バス・ドライバー日記

深町珠

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7236D,湯前、定着!

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次の駅の駅前には・・・ブルー・トレインが一両、あって。
最後尾車両なので「はやぶさ」と、テールサインが表示されている。


真由美ちゃんは「列車のお宿、なんです。走っているのと同じ」

菜由は「来る時に乗ってきたの、この子たちは」

真由美ちゃんは「菜由さんは乗らなかったのですか?」


菜由は「はい。わたしは飛行機で。ほんとはね・・・友里絵と由香も
そのはずだったんだけどネ」


由香は「雨が強かったから、飛行機飛ばないかと思って。無理して
寝台に乗ってきちゃったの。」

友里絵は「まあ・・・早く遊びたかったのもある」


みんな、ははは、と笑って。
「休み、なかなか合わないし、友達と。
週末は大抵仕事だし」と、由香。

「わたしも、そうなんです。だから、今日はね。ひさしぶりに
お休みの日に、遊べるなーって思って。」と、真由美ちゃん。


愛紗も「勤務の都合でね、どうしても、ひとりになっちゃう」


菜由も「それで、ボーイフレンドも社内になっちゃうし」

愛紗「菜由みたいに」

菜由は笑って「そうそう」

列車には、誰もいなくなったので・・・・
気兼ねなく女子会(^^;


運転士さんは、硝子の扉の向こうなので
そんなに煩くもないだろう。


友里絵は「真由美ちゃんはかわいいからさ・・・ワゴンサービスしてるときに
お客さんにナンパされたりするでしょ」


真由美ちゃんは「いえいえ・・・あ、でも。息子の嫁に、と言う
お父さんとか、そういう人はいましたね」


菜由「うんうん。わかるわかる。お父さんから見ても可愛いもんね」


友里絵は「お父さんが可愛がりたいのね」

真由美ちゃんは「いえ、そんな・・・そう見えるのかもしれませんけど。
そんなにおとなしくもないです」と、きっぱり。
「ほんとなら、役場の事務員とか・・・そういうお仕事を薦められたのですけど。
学校の先生からは」

菜由「よし!それで安心した。薩摩おごじょだね。」

真由美ちゃんはにっこり。



列車は、勾配がすこし急になった斜面を、ゆっくり登っている。
しかし、変速段ではなく固定2段である。

周囲には、そろそろ林が増えてきたり
切り通しの築堤、鉄橋。
山岳鉄道のようになってきて。


この本線と直交する線路も見えたり。


「あれは、何線?」と、愛紗。


真由美ちゃんは「あれは、工事用のトロッコを退避する線路です。」


友里絵は「よく知ってるね」


真由美ちゃんはにっこり「はい。観光案内もお仕事です」

由香「そーだよねー。友里絵ったらね。お客さんに「あの山は、なんていう山ですか」
と、聞かれて・・。」


友里絵「あ、えー、と、山です」


みんな、笑う。そりゃそうだ。


友里絵「わかんないんだもん、みんな一緒に見えるし」


真由美ちゃん「楽しいガイドさんですね」

友里絵「そっかな。ははは」

由香「笑ってていいのか?見習え、少し」



友里絵「いーんだもん。あたしはあたし。」


愛紗は思う。

・・・あたしはあたし、と言い切れる友里絵ちゃんは、いいなぁ。
強いなぁ、と思う。

真由美ちゃんも、見かけ、かわいい子なのにしっかりと自分を持っている。


なんでなのかな、なんて・・・思ったり。



列車は、やがて・・・・終点。湯前駅に近づく。

♪ぴんぽん♪

チャイムが鳴り

優しい女声で

ーーー間もなく、終点、湯前ですーーーー。
降り口は左側、一番乗り場に着きます。
この列車は、折り返し、人吉行きになります。


友里絵は「あ、終点だって。結構乗った気がするなー。」

由香「降りてみよ」


菜由「降りるしかないでしょ」

由香「そっか」

愛紗は「機関車が置いてあって、公園になってるくらいね。
駅前は長閑なとこで・・・・。」




ディーゼル・エンジンは、がらがらがら・・・と、アイドリングで回っている。
慣性で登ってきて、停止位置付近でブレーキ・ハンドルを少し手前に。

しゅー、と言う
空気の抜ける音が聞こえるのが面白い。



ききき・・・・と、摩擦ブレーキが掛かる。ほんの少し。
停止位置にぴったり。


愛紗は「さすが。バスでもああはいかないのに。こんなに重い車両で」


友里絵「そうなの?」


愛紗は「そう。最初に練習するのね。バス停に合わせるの。
立ってるお客さんが居ると、急ブレーキは掛けられないから
すーっと、一定の減速度で、って言われるんだけど。
難しいよ。重さは違うし」



菜由は「そうなんだ。ブレーキの利きも違うしね。車両で」



「ご乗車お疲れ様でした、終点です」と、運転士が
簡素にマイクでご挨拶。



ドアが開く。

「あー、着いた着いた!」と、友里絵は
ドアから降りて。伸びをして。


空気が綺麗、と。


由香も「ほんと。静か」


菜由は「あれか、機関車」


すこし細身のシルエットで、煙突が長く見える。
黒く塗装されていて、レールの上に固定されているけれど
レールが、駅の中だから。すぐにでも走り出しそうな、そんなふうに見える。


愛紗は「この機関車だったか、覚えてないけど。蒸気機関車だったな、前」


真由美ちゃんは「なんとなく、覚えています。朝、早くに汽笛が鳴るんですね。
駅の近くに住んでると、石炭の燃える香ばしさが漂って」



友里絵「いいなぁ」


真由美ちゃんは「でも、風向きによっては洗濯物が真っ黒に」


みんな、ははは、と笑う。


運転士さんは「ご苦労様。この列車、折り返しが30分だから」

と。

真由美ちゃんは「はい。ありがとうございます」
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