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深町珠

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日曜日

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家族ってなんだろ、って碧は思うけど
「ま、考えてもイミないし。」軽快な子である。

「楽しみだなぁ、日曜。詩織はどうかな。予定。
あの子は大学だから休みだね、きっと。」と

詩織にもメールを書いておいた。

碧は元気で軽快の子だから、
静かでおとなしい詩織は、なんとなくテンポが合わない。
友達なんだけど、ね。

それは、そういうもので
自分の思い通りの友達なんて、いない。

思いやりあって、友達だもの。




神流は、碧のメールを受け取って「懐かしいですね。」と
ひとこと。

丘の上の学校。
白い校舎。木造の部室・・は、今はないだろうな、と
エンジニアらしく思う。


「金曜の夜に帰りましょうか。」日曜に会って、すぐ戻るのでは
ちょっと、味気ないから。

新幹線なら2時間くらいだから、そう遠くなく感じる。

「便利になったものですね。」と。

新幹線の指定席と、土曜の宿泊予約をしておいた。

「ほんとうに、便利になりました。」


そのぶん、好きな研究ができる。・・・・そういえば
高校生の頃も、いつも研究で夜更かしをしていたから
昼間は眠かった。
そのせいで、おとなしい子だと思われていたかもしれないけれど
実際はそうでもなかったりする。 そういうものだ。



金曜の夜、仕事を早めに終えて
神流は通勤電車に乗ると
思いのほか混んでいた。

早い時間に乗った事がないので、いつも空いていたのだった。

新幹線の始発駅に着き、地下通路に降りると
そこも結構混んでいて。
ビジネスマン用の、素っ気無い北側の通路から
乗り換える。

計画性の高い、エンジニアらしい視点である。

それだけに、理論的でないものはあまり得意ではなかった。
まあ、そういうものである。

お化けとか (笑) 不思議な現象も理論的に解析をするタイプ。


新幹線乗り換え口に、北側通路から入り
階段を昇って。更に階段を昇ると
古都ゆきのsuper expressのプラットホームに行ける。

古い駅だから、継ぎ足し、継ぎ足しで出来ているので
凸凹になっているのだろうと、神流は思う。


予約してある7号車に乗った。





すぐに、と言う感じで古都に着く。
2時間は、本当にすぐと言う感じ。

指定席は広く、静かで快適だった。


古都の駅は、首都よりも整然としていて
普通の駅と言う感じ。

なつかしい。と神流は思う。


風の匂いまで、故郷、と言う感じ。

「しばらくですね。」と、ひとりごと。


改札を出ると、珠子が待っていた。「おかえりー。ひさしぶり。」
その笑顔は、高校生の頃と変わらない。
文字通り、変わっていないのである。細胞が。

「お、珠ちゃん。ありがとう。」と、長閑な神流である。

珠子の方が背が高いので、少し見上げる感じなんだけど
タイプとしては神流の方がお姉さんっぽい。
理知的なせいもある。


神流は「お店、大丈夫でしたか。」と、気遣うけれど
珠子は「ううん、もう、夜だとね。お菓子もほとんどないし。売れちゃって。」

「商売繁盛、いいですね。」と、神流は笑顔で。
駅の上にあるビジネスホテルに向かおうとする。

珠子は「泊まってよ、うちにー。迎えに来たんだし。」と。楽しそう。

神流は「ご迷惑でないですか?」

珠子はかぶりを振り「ううん、みんな大歓迎。いつだって。」

来る人を拒まないアーケードである (笑)。
そのあたりは、「寅さん」の葛飾柴又の門前町のようだ。




その優しさのおかげで、高校生の時
転校してきた神流は、珠子と友達になれた。
それは詩織も同じだった。

商家の子だから、幼い頃からひとに慣れているし
まわりが、いい人だから。
ひとを怖れない。

そういうところが、碧を心配させるあたりだろうけど

この町に住んでいるなら、大丈夫だろう。


アーケードのそばまで歩いてきて、神流は
街角にあるセキュリティ・カメラに気が付く。

「珠ちゃん。お母さんに似た人って映ってなかったんですか?。」


「え?」珠子は、神流に会えたから忘れていた。


「・・・あ、このあいだの夕暮れの事?うん。それは誰にも言ってない。
なんだか、怖くて。お父さんは知ってるけど。」と、珠子。


「お父さんは何と仰っていますか?」と、神流は
折り目正しい子。
職人の子である。


「うん。そんな筈ないだろうって。それに、アーケード通ってたら
誰か気づくと思う。」と、珠子。



神流は「・・・そうですね。」と、理論的にもそうなるな、と思った。
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