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〜24系25形"はくつる"12列車〜 2002/12
[機関車交換]
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国鉄時代はこのはくつる号も、朧げな記憶では何回か機関車の付け替えがあったように思える。
もっとも東北本線が全線電化されたのは昭和43年の事だからそれ以前の蒸気機関車時代は
上野-青森間を一台の機関車で牽引するのは現実的ではないというところから考えると
幾度か機関車交換の必要があったという事になる筈だ。その後、昭和40年前後の筆者の記憶
では、青森から盛岡までがDD51ディーゼル、盛岡から黒磯までがED79あたりの交直流型
電機で、黒磯から上野までの直流区間をEF58など直流電気機関車で牽引していたように思う。
直流区間はEF65なども使用していたかも知れない。
当時、東北・奥羽本線経由だった「あけぼの」がEF65牽引だったように記憶している。
このように細分した機関車運用であったのは動力車職場の慣習であったらしいと聞くが
機関士としても気心の知れた検修員が整備した使い慣れた機関車での乗務の方が気楽だったの
だろう、などとも思える。
現在のダイアでは機関車交換なしのこの12列車だが、盛岡駅の停車時間だと段取り良く行えば
ここで機関車交換が可能かとも思えるが昔の名残なのかもしれない。
[盛岡、定発!]
盛岡駅をこれも正確に定時発車した12列車は、盛岡駅の真っ直ぐな構内をゆっくりと進行し
ポイントを通過し本線へと入り、東北新幹線の高架線を左手に見ながら漆黒の闇へと
二条のヘッド・ライトは進む。
機関士がノッチを進段したのかすこし衝動の後、オハネ25型はぐいと力強く引かれて加速を始めた。
スムーズに速度は増してゆき、やがて先程と同じようにレール・ジョイントの通過音は等間隔で
心地良く響いていて、車輪の振動も規則正しく寝台を揺らす。
レールの長さが同じなら、ジョイント通過の間隔音が同じなのは速度が同じだとということに
なるだろうから、先程とほぼ同じ速度で巡航しているのだろうと思える。
最近ではレール・ジョイントを斜めに繋ぐ工法もあるが、より乗り心地が良くなるだろうし
車輪踏面や路盤への影響も少なくなるのではないかと期待できる。
鉄道のインフラストラクチャー、基本は路盤の整備であるが保線職員の仕事は
夜間になることも多く機械化が進んだとは言うものの現在も大変な仕事であることには違いない。
JR化に伴い、保線区の仕事はほとんど専任の民間業者が行っていると云われているが
鉄道員という誇り無くして保線業務に携わると言うのも少々気の毒な気もするが..
時代の流れであろうか。
事故の危険に晒されながら深夜、雨の日や雪の日もあるだろう。
そんな時刻に地道な土木作業を繰り返すと言うのが保線という仕事であるから
旧来、国鉄時代は鉄道員という誇りがあってこそ勤まる仕事であるなどとも言われていた。
時代の変遷に伴い意識も変わるのだろうか。それとも好い条件の労働と言えるのであろうか。
盛岡から先の12列車に時刻表上の停車駅は無く乗客としては次の停車駅は宇都宮となる。
しかし前述の通り運転停車がある筈....だ。
車内は既に減光されてすっかり深夜の様相である。風も睡る時刻..と言うのだろうか、
ほぼ満席の車内は安らかな寝息に包まれている。
下り11列車とは異なり、酒盛りをする方も見えなかったのはやはり「これからふるさとへ帰る」列車と
「都市へと旅立つ」列車の違いか。
どこかしら皆の顔も寂しげに思えたが、ただ、遊びに行く青森人風の若者たちだけが楽しげに
談笑していたのが昨夜の風景として印象に残っている。
[カレチさんもひとやすみ?]
盛岡-宇都宮間、およそ6時間程。
カレチさんにはしばし休息...と思いきや、眠る訳にも行かない。
車内巡回、運転停車、緊急時への対応等と業務もある。勿論仮眠は出来るとしても
寝台が取ってあるという訳でも無く狭い乗務員室での仮眠である。
保線業務とは違う意味で乗務員というのも過酷な仕事である。
筆者は幾度か車掌の乗務に同行させてもらった経験がある。
それは昭和40年代、十和田、八甲田などの座席急行の乗務に同行したのだが
急行という事で乗務時間も長く、停車駅も多いその運行のほとんど参ってしまった記憶がある。
眠る事もままならず、偶発的な事態に常に備えているという職業...
現代では他にどのような職種があるだろうか。
警備員、タクシードライバー、深夜バスドライバー、警察官、航空機の客室乗務員、パイロット...
どの職種も責任の重い職種であるが、こと鉄道員、車掌という職種は国鉄時代からあまり
報酬の高くなかった。そのため、鉄道が好きでなくては勤まらない仕事だなどと言われていたが
現在のそれはどうなのだろう、と他人事ながら気になってしまう。
私事で恐縮だが筆者は祖父、叔父と国鉄職員だったので台所の事情が実感としてわかる(笑)
ので、そんな風に思えたりもするが、さて、現代の鉄道員もやはり誇りをもって報酬であると
考えているのだろうか?
一度尋ねて見たいと思うが、話題が話題だけに少々気が引ける(笑)。
[the end of...]
物想いに耽る帰り旅の乗客を下段寝台に横たわらせたまま、オハネ25型は確実に歩みを
進めている。既に時計の針は午前を指しているが、深夜特急は最高速近くで東北本線上り
路線を驀進している。轍の揺れが、枕木に並行に横たわる体を規則的に揺さぶる。
その揺れのひとつひとつが旅の終わりへの指針であり、最後のレール・ジョイントを越えた時
12列車の仕事は終わり私の旅も共に終わりを告げるのだ...などと
少々センチメンタルな気分にさせる深夜特急「はくつる」
24系25型12列車である。
そして、彼の旅路もまた2002年12月、終焉を迎える....
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