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12時
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「今と、おんなじ事をね、タマちゃんが。バスを辞めた後にして。
お客さんがすごく喜んでくれて。会社に感謝の手紙をくれたって。
野田さんが言ってたっけ。」
と、友里絵。
「そんなことあったんだ」と、由香。
愛紗は「運転してた頃も、そうだったってお話は聞いた事ある」
友里絵は「そうそう。乗務してる時も、バスに乗るのが大変なおばあちゃんの
荷物持ってあげるために運転席から降りて、手伝ってあげたり。」
愛紗も、その話は聞いている。「社長表彰になったんだけど、名乗り出なかった」
由香も「そうそう。あの人らしいね。それで、誰かが代わりに受賞しに行ったけど
タマちゃんは最後まで何も言わなかったって。」
「野田さんも言ってたね、『あれは鉄人だ』って。そういう事はなんとも思っていない。」
と、友里絵。
・・・・ソウイウモノニ、ワタシハナリタイ。
のかもしれないと愛紗は、ふと思った。
さっき、車椅子スロープを出してあげた事、とか。
三人は、横断歩道を渡って、トキハデパートの新館の前に。
大きな画面のプラズマ・ディスプレイに動画が映って。
トキハのコマーシャルだったり、音楽ビデオだったり。
「結構都会だね」と。友里絵。
エントランスにエア・カーテンがあって。
ゴージャスなシャンデリア。
高級な感じは銀座みたい。
英語表記の、高級そうな化粧品がずらりと並んでいる入り口のそば。
ちょっと、3人は場違いな感じ。
「すごいねー。」と、友里絵。
「うん」と、由香。
「大分じゃないみたいね」と、愛紗。
「トキハがあるおかげで、随分大分は助かってるらしいね。別府とかで、倒産しそうなお店
とかを助けたり、潰れた後にお店はそのままで、従業員を全員再雇用したり、とか。」
と、愛紗。
「すごいね、なんだか」と、友里絵。
「あったかいんだね」と、由香。
三人は、一階のフロアをぐるりと回って。
どれも高級すぎて、ちょっと、見るにはいいけれど。
「大分ってリッチな人が多いのかな」と、友里絵。
「そうだと思う。だって、お米が年2回採れるくらいだから」と、由香。
愛紗は、そういうところで育っているので
特別な感情はないけれど
なんとなく、大分の人はのんびりしていて、穏やかだな。そんな感じ。
結構な都会なのに。
「こういうところなら、バスの運転手をしても大丈夫かもね、女の子が」と、友里絵。
「有馬課長は九州の人だから、それで愛紗に転勤を薦めたのかな」と、由香。
愛紗は、そこまでは考えが及ばなかった。
落ち込んでもいたから、「都会じゃ使えない」と、烙印を押されたような
気持だったし。
「みんな、きちんとしてるものね。ルール守ってるし」と、由香。
そういえば、バスに車椅子の人が乗ろうとして
バスが遅れても、文句を言う人は誰も居なかった。
車椅子席を畳もうとすると、都会だと「立ちたくない」とか
そういう人が必ず居た。
お年寄りが立っているのに、無視してゲームをやっている大人とか。
愛紗は、そういう人を見るのも嫌だった。
なんというか、怒り、ではなくて。
存在自体が無くなってほしいと思った。
「そういえばさ、タマちゃんが辞めた原因もそれだって。『ホントに嫌になった』って
言ってたって。」と、友里絵。
「・・・そうなんだ」と、愛紗。
由香も「うん、なんか、おばあさんに席を譲らない中年女を立たせたりしたら
その女がクレーム入れたんだとか」
「ふざけてるね」と、友里絵。
「そうなんだけど、当時の所長がほら、あの岩市だから」と、由香。
「なるほど」と、友里絵。
「有馬さんはなんていってたの?」と、愛紗。
友里絵は「うん。『あいつは、こういう世界には馴染めないな』 だって。」
それは、愛紗が言われた事と同じだった。
「あ!時間。」と、由香。
デパートの大きな時計は、もうじき12時!
「大変!」と、エスカレータを逆に降りようとしても無理だ。
3階まで上がってきてしまった。
下りのエスカレータは反対側。
駆け出すわけにも行かないデパート。
それでも早足であるいて。
エスカレータが遅いのでイライラしながら(笑)
それでもエスカレータを歩いたりはせずに
一階まで降りた。
「駅まで5分くらいだから。急がなくても大丈夫」と、愛紗。
「そうだけど。12時20分でしょ?特急」と、由香。
「間に合わなければ、別のプランで行けばいいよ」と、友里絵は
案外に物分りがいい。
確かに、13時台にも特急はあるだろう。
トキハデパートの新館の前から、横断歩道を渡って
駅に向かおう・・・としたが。
なかなか、歩行者信号が変わらない。
スクランブルになっているから、大通りの信号が青でも
歩行者信号は変わらないので・・・・・。慣れた人は
赤のまま渡っていってしまう。
友里絵も「いらいらするねー。」と、足をばたばた。
でも、そんな様子はかわいらしい。
由香は「アンタが言ったじゃん。『間に合わなくてもいい』ってさ」と。
友里絵は「そりゃそうだけどさ、つい」
愛紗は、その間にケータイのメールを見てみると
菜由の希望は「みんなで決めて」との事。
それを伝えると、友里絵は「よし!じゃあ、間に合ったら12時20分・・・は、絶対無理か」
と、壁の大きなTVの時計を見て。
愛紗は「次は12時40分の熊本ゆき『あそ』ね。」
「あっそ」と、由香。
「さぶーーーー!!」と、友里絵が笑う。ハハハ、と。
「さぶって言うな!」と、由香が友里絵をひっぱたく。
由香の方が背が高いの。
その間に信号が青になり、ひっぱたこうとした由香は空振り。
友里絵は、とっとこ、とっとこ。
小柄だけど早い。
トキハ会館は、昔ながらの結婚式場。
ビルひとつがそうで、下の階は衣装屋さんとか、旅行屋さんとか。
「田舎だなぁ」と、愛紗は思う。
自分も、おとなしく宮崎に居たら、こういうところに押し込められていたんだろうな
と、思う。
それを横目に、友里絵の背を追う。
・・・そういえば、友里絵ちゃんは「早く結婚したい」と言ってたんだっけ。
そんなもの、なのかな。
愛紗自身には、まだよく判らない。
友里絵は深町に出合って、「早く結婚して赤ちゃんほしい」と言った、とか。
「やっぱり、よく判らないなぁ」と、つぶやくと
少し前を歩いていた由香が「どうかした?」。
愛紗は「ううん、なんでもない。」と。
大分駅が見えてきた。
OITA STATION 大分駅
と、ネオンサインがあるのがいかにも国鉄的である。
大きな時計があるのも、そういう感じ。
かなり大きなバスロータリーだが、リムジンバスは大通りに停車し、降車して
そのまま空港へ戻る。
12m車だから、研修で乗った観光バスと同じだ。
その他、高速バスがこの道沿いに停車し、次々と発車していく。
臼杵方面行き、熊本方面ゆき。
九州は広いので、住んでいる人は飛行機をよく使う。
それで空港連絡バスが多く走っている。
サンダル履きで乗るような感じ。
この辺りは鉄道も同じで、九州新幹線もそういう感じだ。
熊本ー博多とか、ふつうの若者が遊びに行ったりする。
スケールが大きいのである。
大分からだと、日豊本線回りの新幹線が無いから
在来の特急で1時間くらいだから、それほど遠いイメージはない。
ただ、九州を横断する路線は山岳路線なので、未だに電車は走れない。
乗り継ぎの間隔によるが、小倉まで50分の「ソニック」で行き
新幹線に乗り換えた方が西海岸へ行くのが早かったりもする。
急がない、楽しむ旅なら、久大本線・豊肥本線回りがいいけれど。
駅前の大きな国道は、地下道があるけれど
横断歩道の信号が変わるのを待つ。
その時間で、友里絵においついた。
「はーぁ。忙しかった」と、友里絵。
「急がなくてもおんなじじゃん」と、由香。
「ほんと」と、友里絵も笑う。
信号が変わり、駅前のロータリーへ。
なぜか音楽スタジオがあったり、カレーヤ、と言う直裁な名前の
カレーのお店があったり。
コックさんのマスコットが看板になっていて、カレーヤ、と書いてあったり。
駅の構内に「駅市場」。スーパーマーケットだけれども
元気な感じ。
音楽が聞こえる。メイナード・ファーガソンのハイ・ノート・トランペットで
「ロッキーのテーマ」。
とても能動的だ。
お客さんがすごく喜んでくれて。会社に感謝の手紙をくれたって。
野田さんが言ってたっけ。」
と、友里絵。
「そんなことあったんだ」と、由香。
愛紗は「運転してた頃も、そうだったってお話は聞いた事ある」
友里絵は「そうそう。乗務してる時も、バスに乗るのが大変なおばあちゃんの
荷物持ってあげるために運転席から降りて、手伝ってあげたり。」
愛紗も、その話は聞いている。「社長表彰になったんだけど、名乗り出なかった」
由香も「そうそう。あの人らしいね。それで、誰かが代わりに受賞しに行ったけど
タマちゃんは最後まで何も言わなかったって。」
「野田さんも言ってたね、『あれは鉄人だ』って。そういう事はなんとも思っていない。」
と、友里絵。
・・・・ソウイウモノニ、ワタシハナリタイ。
のかもしれないと愛紗は、ふと思った。
さっき、車椅子スロープを出してあげた事、とか。
三人は、横断歩道を渡って、トキハデパートの新館の前に。
大きな画面のプラズマ・ディスプレイに動画が映って。
トキハのコマーシャルだったり、音楽ビデオだったり。
「結構都会だね」と。友里絵。
エントランスにエア・カーテンがあって。
ゴージャスなシャンデリア。
高級な感じは銀座みたい。
英語表記の、高級そうな化粧品がずらりと並んでいる入り口のそば。
ちょっと、3人は場違いな感じ。
「すごいねー。」と、友里絵。
「うん」と、由香。
「大分じゃないみたいね」と、愛紗。
「トキハがあるおかげで、随分大分は助かってるらしいね。別府とかで、倒産しそうなお店
とかを助けたり、潰れた後にお店はそのままで、従業員を全員再雇用したり、とか。」
と、愛紗。
「すごいね、なんだか」と、友里絵。
「あったかいんだね」と、由香。
三人は、一階のフロアをぐるりと回って。
どれも高級すぎて、ちょっと、見るにはいいけれど。
「大分ってリッチな人が多いのかな」と、友里絵。
「そうだと思う。だって、お米が年2回採れるくらいだから」と、由香。
愛紗は、そういうところで育っているので
特別な感情はないけれど
なんとなく、大分の人はのんびりしていて、穏やかだな。そんな感じ。
結構な都会なのに。
「こういうところなら、バスの運転手をしても大丈夫かもね、女の子が」と、友里絵。
「有馬課長は九州の人だから、それで愛紗に転勤を薦めたのかな」と、由香。
愛紗は、そこまでは考えが及ばなかった。
落ち込んでもいたから、「都会じゃ使えない」と、烙印を押されたような
気持だったし。
「みんな、きちんとしてるものね。ルール守ってるし」と、由香。
そういえば、バスに車椅子の人が乗ろうとして
バスが遅れても、文句を言う人は誰も居なかった。
車椅子席を畳もうとすると、都会だと「立ちたくない」とか
そういう人が必ず居た。
お年寄りが立っているのに、無視してゲームをやっている大人とか。
愛紗は、そういう人を見るのも嫌だった。
なんというか、怒り、ではなくて。
存在自体が無くなってほしいと思った。
「そういえばさ、タマちゃんが辞めた原因もそれだって。『ホントに嫌になった』って
言ってたって。」と、友里絵。
「・・・そうなんだ」と、愛紗。
由香も「うん、なんか、おばあさんに席を譲らない中年女を立たせたりしたら
その女がクレーム入れたんだとか」
「ふざけてるね」と、友里絵。
「そうなんだけど、当時の所長がほら、あの岩市だから」と、由香。
「なるほど」と、友里絵。
「有馬さんはなんていってたの?」と、愛紗。
友里絵は「うん。『あいつは、こういう世界には馴染めないな』 だって。」
それは、愛紗が言われた事と同じだった。
「あ!時間。」と、由香。
デパートの大きな時計は、もうじき12時!
「大変!」と、エスカレータを逆に降りようとしても無理だ。
3階まで上がってきてしまった。
下りのエスカレータは反対側。
駆け出すわけにも行かないデパート。
それでも早足であるいて。
エスカレータが遅いのでイライラしながら(笑)
それでもエスカレータを歩いたりはせずに
一階まで降りた。
「駅まで5分くらいだから。急がなくても大丈夫」と、愛紗。
「そうだけど。12時20分でしょ?特急」と、由香。
「間に合わなければ、別のプランで行けばいいよ」と、友里絵は
案外に物分りがいい。
確かに、13時台にも特急はあるだろう。
トキハデパートの新館の前から、横断歩道を渡って
駅に向かおう・・・としたが。
なかなか、歩行者信号が変わらない。
スクランブルになっているから、大通りの信号が青でも
歩行者信号は変わらないので・・・・・。慣れた人は
赤のまま渡っていってしまう。
友里絵も「いらいらするねー。」と、足をばたばた。
でも、そんな様子はかわいらしい。
由香は「アンタが言ったじゃん。『間に合わなくてもいい』ってさ」と。
友里絵は「そりゃそうだけどさ、つい」
愛紗は、その間にケータイのメールを見てみると
菜由の希望は「みんなで決めて」との事。
それを伝えると、友里絵は「よし!じゃあ、間に合ったら12時20分・・・は、絶対無理か」
と、壁の大きなTVの時計を見て。
愛紗は「次は12時40分の熊本ゆき『あそ』ね。」
「あっそ」と、由香。
「さぶーーーー!!」と、友里絵が笑う。ハハハ、と。
「さぶって言うな!」と、由香が友里絵をひっぱたく。
由香の方が背が高いの。
その間に信号が青になり、ひっぱたこうとした由香は空振り。
友里絵は、とっとこ、とっとこ。
小柄だけど早い。
トキハ会館は、昔ながらの結婚式場。
ビルひとつがそうで、下の階は衣装屋さんとか、旅行屋さんとか。
「田舎だなぁ」と、愛紗は思う。
自分も、おとなしく宮崎に居たら、こういうところに押し込められていたんだろうな
と、思う。
それを横目に、友里絵の背を追う。
・・・そういえば、友里絵ちゃんは「早く結婚したい」と言ってたんだっけ。
そんなもの、なのかな。
愛紗自身には、まだよく判らない。
友里絵は深町に出合って、「早く結婚して赤ちゃんほしい」と言った、とか。
「やっぱり、よく判らないなぁ」と、つぶやくと
少し前を歩いていた由香が「どうかした?」。
愛紗は「ううん、なんでもない。」と。
大分駅が見えてきた。
OITA STATION 大分駅
と、ネオンサインがあるのがいかにも国鉄的である。
大きな時計があるのも、そういう感じ。
かなり大きなバスロータリーだが、リムジンバスは大通りに停車し、降車して
そのまま空港へ戻る。
12m車だから、研修で乗った観光バスと同じだ。
その他、高速バスがこの道沿いに停車し、次々と発車していく。
臼杵方面行き、熊本方面ゆき。
九州は広いので、住んでいる人は飛行機をよく使う。
それで空港連絡バスが多く走っている。
サンダル履きで乗るような感じ。
この辺りは鉄道も同じで、九州新幹線もそういう感じだ。
熊本ー博多とか、ふつうの若者が遊びに行ったりする。
スケールが大きいのである。
大分からだと、日豊本線回りの新幹線が無いから
在来の特急で1時間くらいだから、それほど遠いイメージはない。
ただ、九州を横断する路線は山岳路線なので、未だに電車は走れない。
乗り継ぎの間隔によるが、小倉まで50分の「ソニック」で行き
新幹線に乗り換えた方が西海岸へ行くのが早かったりもする。
急がない、楽しむ旅なら、久大本線・豊肥本線回りがいいけれど。
駅前の大きな国道は、地下道があるけれど
横断歩道の信号が変わるのを待つ。
その時間で、友里絵においついた。
「はーぁ。忙しかった」と、友里絵。
「急がなくてもおんなじじゃん」と、由香。
「ほんと」と、友里絵も笑う。
信号が変わり、駅前のロータリーへ。
なぜか音楽スタジオがあったり、カレーヤ、と言う直裁な名前の
カレーのお店があったり。
コックさんのマスコットが看板になっていて、カレーヤ、と書いてあったり。
駅の構内に「駅市場」。スーパーマーケットだけれども
元気な感じ。
音楽が聞こえる。メイナード・ファーガソンのハイ・ノート・トランペットで
「ロッキーのテーマ」。
とても能動的だ。
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