Lotus7&I

深町珠

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round-6

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「....特高...?なんだい、それ.....。」
「....さあ、なんだか、そういってたぜ、なんだかしらねえけどな....。
さあ、もう一仕事するぜ、ほんじゃま。」


「....ああ、悪かったね。」

僕は、電話を切る。

耳なりのような感覚で、ディジタル・ノイズが通信の感覚を残す。



.....横田が、知ってるかもしれないな....



RZV500Rに火を入れる。
さっきまで走っていたから、ロー・ギアに入れたままクラッチを切り、
イグニッションを入れて腰でマシンを押しだす、半クラッチ。
YPVSが反転する微かな音のあと、爆発の感覚。
すぐさまクラッチを握る。
2ストロークオイルの香りがあたりに漂う。


深夜の空気を響かせて、180度クランク二気筒×二のV4ユニットが
ティンパニィのような軽快なアイドリング音。

重いアクセルを開き気味にし、クラッチをつなぐ。
低速トルクの乏しい2スト・ユニットがもの憂げにマシンを押しだす。

深夜の国道を、2球のテール・ランプが赤く照らし、残像のように。
ゆっくりと、郊外の横田の家に向かった。



その、テール・ランプを、R31の汚れたフロントグラス越しに、男は眺めていた。
距離をかなり開けて、慎重に追尾。

環状線を流れにのる2ストマシンは、薄暗いヘッド・ライトに
排気煙を白く映し出す。

......さっきは、見失ったが。

交差点から、排気煙の漂う方向、オイルの匂いを追って、たどりついたのだった。
最近は2ストロークマシンも減ったので、それが足がかりになったのだ。







どちらかというと古い街並みの外れに、昼なお暗い鬱蒼とした林。
その一角に横田の家はある。
何故か、ひとが寄りつかないこのあたり。
住宅開発で切り開かれた山の一部が、開発されずの残っている、という
奇妙な場所だ。
もっとも、車好きの僕らとしては駐車場に困らないから好都合。

僕は、RZVのエンジンを低く押さえ、細い砂利道を登っていった。



R31は、追尾対象が入って行く先を確認し、その場所を通過。
通りをやりすごして右折し、住宅地の公園の脇に停車した。
携帯電話を取り出し、短縮でダイアル........。

「....俺だ.....。」
「久しぶりだな、おい...。」
「急で申し訳ないが、少し頼まれてくれないか...?」

「.....そうか。いや、済まない。それならいいんだ。自分でやる。」
無表情のまま、電話を切り、携帯端末をポケットに放り込んだ。






重厚な重みのある木製のオーディオ・ラック。
20畳程の空間の奥には、JBLパラゴン。
横手に置かれた真空管アンプ。
WE300Bが、橙の光を放っている。
ターンテーブルの上では、SAEC WE-308SX。
その先端で、SATINの白いカートリッジが滑らかに上下している。

炸裂するようなサウンドが、軽やかに、しかしパワフルに。
フロント・ロード・ホーンから流れている。


横田は、リスニング・ポイントの椅子で、バーボンを片手に、
少し、まどろんでいた。

部屋の電話が鳴る。
一回、二回......


心地良い時空から投げだされた彼は、不機嫌に
管球プリ・アンプの精密アッテネータを絞り、トーンアームを上げた。
砲金ターンテーブルが、たよりなさげな細い糸にドライヴされ
静かに回ったまま...


ワイアレスでない受話器を壁から取る。

聞こえてきたのは、あまり、聞きたくない声だった。

「おお.......。」
「懐かしいとも思わんがな。」

横田は、無造作に吐き捨てる。


「お断りだ。俺はもう、あんたとは縁を切ったはずだ。」

そう言うと、数秒の後、受話器をホルダーに止めた。

白熱電球に照らされて、ターンテーブルが反射する黄金の輝きに
彼は、じっと見つめている.....と。

壁掛け電話機の脇の、埋めこみヴィデオ・モニタが反応し、[busy]と
LEDが点灯した。

別人のようなすばやさでヴィデオ・モニタを擬視。
オーガニックLCDのモニタに、見慣れた2ストローク4気筒。

「......。」
彼の全身から緊張が和ぐ。

微笑みすら浮かべ、部屋のエアタイト・ドアを開き、玄関へ....









RZVを玄関の脇、ひさしのある場所を選んでパーク
慎重にサイド・スタンドを下ろす。
傾斜が少しあるので、1速に入れ、マシンを揺さぶって
ロックされたことを確認する。
ヘルメットを取り、玄関へ向かう。
古い、モルタル塗り、鉄骨造りの玄関ホールの屋根は
滑らかなカーヴを描き、先端には鋳物の飾り。
西洋的な装飾が、周囲の日本的な森林と、不思議な
アンヴィヴァレンス.....

その雰囲気を楽しみながら、木々の香気を感じていると....
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