Lotus7&I

深町珠

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微かに漏れる光、話声...。

「.....。」
「.....。」


「やつら」の声だ。


彼は、会話の内容を聞き取ろう、としたが、無理だった。
コンクリート造りの建物に反響してしまっていて、発音源を辿ることも困難だ。
そっと、廊下をすり抜けて、階下に下る。


「...早いとこ、こんなとこから逃げだそう。奴等が気づかないうちに。」

1階に降りると、そこはだだっぴろい待ち合い所になっていた。

正面の玄関は気づかれやすいだろう。
...病院ならば、急患受付がある筈だ..。

回廊のような構造のこの建物の、裏側に回ると、
スロープのコンクリートが見える..。


..地下だ...!」
彼は、更に階下へと歩んだ。

不気味な静寂の病院の地下。
霊安室やら、機械室やら。
人の気配がないので、なおさら薄気味悪い。
ゴム底靴を滑らかに運び、彼は更に奥へとすすむ...と。

エレベータ・ホールの真ん前に、
開け放ちになった急患入り口のエントランス。

向かい側には....。2t積みのキャリア・カーに、S12!。

「おお、無事だったか...。」
静かに、しかし、はやる気持ちを抑えつつ。
彼はマシンの側に。

外見はなんでもない。放置してあったのだろう。


...このまま、かっぱらっちまおう....。


鍵のかかっていない、トラックのドアを開ける。
ラッチの外れる音がいきなりコンクリートの玄関に響き
彼はすこしどきりとした。

...しかし。
誰もやってこない。


「...なんだよ。逃げてくれって言わんばかりじゃないか。」

すばやく運転席に昇り、彼はプレ・ヒート・ノブを引いた。
イグニッション・キーはついたままだ。
大径の速度計に、グロー・インジケータがぼんやりと光る。

「...一発で、かかれよ....。」

...もし、始動に失敗すれば。
...とっつかっまって、元の木阿弥だ。


彼は、大きなクロム・メッキのキーを捻る。

リダクション・セルの音が響く!

「...南無参...。」



1秒、2秒...。スロットル・ペダルを軽く踏む。

轟音!
白煙とパティキュレイトを撒き散らし、ディーゼル・ユニットは起動した。

「それ、行け!」

クラッチをすばやく踏み込み、2速へ。
あっけなく、固い感触のクラッチは接続し、
猛然とコンクリート・スロープを駆け上がるキャリア・カー。

「..もう、いい加減、気づいた頃だろな。」

.....?

追っ手は、来ない。

「..どうなってんだ?」

3rd、4thと、めまぐるしくシフトし、増速。
森林の中に、抜け出すキャリア・カー。
「ここまでくりゃ、もう大丈夫だろう。それにしても...。」
...変な連中だな。




階上の小部屋。
さっきの連中が、窓から。

「行っちまいますね...。」
「いいんだ。奴はシロだ。さっき、アミタールで解ったろう。
あいつは何も知らない。
残るは、もうひとりの、『奴』だ.....。」


麻酔面接を行った、偽?警官。「特高」と名乗って。
その、鉄面皮のような表情を僅かに歪ませ、そう呟いた。






ディーゼル・ユニットは、激しい振動とノイズを撒き散らしながら驀進する。
S12は、持ち前の適応力ですぐさまこのキャリア・カーのハンドリングを
“ものにした”。

深い、森林に囲まれたワインディングを、右。左....。

大きなステアリングをすばやく切り、カウンターを呉れながらフル・スロットル。

「ここは...どのあたりだろうか....。」

ルーム・ミラーに映る、自分のマシンを気にかけながら、彼はあたりをつけた。

闇雲に走っていても、そこは長い経験を持つ走り屋だ。
回遊するようなことはない。
不思議なことだが、彼等のような連中は滅多な事では道に迷ったりはしない。
嗅覚が働くかのように、目指す方角を探り当てる。
「カン、だよな...。」
彼等はいつもこんな風に言う。

彼らには、渡り鳥のような方位コンパスが備わっているに違いない....。





しばらく走ると、標高が下がり、どこか見覚えのある街路に出会う。

「ここは......。」

旧道R246.神奈川ー静岡県境のあたりのようだ。

彼は丹沢山渓のあたりに拉致されていたようだ。


「よし!」

彼は、思い切りアクセルを踏んだ。


ここまでくれば、もう大丈夫だ。


...どうするかな、このキャリア・カー。

....どっかに捨てちまおう....。


彼は、携帯電話で仲間に連絡した。


「とりあえず....御殿場の熊でも呼ぶか....。」

彼の工業高校時代の級友。
今は電気工事屋をしている。商売柄、付き合いも多い。
多分、今なら家にいるだろう....。

ポケットから携帯を取り出し、手探りで短縮ダイアルをコマンド。



「....おお、クマ。俺だよ。ちょっと頼まれてくれよ...。」








街道筋から入り込んだ作りかけのバイパス道路。
よく、小僧どもがゼロヨンをする場所だが、今日はweek-day。


静まり返っている。



「なんだよ、そりゃ、話んなんないだろ。」


クマは、自分の乗ってきたピックアップ・トラックのバンパーに腰掛け。

クロム・鍍金のごついグリル。
盛り上がったフェンダー。

力強い造形は、いかにもアメリカだ。




微かに漏れる光、話声...。

「.....。」
「.....。」


「やつら」の声だ。


彼は、会話の内容を聞き取ろう、としたが、無理だった。
コンクリート造りの建物に反響してしまっていて、発音源を辿ることも困難だ。
そっと、廊下をすり抜けて、階下に下る。


「...早いとこ、こんなとこから逃げだそう。奴等が気づかないうちに。」

1階に降りると、そこはだだっぴろい待ち合い所になっていた。

正面の玄関は気づかれやすいだろう。
...病院ならば、急患受付がある筈だ..。

回廊のような構造のこの建物の、裏側に回ると、
スロープのコンクリートが見える..。


..地下だ...!」
彼は、更に階下へと歩んだ。

不気味な静寂の病院の地下。
霊安室やら、機械室やら。
人の気配がないので、なおさら薄気味悪い。
ゴム底靴を滑らかに運び、彼は更に奥へとすすむ...と。

エレベータ・ホールの真ん前に、
開け放ちになった急患入り口のエントランス。

向かい側には....。2t積みのキャリア・カーに、S12!。

「おお、無事だったか...。」
静かに、しかし、はやる気持ちを抑えつつ。
彼はマシンの側に。

外見はなんでもない。放置してあったのだろう。


...このまま、かっぱらっちまおう....。


鍵のかかっていない、トラックのドアを開ける。
ラッチの外れる音がいきなりコンクリートの玄関に響き
彼はすこしどきりとした。

...しかし。
誰もやってこない。


「...なんだよ。逃げてくれって言わんばかりじゃないか。」

すばやく運転席に昇り、彼はプレ・ヒート・ノブを引いた。
イグニッション・キーはついたままだ。
大径の速度計に、グロー・インジケータがぼんやりと光る。

「...一発で、かかれよ....。」

...もし、始動に失敗すれば。
...とっつかっまって、元の木阿弥だ。


彼は、大きなクロム・メッキのキーを捻る。

リダクション・セルの音が響く!

「...南無参...。」



1秒、2秒...。スロットル・ペダルを軽く踏む。

轟音!
白煙とパティキュレイトを撒き散らし、ディーゼル・ユニットは起動した。

「それ、行け!」

クラッチをすばやく踏み込み、2速へ。
あっけなく、固い感触のクラッチは接続し、
猛然とコンクリート・スロープを駆け上がるキャリア・カー。

「..もう、いい加減、気づいた頃だろな。」

.....?

追っ手は、来ない。

「..どうなってんだ?」

3rd、4thと、めまぐるしくシフトし、増速。
森林の中に、抜け出すキャリア・カー。
「ここまでくりゃ、もう大丈夫だろう。それにしても...。」
...変な連中だな。




階上の小部屋。
さっきの連中が、窓から。

「行っちまいますね...。」
「いいんだ。奴はシロだ。さっき、アミタールで解ったろう。
あいつは何も知らない。
残るは、もうひとりの、『奴』だ.....。」


麻酔面接を行った、偽?警官。「特高」と名乗って。
その、鉄面皮のような表情を僅かに歪ませ、そう呟いた。






ディーゼル・ユニットは、激しい振動とノイズを撒き散らしながら驀進する。
S12は、持ち前の適応力ですぐさまこのキャリア・カーのハンドリングを
“ものにした”。

深い、森林に囲まれたワインディングを、右。左....。

大きなステアリングをすばやく切り、カウンターを呉れながらフル・スロットル。

「ここは...どのあたりだろうか....。」

ルーム・ミラーに映る、自分のマシンを気にかけながら、彼はあたりをつけた。

闇雲に走っていても、そこは長い経験を持つ走り屋だ。
回遊するようなことはない。
不思議なことだが、彼等のような連中は滅多な事では道に迷ったりはしない。
嗅覚が働くかのように、目指す方角を探り当てる。
「カン、だよな...。」
彼等はいつもこんな風に言う。

彼らには、渡り鳥のような方位コンパスが備わっているに違いない....。





しばらく走ると、標高が下がり、どこか見覚えのある街路に出会う。

「ここは......。」

旧道R246.神奈川ー静岡県境のあたりのようだ。

彼は丹沢山渓のあたりに拉致されていたようだ。


「よし!」

彼は、思い切りアクセルを踏んだ。


ここまでくれば、もう大丈夫だ。


...どうするかな、このキャリア・カー。

....どっかに捨てちまおう....。


彼は、携帯電話で仲間に連絡した。


「とりあえず....御殿場の熊でも呼ぶか....。」

彼の工業高校時代の級友。
今は電気工事屋をしている。商売柄、付き合いも多い。
多分、今なら家にいるだろう....。

ポケットから携帯を取り出し、手探りで短縮ダイアルをコマンド。



「....おお、クマ。俺だよ。ちょっと頼まれてくれよ...。」








街道筋から入り込んだ作りかけのバイパス道路。
よく、小僧どもがゼロヨンをする場所だが、今日はweek-day。


静まり返っている。



「なんだよ、そりゃ、話んなんないだろ。」


クマは、自分の乗ってきたピックアップ・トラックのバンパーに腰掛け。

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力強い造形は、いかにもアメリカだ。

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