汽車旅つれづれはなし

深町珠

文字の大きさ
上 下
16 / 38

12列車"はくつる"の朝

しおりを挟む


------------------*--------------------





<その15> 12列車"はくつる"の朝


12列車は盛岡を出て上野に向けて快走している。
盛岡といえばかなりの都会だが、それでもしばらく車輪を進めれば
すぐに森と田園、という雰囲気の車窓風景になる。
夜間であっても薄明かりで川の水面が光っていたり
水田に月明かりが映っていたりするからそれ、と解る。

客車列車らしく軽快なレール・ジョイントの音と揺動が
オハネ25型の広い下段寝台に横たわっている背中に伝わってくる。
どこか落ち着きを感じる下段の佇まいではあるが
上段の浮遊感のある寝心地もまた良いものだ、とは思う。

個室寝台、Bソロの時は大抵二階席を取るが
この開放タイプのオハネ25だと上段からは外が見えないので
今回は下段にしたのだが、盗難等の心配、またプライバシーの確保など
という点では上段の方がいいかな、などと思ったりもしたり..
寝惚け眼であれこれ、と考えているうちに眠りの淵に落ちてしまう(笑)。

構内踏切の音、ポイント通過の振動...
駅をひとつづつ通過しながら着実にEF81は上野へと向かっている。
旅の最終夜、どこか寂しい旅客を乗せて。
あるいは上京、期待に胸ふくらます乗客を乗せて。







「皆様、おはようございます。ただいまの時刻は
昨夜はごゆっくりおやすみになれましたでしょうか。
列車は定刻で運行しています。あと10分ほどで宇都宮に着きます...。」

6時少し前。
いつのまにか寝入ってしまって、ほんの束の間、に思える6時間であった。
車窓の様子をカーテンの隙間から見ると、今日も快晴である。
すこし澱んだ空気が寝台車、を実感させる。

昨日、酸ヶ湯温泉で使ったタオルが、八甲田の雰囲気を発している。
氷を包んで置いたのだけど、氷はすっかり溶けて
ビニールのコンビニ袋の内側は結露し、それで湯の香りがしたのだ。

起きようかと思ったが、まだ少し眠いのでそのまま。
深く眠りこけてしまう(笑)...


大宮到着は覚えておらず(笑)

「本日ははくつる号、ご乗車ありがとうございます。
まもなく終点、上野に到着致します。
お疲れさまでした、降り口は右側、13番ホームへと到着です....。」


列車が減速したのに気づき、ふと外を見ればもう尾久を過ぎていたので
あわてて身支度をするともう上野駅構内。
日本一の重複路線といわれる東北本線のこの区間、頭端式ホームへと
EF81は惰行でゆっくりと進入。
オハネ25の寝台からは、かつて使用されていた19番、20番ホームの線路が見える。
東北特急華やかりしき頃の面影は、今では赤錆びたレールだけが物語る...

と、感慨に耽る間もなく12列車「はくつる」号は定刻到着。
揺動なく停止。
この列車の運転士さんのブレーキ扱いは本当に見事だ。
一般的なブルートレインでは停止直前緩めが困難だ、と聞くが
どのような操作なのか、揺動なく停止するのは快適である。
頭端式ホームでは行き過ぎは即事故に直結であるから
緩めが過ぎたら、などという心配もないほど確かな技量なのだろう。

上野駅は曇り、朝とはいえ東北の涼しさに慣れていた体には暑く感じる。
カーテンを開き、降りる準備をする。
乗客の殆どが足早にホームを去って行く。
ふと気づくと、隣の寝台、昨夜の娘さんはシーツ、浴衣などを
綺麗に畳んで下車した後であった。

僕も見習う事とする(笑)。

がらん、とした客車寝台の廊下を一人、ザックを背負い歩く。
いつものことだが、帰路、終着駅に着いた寝台特急の朝
というのは物哀しく感じられる。



名残惜しげに編成後端まで歩くと、鉄道ファンらしき青年が
三脚、セルフタイマーで電源車と記念撮影をしていた。
一人旅、自分の写った写真を残したいのだろうな、と思う。
撮ってあげようか、という間もなく彼は撮影を終えて
キャノンEOS7と重量級三脚を抱えて足早に去って行った。
孤独が好きなのか、ニコンFEをぶら下げた僕が敵に見えたか(笑)。


九州などへ行くと、たとえば「白いかもめ」先頭車両で
記念写真を撮っている若い女の子グループなどをよく見るが
<img src="http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-3.jpg">

鉄道の旅をファンではない方にアピールするのはやはり
変わった車両であった方が良いのかな、とも思ったりもする。



「カシオペア」「サンライズ」などは寝台列車であっても人気である
というあたりからはそう考えられ
旧態依然たるオハネ25、583系などを好んで乗車する
のはやはりマニアの所存だな(笑)。
まあ、アコモ改善で行ける「トワイライト」のような例もあるから
企画の問題なのかもしれない。


ひと気の少ないプラットホームで、傷ついた車体の24系25形「はくつる」を
愛おしげに眺めながら、僕は旅の余韻にとりとめもなく回想を続け
VTRで車両の映像を撮り、写真を撮り続けた。

推進回送で尾久へと引き上げる「回12レ」を見送ったが
旅を終わるにはちょっと名残惜しいので、到着する夜行列車を
眺めてしばらく、ここに居ようと思い立つ。

時刻表を見ると、しばし休息が取れそうな様子なので
階上へとエスカレーターで登る....


オトコが化粧をする時代...か。
上野はMr.レディが多いのかな?(笑)。


今回の写真はこちら↓

http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-1.jpg
http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-2.jpg
http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-3.jpg
http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-4.jpg
http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-5.jpg
http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-6.jpg
http://c62-.hp.infoseek.co.jp/view/tr17-7.jpg


-------|以下、次回に続きます..|-------
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

タビスルムスメ

深町珠
青春
乗務員の手記を元にした、楽しい作品です。 現在、九州の旅をしています。現地取材を元にしている、ドキュメントふうのところもあります。 旅先で、いろんな人と出会います。 職業柄、鉄道乗務員ともお友達になります。 出会って、別れます。旅ですね。 日生愛紗:21歳。飫肥出身。バスガイド=>運転士。 石川菜由:21歳。鹿児島出身。元バスガイド。 青島由香:20歳。神奈川出身。バスガイド。 藤野友里恵:20歳。神奈川出身。バスガイド。 日光真由美:19歳。人吉在住。国鉄人吉車掌区、車掌補。 荻恵:21歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 坂倉真由美:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 三芳らら:15歳。立野在住。熊本高校の学生、猫が好き。 鈴木朋恵:19歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌補。 板倉裕子:20歳。熊本在住。国鉄熊本車掌区、車掌。 日高パトリシアかずみ:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区、客室乗務員。 坂倉奈緒美:16歳。熊本在住。熊本高校の学生、三芳ららの友達・坂倉真由美の妹。 橋本理沙:25歳。大分在住。国鉄大分機関区、機関士。 三井洋子:21歳。大分在住。国鉄大分車掌区。車掌。 松井文子:18歳。大分在住。国鉄大分車掌区。客室乗務員。

鉄道学校2年F組

深町珠
ファンタジー
とある国の鉄道職員養成高校。 クラスメートの4人、めぐ、リサ、naomi,れーみぃは 廃線になった軽便鉄道を再生、保存鉄道とする実習を始めます....

アルファポリスで書籍化されるには

日下奈緒
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスで作品を発表してから、1年。 最初は、見よう見まねで作品を発表していたけれど、最近は楽しくなってきました。 あー、書籍化されたい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...