナオミさんは「そう。私もね、それだもの。大学だけど。」


「それは知りませんでした。でも、才能はないなー。ははは。」と
笑うと

渉さんは「あれだけ弾ければ大丈夫だよ。音楽科とかだったら。
それに・・・。」

「それに?」


「演劇科だと、とりあえず入れちゃうね。演劇って作り上げるものだから。
最初から才能ある人っていないもの。」と、渉さん。

ナオミさんも「まあ、私もそうかもしれないわ」と、笑う。


渉さんは「ダンスは別だよ。」と。


芸術・・・・。
考えた事もなかった。

「ありがとうございます!なんか、希望が出てきた。」と、僕は

礼を言って、演劇科を後にした。


「そろそろ、お昼かな?」

12時少し過ぎ。



「アメニティのみんなは、お昼に来てるかな?」


学食は、それぞれの棟にあるので・・・。
探すのは大変(笑)

演劇科にはいないだろうな。


音楽科。4階の、眺めのいい辺りが
スカイレストランみたいになっている。

山の上だから、遠くまで良く見えて。

電車の線路、遠くかすんだ山脈、富士山。

よく見える。


きょうは夏休みだから・・・。ひと気は殆ど無い。


窓辺に、靖子さんを見掛けた。

でも、なにか物思いに耽っている様子なので
声を掛けずに。

「じゃ、みんなは美大のとこか」と。

けっこう広い階段を下りていく。

壁は、コンクリートに塗装で
至ってシンプル。

それがかえって美しく見える。


広い大学だから、歩くだけでも結構な運動になる。


最初に入ってきた、美大の学食に行った。

うららさんと陽子さんが居て
僕を見つけて。

「こっち、こっち!」と、うららさんは
手をあげて。

学生の姿は少ない。


「どう?面白かった?音楽科」と、うららさん。

「はい!セッションしちゃいました。そしたら演劇科に呼ばれて。
渉さんに、ミュージカルやろうよ、なんて話をして。」


うららさんは「面白そうね、あの子。キミ、音楽系っぽいものね。」と。


僕は「付属高校へ転校すれば?って。言われました。」と言うと

陽子さんも「いいアイデアね。」と。

僕は「芸術財団と言う所で、奨学金が借りられるかもしれない、と言う
お話を聞いて。ちょっと希望が沸いてきちゃった。」と、笑う。


うららさんは「音楽だと、あるわね、そう言えば。
音楽ってお金になりやすいし。」と。


「どういう事ですか?」


うららさんは「うん、例えばキミが、歌手になったり、作曲家になったり。
そういう事もあるし。
絵よりは簡単に売れるもの。」



「なるほど・・・。」


「うちの会社でもね。音楽科の学生に投資しているのは
そういう可能性もあるから、だったりもして。」



「なるほど・・・・。」


「なるほど、ばっかりね」(笑)


「あ、いえいえ。なるほど、ザ、ワールド!じゃないものね」と
僕は笑った。


うららさんは「でも、転校できればね、ホント。
私達の心配も無くなる。


「心配って?なんですか?」



「陽子ちゃんのカレシがどっか行っちゃうって事。」

と、うららさんは笑った。


陽子さんは、ちょっと恥かしそうに俯く。



・・・でも、僕が思うには。
例えば理佳さんたちのような友達が沢山出来て

その中のひとりと親密になったとしても
それもいい事なんじゃないかな?なんて風にも思う。

陽子さんにも、そういう可能性がないとは言えない。


しばらく過ごしてみて、結果としてしあわせなカタチが
一番無理がないんじゃないかなぁ、なんて思ったりもした。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

短短編集

さきがけ
青春
淡々と。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Lotus7&I

深町珠
青春
主人公:27歳。夜、楽器を演奏したり、車で走る事を生きがいにしている。 ホンダCR-Xに乗り、コーナーリングを無類の楽しみとしていた。後に ロータス・スーパー7レプリカを手に入れる。 しかし、偶然、事件に巻き込まれる。 死んだはずのロータス社創始者、チャプマンの姿を見かけたからだった。 横田:主人公の友人。オートバイが縁。ハーレー・ダビッドソンFX--1200に乗る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

DiaryRZV500

深町珠
青春
俺:23歳。CBX750F改で峠を飛ばす人。 Y:27歳。MV750ss、Motoguzzi850,RZ350などを持っていた熱血正義漢。熱血過ぎて社会に馴染めず、浪人中。代々続く水戸藩御見医の家のドラ息子(^^:。 Nし山:当時17歳。RZ250。峠仲間。 などなど。オートバイをめぐる人々のお話。

処理中です...