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怖い夢
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「怖い夢って、どんな?
話すと楽になるよ」と、加藤は
半分眠そうなゆきなに語る。
睡眠面接である。
古くから行われてきた、治療のひとつである。
麻酔面接と言って、カルト集団が暗示に
掛けたりするのと似ているが
これは治療である。
ゆきなは、少し朧げに語る。
「人を殺す夢」と、断定的な言い方が
いつものゆきなと違っている。
深層の記憶では、恐らく
遠い昔に傷ついた記憶があり
それを思い出したくないので、硬直しているのだ。
「その人は、誰?」加藤は、優しく静かに聞く。
「高島米子」ゆきなは、少し震えた声で
そう伝えた。
言った事で、記憶からは少し遠ざかる。
言えないのでいつまでも記憶に残るのだ。
それを言わせるのが治療である。
「どうして高島米子なの?」
ゆきなは、少し黙っていたけれど
「トイレに行く時にも時間を計ったり
朝早くただで働けって言ったり。
あいつの思い通りにしないと、怒鳴るし」
高島米子は、加藤と同じバイト先の
パン屋にいたパートの50女で
勝手に店を仕切っていた
どこにでもいる、ヒステリックな婆で(笑)
加藤は相手にしなかったが
それは、加藤が大柄な男だからで
か弱い女の子には、随分辛い事だったろう。
店長が事なかれの若い男だったので、それが
良くなかったのだ。
加藤も、いろいろ言われたが
無視していた。
「高島さんに何か権限があっておっしゃっているのですか?」と
微笑んで言ってあげると
ヒステリックに喚くので、加藤は微笑んで
眺めていた。
どうせ何も出来ないのだ。
「ここではそういう事になってます!」と
喚くので
「どなたがお定めになったのでしょう?
店長さんですか?」と、加藤が
微笑みながら言うと
益々喚く米子だった。
「店長よりも私は前から此処にいたの!」
「会社は組織です。権限の無い方に
指示する事はできません。あなたは
パートでしょう?」と、加藤は
微笑んで平然と答えたりした。
喚くのを無視して仕事を続けていたりしたが(笑)。
ゆきなは、それを殺したいほどの
感情で受け取っていたのだろう。
恐らくは、もっと古い記憶で
誰かに服従をさせられて傷ついた
記憶があるのだろう。
それを思い出して、幼かった頃の
絶望的な怖さを思い出しているのだ。
「ゆきなちゃん、小さい頃にも
そんな事、無かった?怒鳴られて怖かったとか」と、加藤が言うと
ゆきなは、震えだして叫んだ。
「大丈夫。起きなさい!」加藤は
ゆきなを揺すって起こした。
涙を流していたゆきなは、瞳を開くと
加藤に抱きついた。
「私、どうしたの?」ゆきなは
すっきりしたような顔だった。
高島米子は、ただのきっかけに過ぎない。
殺したい程の憎しみもないけれど
不条理に怒鳴り、服従を要求された
辛い記憶を、思い出してしまって
反発したかった幼い気持ちが、今になって
反転するのだ。
「大丈夫。もう大丈夫」と、加藤は
ゆきなを撫でて、支えてあげた。
「昔ね、ゆきなちゃんが小さな頃に
些細な事で傷ついたんだね。
とっても嫌だったのね。
その事を思い出したくないって、記憶にしまって
いたから
ずっと覚えてたんだ。
その気持ちだけを覚えてたんだよ。
もう、大人だから、今思い出したから
もう大丈夫だよ」と、加藤は
優しくゆきなを撫でた。
JOHN LENNONも、ニューヨーク時代に
アーサー・ヤノフと言う医師に
この治療を受けた事がある。
原初理論、と言う古い考え方だ。
後にトラウマ仮説と言われたものと
良く似ていて
加藤はその両方を鑑み、ゆきなの
心に語りかけた。
ゆきなは、さっぱりとした声になった。
それまでは、どこか低めの鬱屈した響きを
持っていた(なので、加藤にはすぐに
それと解った)。
話すと楽になるよ」と、加藤は
半分眠そうなゆきなに語る。
睡眠面接である。
古くから行われてきた、治療のひとつである。
麻酔面接と言って、カルト集団が暗示に
掛けたりするのと似ているが
これは治療である。
ゆきなは、少し朧げに語る。
「人を殺す夢」と、断定的な言い方が
いつものゆきなと違っている。
深層の記憶では、恐らく
遠い昔に傷ついた記憶があり
それを思い出したくないので、硬直しているのだ。
「その人は、誰?」加藤は、優しく静かに聞く。
「高島米子」ゆきなは、少し震えた声で
そう伝えた。
言った事で、記憶からは少し遠ざかる。
言えないのでいつまでも記憶に残るのだ。
それを言わせるのが治療である。
「どうして高島米子なの?」
ゆきなは、少し黙っていたけれど
「トイレに行く時にも時間を計ったり
朝早くただで働けって言ったり。
あいつの思い通りにしないと、怒鳴るし」
高島米子は、加藤と同じバイト先の
パン屋にいたパートの50女で
勝手に店を仕切っていた
どこにでもいる、ヒステリックな婆で(笑)
加藤は相手にしなかったが
それは、加藤が大柄な男だからで
か弱い女の子には、随分辛い事だったろう。
店長が事なかれの若い男だったので、それが
良くなかったのだ。
加藤も、いろいろ言われたが
無視していた。
「高島さんに何か権限があっておっしゃっているのですか?」と
微笑んで言ってあげると
ヒステリックに喚くので、加藤は微笑んで
眺めていた。
どうせ何も出来ないのだ。
「ここではそういう事になってます!」と
喚くので
「どなたがお定めになったのでしょう?
店長さんですか?」と、加藤が
微笑みながら言うと
益々喚く米子だった。
「店長よりも私は前から此処にいたの!」
「会社は組織です。権限の無い方に
指示する事はできません。あなたは
パートでしょう?」と、加藤は
微笑んで平然と答えたりした。
喚くのを無視して仕事を続けていたりしたが(笑)。
ゆきなは、それを殺したいほどの
感情で受け取っていたのだろう。
恐らくは、もっと古い記憶で
誰かに服従をさせられて傷ついた
記憶があるのだろう。
それを思い出して、幼かった頃の
絶望的な怖さを思い出しているのだ。
「ゆきなちゃん、小さい頃にも
そんな事、無かった?怒鳴られて怖かったとか」と、加藤が言うと
ゆきなは、震えだして叫んだ。
「大丈夫。起きなさい!」加藤は
ゆきなを揺すって起こした。
涙を流していたゆきなは、瞳を開くと
加藤に抱きついた。
「私、どうしたの?」ゆきなは
すっきりしたような顔だった。
高島米子は、ただのきっかけに過ぎない。
殺したい程の憎しみもないけれど
不条理に怒鳴り、服従を要求された
辛い記憶を、思い出してしまって
反発したかった幼い気持ちが、今になって
反転するのだ。
「大丈夫。もう大丈夫」と、加藤は
ゆきなを撫でて、支えてあげた。
「昔ね、ゆきなちゃんが小さな頃に
些細な事で傷ついたんだね。
とっても嫌だったのね。
その事を思い出したくないって、記憶にしまって
いたから
ずっと覚えてたんだ。
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もう、大人だから、今思い出したから
もう大丈夫だよ」と、加藤は
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後にトラウマ仮説と言われたものと
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加藤はその両方を鑑み、ゆきなの
心に語りかけた。
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それまでは、どこか低めの鬱屈した響きを
持っていた(なので、加藤にはすぐに
それと解った)。
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