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父と子

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「あ、この写真」ななの見た
色褪せたモノクロームの写真。

白い作業服の、オールバックの青年。


加藤にそっくりのその男。


ななは、どっきりとした。


不思議そうに、みわはななを見て



写真に見入る。



「カッコイイね」と、みわは笑顔になる。



うんうん、とななはうなづく。


「あの、この方は?」ななが尋ねると


ショールームのガイドさんは

事務所に、ななたち3人を誘った。


静かな空間、だけれども

歴史を感じる、重みのある場所だった。



年配の、技術者ふうの男性は



「この方、加藤さんですね」と、加藤の父を
指し


立派なエンジニアでしたが、才気が勝ってしまって
会社の先輩たちに担がれて、独立してしまったんです、と

残念そうに言った。


ななは、黙って聞いている。



「それから、アイデアを部下に盗まれて
会社を取られてしまったそうです」と
少し、涙ぐみながら。




ななは、思う。


加藤は、超然と微笑んでいたのに
そんな苦労が、家庭にあったとは。


そう思うと、その加藤の人生と
親の影響を


ななは、身に染みて感じる。



なな自身は、女の子だから
どちらかと言うと
母の、いいところも
嫌なところも
受け継いでいるように思え

加藤の父が、才気が余ってしまって
失敗して

そのせいで、世捨て人のように
なってしまって

そういう父を、加藤が支えていたのだろうか?
それとも、父を嫌悪したのだろうか?

法律に詳しく、科学研究に勤しむ加藤は
父をどう思っていたか、は
知らないけれど
ななには、父親に似ているように思えた。



「弟さんふたりもいすゞのエンジニアで、
もう退職されていますが。
あ、遠縁の方が
まだいすゞ中央研究所に在籍で。
いすゞ一家だったんですね、加藤家は。」



1960年代あたりの日本は、そういう国だった。


会社も一家、そういう気持ちで
だからこそ頑張れた。


地域もそうで、みんなが助け合って生きて来た。



それを支えていたのが国家で、
銀行は企業を支えたし

その銀行を、国家が責任を持って支えた。



当然だが、貨幣は国のもの。


その貨幣を支えた銀行を国が支えていたのが


その時代。

だからこそ、国を信じられた。

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