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FX-1200
しおりを挟む僕は、RZVのクリア・スクリーン越しに映るメーター・パネルに
太陽の光が反射するのを眺めながら
ぼんやりと、そんな事を考えていた。
風向きが変わり、ふと、暖かさを感じる。
横田のパイク、FX-1200の体温だ。
RZVとはタイプの異なるロード・バイクだ。
V-Twin の力強いフォルムを剥き出しにしたスタイル。
スロットルをひねれば即、瞬間移動するトルク。
荒々しい振動。
それらのすべてが動物的で、エンジンの熱ですら
体温のように思える。
どこか、マッシヴな筋肉質の獣、を思わせる.......
「じゃ、行くか。」
横田が僕の背中越しに声を掛けた。
「うん...。」
僕は、ぼんやりしてたので状況を思い出すのに努力した。
横田はにっこり笑い...
「なんだ、ぼんやりして。女の事でも考えてたのか?」
その、いかにも彼らしい発想に苦笑しながらも僕は、口を尖らせて。
「違うよ..たださ、このバイク、動物っぽいなってさ...。」
横田は、バイクにまたがるとスロットルに手を掛けて、
「ああ、前にもそんな事、言ってたな。
ま、そういう風に考えるのはromantistなんだよ。お前が。」
「そうかなぁ。」
「そうさ、こいつはただの金属塊にすぎない。それに幻想を持つのは
romantic なんだろう...。
ま、人間からそれ取ったら、機械と変わらんがな。
恋愛だって、炭化水素の塊に幻想を持つ、という部分を除けば
機械的な動作にすぎない、しな。
そう考えたんじゃ、味気ないだろ?。」
僕は、なんとなく嬉しくなって..
「そうだね。」と笑った。
横田は、 Bellのへルメットを被り、
「さ、行くぞ。」
そういい、スロットルを少し開き、セルを回した。
僕の"7" のルーカスのスターターのように、ゆっくりとセルは回り
ワンテンポ置いて、エンジンは爆発的に始動した。
不等間隔爆発が、バイク全体を揺さぶっている。
僕も、RZVのキィをひねりイグニッションを入れた。
グリーンのニュートラル・ランプが光る。
昼間の光線の中では、どこか若葉の頃のように爽やかなグリーンに見える。
Y.P.V.S.のサーボモーターの動作音も、小鳥の囁きのようだ。
鈍く光るアルミナムのキック・ペダルを右手は引き出し
左手はチョーク・ノブを引き出す。
Kicking!
あっけなく、V4ユニットは目覚める。
すぐさま、チョークを戻す。
こうしないと、スパーク・プラグがかぶりやすい。
僕はごく普通の、BR9HSを使っていた。
頻繁に交換できて良い、と思ったからだ。
実際、交換時期に近づくと、V4特有の細かい振動のせいか
スパーク・プラグは緩みがちで、時にはプラグ・ホールから
オイル滲みが見えたり
もしていた。
それでも回っているし。パワー感があまり変化しないのは
2ストローク、というシステムの関係で実効圧縮比が低いから、だろう。
もっとも、そうなると低速トルクが少くなるが
もともと低速なんて使わないから
それに気付くこともない、のだけど。
ハンドスロットルで、回転を3000rpmに抑える。
どうも、このV4ユニットは前バンクと後ろバンクの吸入方式が違うせいもあって
3000rpm 以下では安定しにくい。
スロットルを戻す。
辛うじて...という感じでアイドリングをしている。
横田が待ちくたびれてるみたいなので、ゆっくりと走りだそう。
僕は、横田に目で合図すると、彼はFX-1200のギアを入れた。
金属が触れ合う音がして、バイクのボディは大きく揺れた。
野太い排気音は不連続に、力のありったけを告げているかのよう。
彼と、彼のオートバイは、リア・タイアをスライドさせながら。
断続的に地面を蹴り始めた。
トレッドの間隙から、小石が僕のagvのクリア・スクリーンめがけて。
軽く、ヘッドバンキングしてかわす。
小石は、流れ去る気流の中で、過去へと翔び去る。
まるで、僕らのように.......
流れの小石は、過去、へと、飛び去る。
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