旅と鉄路

〜24系25形"はくつる"12列車〜 2002/12

[旅は道連れ、世は情け....]

[旅は道連れ、世は情け....]



今夜の宿は９号車。
のんびりと通路補助椅子に腰掛けるお父さん、窓から外を眺めて喜んでいる坊や....
いつものような夜行始発駅、のんびりとした情景である。
都会側から出発する時の寝台特急というのは、どこかしら精神的な高揚とか、特別な
感慨を覚える事が多い筆者であるが
帰路のターミナル駅、これで旅が終わってしまうという感傷もあってか、どこか高揚
とは程遠い雰囲気を感じるから不思議なものだと思う。
人間とはやはり感情の動物なのだろうが、筆者が都市の側に帰るから旅愁を感じるだけで
車内を見回すとこれから上京して都会の風を楽しむ....
とでも言いたげな楽しげなひとたち、の顔も見える。
それは、家族連れの群像であったり、若者のグループ、
あるいはひとり旅の学生風であったりもする。

列車はただ、走り続けるだけ、だ。




筆者の寝台番号は９番下段。

対面の乗客は、学生風のまだあどけない顔をした女の子。
顔立ちは青森県人。
僕が「こんばんは」と言うと、携帯電話のメール画面を見ていた顔を上げ
「こんばんは」と返し、穏やかに微笑む。
都会人とは異なり、殊更コミュニケーションを絶とうとはしないことになんとなく安堵を覚え
まだここが青森なのだと実感する。

都市という生活空間では否応なしに知らない人の群れに入り込まなくてはならないから
たとえばこの子のように偶々出遭った乗客に挨拶をするという事はあまり無い。
しかし、認識できない大多数の中に一人入るという状況は実際にはストレスになるものであり
それ故都会の人間は孤独だと思い、ふるさとを懐かしむ。

上野駅に立っている啄木の碑のように
故郷、自分を認識してくれる場所を懐かしく思うのは
啄木が田舎の出身だからという理由だけではないようにも思える....