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「そういえば、旅行に行かないね、なな」と
母がそう言うので、ななは気づく。


好きでもない勤めをしていた頃は、その反動で
休みになるとどこかに行きたがった自分。


研究者だった加藤は違っていて「休みは大抵家にいるね」と、穏やかに話していた事を
ななは、ふと思い出し


仕事のストレスも、あまり感じないそういう
人は、一体どういう人?(笑)と
思ったものだったけれど



今は、ストレスそのものがない。



休んでいると落ち着かない、なんて気分だったのは


休んでいる間に、立場が変わってしまうのを
恐れて、なんてところだったけれど



科学者の加藤が、科学と研究、それが
不変な基準として自らの立場が
変わらないように



今のななは、自分を誰とも比べる必要がない。



ななだけでなく、日本中でみんながそうなったのだ。



エスカレーターに乗れば歩いて
クルマに乗れば、前を煽って。


そういう気持ちは、実は
落ち着けない基準への苛立ちだったのだろう。



思えば、基準が必要なのもおかしな事で

自分は自分、比べなくていいのだけれど。
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