43 / 56
rain
しおりを挟む翌朝は、雨だった。
静かなこの街には似合いの雨..
家の前の坂道に、雨は優しくさらさらと降りそそぐ。
あの時も、今も、昔もずっと...
僕は、雨のせいかひんやりと冷えている部屋にひとり
外を見ていた。
出窓の向こう、街の家並みは白く霞んでどこか幻想的だ。
それも、あの頃と同じ...
いつからこうなってしまったのだろう、とか思ったりもするが
永遠なんてのもまた幻想なのだから、とも思う。
こんな風にネガティヴなのは
やっぱり雨のせいだろう。
ベッドから抜け出すと、椅子に掛けてあったリーバイス502XXを穿き
僕は部屋を出て、薄暗い廊下に人の気配が無い事を
奇妙に快く感じながら半地下のガレージへのドアを開く。
7は昨夜の格好のまま、ガレージの奥へ頭から突っ込んである。
アルミ・ボンネットにそっと触れるとまだ微かに暖かく
Ford711Mユニットの体温を感じさせた。
トノ・カヴァが開いたままだったのでファスナを閉じ
ボディ・カヴァを掛けておく。
雨の日のオープンカーほど悲惨なものはない。
雨月に輝くJaguar-E、であったとしてもそれは同様だ。
そのことも、僕を憂鬱にさせている理由のひとつだった。
こんな日に、7を外に出すのは忍びない。
第一、無事に戻ってこれるかどうかも判らない....
しかし...
高い位置にある明りとり窓の格子を、容赦なく雨音が叩いている。
その激しいビートの奔流は、どこかしら往時のブラス・ロックのようだ。
そんな風に言うとまた横田にromantistだ、なんて笑われるかな...
僕はふと、横田の丸い顔を思い出し、なぜだか心和んだ。
視線を下ろす。
ガレージの隅の、シルヴァー・ターポリンに包まれた物体に気づく。
それは、いつでもそこにあって、もう何の役目をも果たしていない
ただのモニュメントのようだった。
その日の僕は、すこし気持ちがDownしていたせいか...
その、ボディ・カバーをめくって見た。
嫌な気持ちになるから、と閉じて置いた想い出。
不思議なことに、真紅のボディを見ても何も感じなかったのは
やはりその時の僕が、Downしていたからだと思う。
ボディカバーを剥いでみると、少し汚れたままのボディは
まったくあの頃のままで、そのことに懐かしさすら感じていた僕だったが
どこか、イメージ・フィールドに映る状況が現実でないような、
そんな奇妙な感覚に囚われていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ほのぼの高校11HR-24HR
深町珠
青春
1977年、田舎の高校であった出来事を基にしたお話です。オートバイと、音楽、オーディオ、友達、恋愛、楽しい、優しい時間でした。
主人公は貧乏人高校生。
バイト先や、学校でいろんな人と触れ合いながら、生きていきます。
けど、昭和なので
のどかでした。
オートバイ、恋愛、バンド。いろいろです。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
一輪の廃墟好き 第一部
流川おるたな
ミステリー
僕の名前は荒木咲一輪(あらきざきいちりん)。
単に好きなのか因縁か、僕には廃墟探索という変わった趣味がある。
年齢25歳と社会的には完全な若造であるけれど、希少な探偵家業を生業としている歴とした個人事業者だ。
こんな風変わりな僕が廃墟を探索したり事件を追ったりするわけだが、何を隠そう犯人の特定率は今のところ百発百中100%なのである。
年齢からして担当した事件の数こそ少ないものの、特定率100%という素晴らしい実績を残せた秘密は僕の持つ特別な能力にあった...
バレンタインにやらかしてしまった僕は今、目の前が真っ白です…。
続
青春
昔から女の子が苦手な〈僕〉は、あろうことかクラスで一番圧があって目立つ女子〈須藤さん〉がバレンタインのために手作りしたクッキーを粉々にしてしまった。
謝っても許してもらえない。そう思ったのだが、須藤さんは「それなら、あんたがチョコを作り直して」と言ってきて……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる