Lotus7&I

深町珠

文字の大きさ
上 下
22 / 56

別件逮捕

しおりを挟む








「もう、さがっていいぞ。」

そう、男は制服警官に告げると、

「はい、失礼します。」

と気張った声で、制服は廊下へと消えた。


???????





「あんた、警官なのか?」


「まあ、似たようなものだ。」


「だったら、なんであんなことをするんだ!」


「...悪かった。いや。」







男は、無表情に。
しかし、さっきの制服とは違い、不快な印象ではないのはどうしてだろう。
なんとなく、警官らしいイヤラシサが感じられない。
虎の威を借る狐のような、というか。

そのことが、不思議な感覚だった。





「....ところで、君は、この男を本当に知らないのか?」

革コートのポケットから、銀塩写真。
モノクロームの顔写真は、あの512の男だった。


「.....偶然、あっただけ、さ。」
僕は、不思議に本当の事を話した。






男は、黒眼鏡に眉間の縦皺。
その、鉄面皮のような表情が微かに緩み、






「....そうか、わかった。いろいろ、すまなかった。」






真実を話している事が理解された、ということで、僕は安堵した。

思う。
あの刑事や制服たちに話せなかったのは、なぜだろう。
多分、僕は、連中の胡散臭さを忌避したの、かもしれない。
真偽を見抜く目の無い者特有の、疑り深さ、ごまかし、嘘、誘導。

男、としては堕落した連中の、狡猾さ。

そんなものに、生理的に反感を抱いたから、なのだろう.......。


誇り。
真実。

男の存在、意義。

それらを全て奪い去ってゆく、もの。

かつての男が、身を挺して守った“社会”。
そいつが、今、男たちの心を歪めてゆく、誇りを奪う、真実から遠ざける。

詐術を生存戦略とした、卑劣な連中どものせいで。




しかし、かつての男たちの残党は、反乱を企てている、かのようだ...。





RZVは、水銀の明かりの中で、どこか寂しげに見えた。
キーを入れ、イグニッションを。
緑色のランプが、少し滲んで見えた。
キックで静かにエンジンを掛け、3000rpmでゆっくりとスタート。


街路灯の白銀が、フュエル・タンクに流星のような軌跡をつけて、
飛び去ってゆく。






....R31の汚れたフロント・グラス越しに。
男は、どんな思いで、2ストロークの排気音を聞いていたのだろう。
遠ざかるRZVを見、少し汗で湿気た仏蘭西煙草に、シガーライタで点火した。
サングラス越しの眉間に、深く縦皺が寄り、
紫の煙がただ、たなびいていた。
通過する車のヘッド・ライトが、黒眼鏡に光りの筋をいくつも作り、
脂汗の滲んだ頬に陰翳を浮かびあがらせた。






僕は、RZVので夜の町をあてもなく流しながら、
あの男に感じた奇妙な親近感の理由を探していた。

....どこかで、あの感じ...

Deja vu というのは、ふつう人物にはあてはまらないんだっけ..?



細かい振動と、2stroke-oilの燃える匂い。
TZ-typeのグリップを軽く握りながら、スロットルを開く。
環状8号を右折して、外回り方向へマシンを進めた。
なんとなく。
agvのヘルメットに、夜の空気が忍んでくるようだ。
そろそろ、今日に終りを告げる頃...

オーヴァー・パスにさしかかった。
いきなり、1速にシフトしてそのままフル・スロットル。
レヴ・カウンターは盤上を駆け昇り、V4ユニットは整然と仕事を始める。
しかし、その発生トルクの落差は、Riderには唐突な変化として感じられる....
8000rpmを迎えて、最大トルクを得たRZV500Rは容易に前輪をリフト・アップ。
オーヴァー・パスのアンジュレイションも加勢して、
僕は愉快な気持ちになり、ちょっと腰を引き、フロントの荷重を抜く。
オーヴァー・パスの頂上を越えたマシンは、そのままフロントを持ち上げ、
下りに差しかかる。
瞬間、リア・タイアが離陸する。
すかさず、スロットルを気持ち戻す。
こうしないと、オーヴァ・レヴでエンジンを破壊してしまう..

リアが着地。の瞬間、タイミングをあわせてスロットルを更に開く。
Michelin M48は、小さく悲鳴をあげる。
ゴムの焦げる匂い。

....飛行機が着陸する時も、こんな感じだったっけな...
僕は、幼いころの家族旅行で搭乗したYS-11のエンジン音や、コンベア880の
流麗なフォルムを想起し、それとRZVの美しいテイル・カウルのラインをイメージ像で
overlap させていた...
と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同棲しているけど彼女じゃない~怨霊は恋のキューピット

ぽとりひょん
恋愛
霊や妖を見ることが出来る翼九郎は、大学生活を始めるためアパートを借りる。そこには世話好きな怨霊がいた。料理に混浴、添い寝と世話を焼く、大学では気になるあの子との恋の橋渡しまでしてくれる。しかし、美人でスタイル抜群の怨霊は頼もしい代わりにトラブルメーカーであった。

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

ジョン船長の日記 【週間連載長編作品】

Grisly
児童書・童話
今から少し先の未来。 ジョン船長の航海日記が発見される。 それは古びた本だったが、 宇宙の数々の星々を旅して来た 彼の記録が遺されていた。 人々は夢中で読み、また見ぬ宇宙へと 思いを馳せるのだった。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

ただ、愛しただけ…

きりか
恋愛
愛していただけ…。あの方のお傍に居たい…あの方の視界に入れたら…。三度の生を生きても、あの方のお傍に居られなかった。 そして、四度目の生では、やっと…。 なろう様でも公開しております。

【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!! 男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。 そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢! そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。 どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの? ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます! しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、 物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど…… 2022.4.7 予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン) 《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます! とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。 ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。 よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。

処理中です...