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深町珠

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ゆうぐれ

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詩織は、ふんわりしたミズクラゲを見ていて
珠子を連想したりする。

「珠子、ミズクラゲさんの生まれ変わりだったりして。」

そんなことはありえないのだけれども (笑)。

ミズクラゲは、不老不死ではなくて
遺伝子は新しいものを作る。
細胞などの物質を、再利用する。いわばリサイクルであるが

珠子の場合は、その遺伝子があまり変化せずに
地上の放射線、紫外線などの影響を受けずにいられる、と言う事である。






・・・でも、どうして帝ってお妃を浚ったりしたんだろうな、と。
思ったりもする。

ミズクラゲみたいに、自然に生まれ変わっていけば
誰かが悲しむことなんてないのにな、と。


その詩織の連想は正しい。
珠子は、ひとが喜ぶことをするのが好き。
お店の子だから、そうなのだろうけれども。

商店街のひとたちも、そうで
ひとが喜ぶ事、例えば
物を売るのもそうで
美味しいものを作って、喜んで貰えて
お礼を頂く。

それで生きている人たちだ。

追われていないから、焦る事もない。


古都には、そういう人たちが住んでいる。


恋愛、みたいな事は
しかたなく排他になるけれども
もう、そういう時期を過ぎたアーケードの人たちには
そんな争いも起こらない。
ずっと、平和が続く。

アーケード全体が、ミズクラゲの集団のようでもある。




ミズクラゲの世話を終えると、そろそろ詩織の仕事も
今日は終わりになる。

自然が相手だから、今はそれほど忙しくない。
夕方には帰れるし

暇な時は、早く帰ってもいい。

研究員は、そういうものだ。
研究を仕上げれば、時間に縛られる事はないから
その辺りは珠子と似ている。
詩織の家もお店だったし、神流のお父さんは職人である。
碧のおじいちゃんも職人だったから、友達は
似たような感覚の持ち主。
上手く行った理由のひとつかもしれない。


友達同士、思いやる気持。
競争しよう、なんて事は無かった。

でも、高校三年生になる頃、クラブのリーダーを
碧と神流が、各々なりたがる、と言うような
微笑ましい事は、あった。


結局多数決で碧がなったものの、学園祭の時
管理が上手く出来ず、ひとりで悩んでいた碧を
助けたのも、神流だった。


・・・・助け合い、か。


詩織は思う。
珠子の住むアーケード、あんな風に
みんなが助け合っているのって、いいなぁ。




ふと、そんなことを思いながら
仕事を終えて、キャンパスの並木道を歩いていると

男子学生が、楽しそうに女子学生と話しながら
歩いているのを見かける。


「あんな事、なかったなぁ」と、詩織は微笑みながら。
女の子だけで集まっていたから
高校生の詩織たちは、ちょっと近寄りがたかったのかもしれなかった。


・・・それに。


碧が、しっかり珠子をガードしてたから。 (笑)。



でも、ふつう男の子から来るね。ラブレターとか。と
詩織は思い、さっきの「帝」のお話を思い出す。



「そういう事って、これからあるのかなぁ。
なんでそういう気持になるのだろう。帝さん。」と

歩きながら考えていると、さっきの生物社会学研究棟の
そばを通る。


あの、名誉教授さんのお部屋は、まだ明かりがついていて
教授さんは、ひとりで何か、ご本を読まれているようで。

窓際のテーブルで、外に向かって。

デスクではなく、時々外を眺めたくなるのだろう。

その視線が、詩織に気づく。

にっこり笑って、窓を開く。

ちょっと古い作りのサッシは、重いようで

ガラガラ、と大きな音を立てたので
詩織も気づいてしまった。

「やあ、お嬢さん。お帰りかな?」と、温和な丸顔に
詩織も和んでしまって、笑顔を返す。


「先生、お疲れ様です。はい、私は今帰りです。」と、丁寧に挨拶。



温和な丸顔は「いやいや、先生はね、講義をする人だから。今西と呼んでね。」
と、にこにこ。



詩織は「はい。」とは言ったものの。そんな偉い方を
名前で呼ぶ気にはなれず (笑)。




温和な丸顔は、うんうん、と頷いて「良かったら
ちょっと寄っていかない?珈琲があるんだ。」と
お友達のように詩織を誘う。


優しい人である。


詩織の様子を気にしているのかもしれない。


詩織は「はい、ありがとうございます。」
お話したいこともあったな。と。


玄関から入って、さっきの廊下を歩いて。
今西の小部屋へ。


こじんまりとまとまっている小部屋には、あまり資料のようなものが
見当たらず。
立派なデスクと、傍らのテーブル。

それと、なぜか珈琲セットがあったりする。

「さあ、どうぞ。貰い物だけれども。」と、温和な丸顔で進める今西である。


詩織は、ちょっと緊張気味に「ありがとうございます」と、
テーブルのそばの椅子に腰掛けた。



「珈琲と言うのも、なかなか面白い飲み物ですね。」と
今西は、静かに珈琲を嗜んでいる。


そして。「あ、さっきのお話ね。神隠しの。調べてみると面白いね。」と。

詩織の調べていたような事を言った。


詩織は驚いて「わたし、さきほどまでそれを調べていました。」と

今西は楽しそうに微笑んで「そうですか。それは偶然だ。
如何に思いますか、あの現象。」と。


詩織は「はい。女の人が神隠しに遭う原因のひとつは
婚姻なのか、とも思います。」


今西は、頷いて「そうかもしれないね。」と笑顔で
「女の子らしい見解だね。」と。


詩織は女の子、と
呼ばれてちょっと恥ずかしい。「いえ、もう女の子と言う年では・・・。」と。


今西は笑って「いや、すまんすまん。僕から見るとね、かわいい女の子に見えたので。
高校生か大学生かと。」と。


そういわれると、詩織は恥ずかしいけれど
ちょっと嬉しい。


同時に回想する。
・・・珠子も、若く見えるのを気にしなければいいのかな。


見た目、何歳に見えるかって
見る人の感覚で違うもの。







今西は、主題に戻る。


「はい。帝でなくてもね。好きな人を大切にしたい気持は
自然ですね。」


その、大切にしたいから囲いたいと言う表現が
優しくて。詩織は和んだ。

神隠しとか、人攫いとか (笑)
そういう風に感じていたから。


今西は続ける。「ヒトに近い類人猿でもね、似たような事はあるけれども
野生だから、どこかに逃げる事が出来るんだね。
もし、「帝」が嫌だったら。

昔話をするとね。
人間は、農耕生活になってから定住が起こったんだけど
狩猟採集生活なら、どこか別の場所にも自由に行ける。


そういう昔の記憶が、わたしたちにも残っているんでしょうね。
それで、逃避行動をする。

農耕が無ければ、「帝」のような存在はないだろうから
あまり困る事もなかったんだね。」

生物+社会 と言う見解から、今西はそう述べた。




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