Lotus7&I

深町珠

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On the road again

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帰り道・・・・箱根に幾つもある農道を通る。
そうすると、世俗的な連中に出会わずに済むから
いつもそうしていた。

たとえ、フェラーリに乗っていようとも
自己顕示で乗るなら、それは世俗的なものになって
地の果てに堕ちてしまうのだ。

それは、7でもそうである。

ロータスが本家だの、ケータハムが正統だの。

そんなことはチャプマンは言っていない。

どれもキットカー、である。

もともとのロータス7が、完成車の課税を避ける目的で
キット販売したものだからだ。



そのような、役人の権力意識を逆撫でするような
ところが、チャプマンにあったから

微罪なのに、実刑判決が出る、と言う
不可解な事になったのかもしれない。

なので・・・・アグレッシヴな彼は
イギリス当局を欺き、密航・・・・。とも考えられる。

有り得ることだ。



そんなことを考えながら、あの、死んだ512の男の家の前を通ってみた。

主を欠いては居たが、人が住めない状態でもない。


「ここで・・・会ったんだよな。チャプマンに」


なぜ?


その気持だけで、僕は・・・研究所に入ったのだ。



「あの512の男、どういう奴だったんだろ」


と、ふと思う。


ここにいたチャプマンらしき老人が本物なら・・・匿う理由があったはずだ。

などと、思いながら僕は、裏道の下りストレート、まわりが畑ばかりなので
思い切りアクセルを開けた。


ハイリフト・カムが快い音を立てる。


オートバイのように、回転があがる。だが1600ccなのだ。
速度は相当なものである。

ちょうど、F2レーサーのような加速音とスピードである。

軽量故、である。
下り坂で、7に追随できるマシンはない。

オートバイではコーナーが遅いし、4輪でボディのあるものは
ついてこようとしても、無理だ。


慣性がそれを許さないのだ。


これは同じ7の類でもそうで、重いDOHCヘッドを積んだものより
オリジナルのロータス(元来、1100ccであった)に近いOHVヘッドのものの方が
特に下りコーナーでは速い。



よく、ヒルクライムで一緒になるエスプリ・ターボにしても
平坦なカーブ、例えばターンパイクの下りなどでは
7については来れない。


そういう事が判っていると、バトル、なんて
馬鹿馬鹿しくてする気になれない。


殆ど車の性能だからである。





ガソリンが空になる前に、セルフ・スタンドに寄って
20L給油した。

40L入るのだが、そこまで入れると急加速時に零れる。
アルミ無塗装だから、別にいいのだが
あまり気分のいいものではない。


ひと目につかないように、裏道を通って自宅に戻った。


パーキングの入り口は下り坂なので、エンジンを止めてから
シャッターを開ける。

そして、ブレーキを解放して。ギアを外すと
自然に転がる。

車にのったまま、重力ですーっ、とバックでガレージに入れた。









月曜日。
いつもの古ぼけたスプリンターで、坂を登る。

あのコーナーのアウトには、縁石が壊れた跡があった。


まあ、よくある事だと思う。


少し前、CR-Xで
北の丸トンネルの中。

追随しようとしたベンツ・Eが
ついて来れずにアウトコーナーへ飛び、炎上した。

その事故を、少し思い出したりもしたが

もう、時が過ぎたからか
罪なことをした、と言う気持は薄れていた。


以来、CR-Xには乗って居なかったのだが・・・。

「また、乗れるかな」なんて思った。










出社し、午前10時。

ふたたび、リカルドの連中と打ち合わせ。

708会議室、と言う小部屋。


制御プログラム、MILSのプラント側の詳細なポイントについて
議論をした。


今回は、リカルドの連中がカメラつき携帯電話を、守衛所で取り上げられた。

たまたま、監査があったのだった。


それで、彼らは誰かに指示を仰ぐ際、会議室の電話を使っていた。


何の気なしに、僕は番号を覚えていた。


外線で、携帯電話の番号と
もうひとつは内線だった。



内線の番号は、調べれば場所は解る。


ノートに僕は、番号を控えた。



打ち合わせが終わった後、皆が出てから

僕は、内線電話のリダイアルを押してみた。



外線の方ではなかった。



コール。

一回。
二回。
三回。


つながらなかった。



番号は

8-21-4219。

不吉な番号なので、普通は使われていない場所である事は解るが

8-21は、この研究所内の実験施設を意味する。


「誰かが、居るのか。この中に」



リカルドに指示を出している人物。


どこか、秘密の場所に居る。
もうひとりは携帯を持っている。

それは、とりあえず解った。


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