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オートバイと
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オートバイなどというものは
純粋に、遊ぶ為のもの。
小さな排気量の、例えば100ccくらいの
郵便物を運ぶバイクくらいなら、実用的で
あったりもする。
でも、Naomiが乗っているような1000ccは
殆ど遊ぶ為の機械で
そういうものを人間が好む理由は
単純に楽しいから、だろう(笑)。
操縦の難しい機械に自分が乗って、操る事を
楽しむ。
機械文明のある人間らしい楽しみかたである。
その機械文明も、つまりは
狩猟採集から始まった人間の生態が
貯蓄を経て、貨幣を得るあたりに始まったものである。
なにがしかの報酬を得る為に、ひとは働いたりするけれど
報酬が相場で決まってしまうから
損得があったり、運に左右されたり。
そういう不条理さも、また
解決するべき問題である。
「さ、下りて」Naomiの家は、少し街から離れた丘にある。
手作りの屋根がある、広いガレージに
オートバイが数台。
頭からTR1をガレージに入れ、れーみぃを
下ろすと
軽快に、センタースタンドを掛ける。
長いサスペンションが、ふわ、と
猫の脚のように伸び、銀色のTR1は
休息の時を迎えた。
空冷のエンジンが冷えはじめて、かちかちと
音を立てる。
「貸してくれる250ってどれ?」れーみぃは
見渡すと、すぐにわかった。
「あれ?」指さす。
Naomiが頷く。
白いガソリンタンク、黒いハンドルとマフラー。
丸いヘッドライト。
シングルディスクブレーキ。
細いストライプ。
RZ250と、書かれている。
「これも、コレクション?」れーみぃが言うと
「そう。それはね、わたしが直したの」と
Naomiは平然と。
だから、壊してもいいの、って
笑顔で言って
ガソリンコックを捻り、キーを回して
軽そうのキックを踏むと、あっけなくエンジンは
掛かる。
青白い煙が出て、ぱらぱら、ぱらんぱらん、と
断続的に排気が出てくる。
「いい匂いね」と、オイルの燃える匂いを
Naomiは楽しむ。
アクセルを捻ると、軽快に
ゴムが弾けるように、エンジンは回る。
水冷2ストローク、250cc。
「35psなの、ちょうどいいでしょ」と、Naomiはバイクに跨がり、センタースタンドを外した。
柔らかいサスペンションが、TR1のように
ふんわりと沈む。
左足でギアを入れ、握ったクラッチをそのままに
アクセルを大きく捻り、クラッチを放すと
RZ250の前輪は、簡単に空を泳ぐ。
そのまま5mほど走り、ゆっくりと前輪を着地させる。
青い煙が、ガレージにたちこめる。
「いいでしょ?」と、Naomiはにこにこする。
「あたしに乗れるかしら」と、れーみぃは
ぶるぶる震える、小さな250のエンジンを見て。
ゆらゆらと揺れる黒い、先細りのマフラーに
触れる。
「坊やのちんちんみたい」と、変なお嬢様(笑)
Naomiも、ちょっと恥ずかしそうに笑う。
RZ250のエンジンを停めて、いかにも
安いつくりのパイプで作られた
サイドスタンドを掛けるNaomi。
そのスタンドは、でも
足を掛けるところがプレスで作られていて
安いながらも心のこもった設計だ。
お金を掛けない部品でも、工夫で
使い易くする考え。
今なら、そういう工夫より
値段を下げる方がいい、と
誰しも考えるだろうけれど
1978年は、まだ
値段でオートバイの価値を決めるひとは
少なかったから
わざわざ加工の手間を掛けて、見栄えの
しない黒いスタンドを作ったYAMAHA。
それは、2サイクルバイクが好きだから、
そういう気持ちだけで作られたものだから
気持ちがわかるひとが、オートバイを買う。
お金は別にして、その気持ちに共鳴するのだろう。
今もなお、RZは名車と言われているけれど
機械に、神様が宿っていると言ってもいいと思う。
なので、長い時を経ても
愛されている。
それも、愛、である。
「れーみぃ、さぁ。欲求不満なの?」笑顔で
Naomiは暖かく。
「なぁんで?」れーみぃは、笑顔で。
「変な事ばかり言うんだもの」と、Naomiは
バイクを下りて、れーみぃの隣に寄って
手の平で、れーみぃの胸に触れた。
「いやっ!」と、れーみぃは
両腕で庇い、でも「うん、Naomiならいいかも、女の子同士も」と、ふざける。
「何言ってんの」と、Naomiは
長い髪を右手で払い「なんか、抱えてんのかな?」と、れーみぃを優しく見る。
れーみぃは小柄だから、すらりと長身のNaomiを見上げ
「ん、なんかなー。よくわかんないんだ。
なにかしてみたいんだけど、なにしていいか。」
それで、変な事言うと
みんな笑ってくれるから、気が紛れるって言うか、と
れーみぃは、複雑な気持ちを打ち明けた。
れーみぃの気持ちの、本当のところは
ふつうの家に生まれ育ったNaomiには
わからないところもあるかもしれない。
英国は昔、世界に植民地を持っていたから
アジアンなれーみぃのような、この北欧で
異端に見える成功者の子女、は
それなりに育てられ方にも厳格なものが
あったりもして。
自由にしたい、と言う気持ちも
強いのだろう。
「でもねーぇ?エッチな事したーいってさぁ。
したことあるの?」と、Naomiはわかりきった事を聞く(笑)。
「Naomiだって」と、れーみぃも笑う。
そうよ、と、Naomiは再びRZ250のキーを捻り、キックを下ろした。
暖まったエンジンは、ぱらぱら、と
軽やかな音を立てる。
アクセルを大きく捻ると、軽い音を立てて
エンジンは震えながら回転を上げる。
「いいでしょ?走ろうよ」と、Naomiは
れーみぃを誘う。
エッチよりいいかもよ、と
経験がないだけに、Naomiも普通にその単語を
女の子同士なら言葉にできる(笑)。
実感があると、そうは言えない(笑)。
180度クランクの2ストロークエンジン。
細かい振動が多いので、エンジンを
柔らかくマウントし
アクセルを吹かした時だけきっちりと
支えられるように工夫してあるのは
オーソゴナル・マウントと言う考案だが
その為に、マフラーが前後に揺れるので
初期のRZ250はマフラー割れが多く発生した。
(当時、クレーム返品のマフラーがYAMAHA本社には山になっていました。元社員、筆者(笑)
それでも、変わった機構のオートバイを
自身を持って作るのは
YAMAHAらしい主張、2サイクルのバイクを
愛すれど故の事。
機械にだって愛はあるのだ。
純粋に、遊ぶ為のもの。
小さな排気量の、例えば100ccくらいの
郵便物を運ぶバイクくらいなら、実用的で
あったりもする。
でも、Naomiが乗っているような1000ccは
殆ど遊ぶ為の機械で
そういうものを人間が好む理由は
単純に楽しいから、だろう(笑)。
操縦の難しい機械に自分が乗って、操る事を
楽しむ。
機械文明のある人間らしい楽しみかたである。
その機械文明も、つまりは
狩猟採集から始まった人間の生態が
貯蓄を経て、貨幣を得るあたりに始まったものである。
なにがしかの報酬を得る為に、ひとは働いたりするけれど
報酬が相場で決まってしまうから
損得があったり、運に左右されたり。
そういう不条理さも、また
解決するべき問題である。
「さ、下りて」Naomiの家は、少し街から離れた丘にある。
手作りの屋根がある、広いガレージに
オートバイが数台。
頭からTR1をガレージに入れ、れーみぃを
下ろすと
軽快に、センタースタンドを掛ける。
長いサスペンションが、ふわ、と
猫の脚のように伸び、銀色のTR1は
休息の時を迎えた。
空冷のエンジンが冷えはじめて、かちかちと
音を立てる。
「貸してくれる250ってどれ?」れーみぃは
見渡すと、すぐにわかった。
「あれ?」指さす。
Naomiが頷く。
白いガソリンタンク、黒いハンドルとマフラー。
丸いヘッドライト。
シングルディスクブレーキ。
細いストライプ。
RZ250と、書かれている。
「これも、コレクション?」れーみぃが言うと
「そう。それはね、わたしが直したの」と
Naomiは平然と。
だから、壊してもいいの、って
笑顔で言って
ガソリンコックを捻り、キーを回して
軽そうのキックを踏むと、あっけなくエンジンは
掛かる。
青白い煙が出て、ぱらぱら、ぱらんぱらん、と
断続的に排気が出てくる。
「いい匂いね」と、オイルの燃える匂いを
Naomiは楽しむ。
アクセルを捻ると、軽快に
ゴムが弾けるように、エンジンは回る。
水冷2ストローク、250cc。
「35psなの、ちょうどいいでしょ」と、Naomiはバイクに跨がり、センタースタンドを外した。
柔らかいサスペンションが、TR1のように
ふんわりと沈む。
左足でギアを入れ、握ったクラッチをそのままに
アクセルを大きく捻り、クラッチを放すと
RZ250の前輪は、簡単に空を泳ぐ。
そのまま5mほど走り、ゆっくりと前輪を着地させる。
青い煙が、ガレージにたちこめる。
「いいでしょ?」と、Naomiはにこにこする。
「あたしに乗れるかしら」と、れーみぃは
ぶるぶる震える、小さな250のエンジンを見て。
ゆらゆらと揺れる黒い、先細りのマフラーに
触れる。
「坊やのちんちんみたい」と、変なお嬢様(笑)
Naomiも、ちょっと恥ずかしそうに笑う。
RZ250のエンジンを停めて、いかにも
安いつくりのパイプで作られた
サイドスタンドを掛けるNaomi。
そのスタンドは、でも
足を掛けるところがプレスで作られていて
安いながらも心のこもった設計だ。
お金を掛けない部品でも、工夫で
使い易くする考え。
今なら、そういう工夫より
値段を下げる方がいい、と
誰しも考えるだろうけれど
1978年は、まだ
値段でオートバイの価値を決めるひとは
少なかったから
わざわざ加工の手間を掛けて、見栄えの
しない黒いスタンドを作ったYAMAHA。
それは、2サイクルバイクが好きだから、
そういう気持ちだけで作られたものだから
気持ちがわかるひとが、オートバイを買う。
お金は別にして、その気持ちに共鳴するのだろう。
今もなお、RZは名車と言われているけれど
機械に、神様が宿っていると言ってもいいと思う。
なので、長い時を経ても
愛されている。
それも、愛、である。
「れーみぃ、さぁ。欲求不満なの?」笑顔で
Naomiは暖かく。
「なぁんで?」れーみぃは、笑顔で。
「変な事ばかり言うんだもの」と、Naomiは
バイクを下りて、れーみぃの隣に寄って
手の平で、れーみぃの胸に触れた。
「いやっ!」と、れーみぃは
両腕で庇い、でも「うん、Naomiならいいかも、女の子同士も」と、ふざける。
「何言ってんの」と、Naomiは
長い髪を右手で払い「なんか、抱えてんのかな?」と、れーみぃを優しく見る。
れーみぃは小柄だから、すらりと長身のNaomiを見上げ
「ん、なんかなー。よくわかんないんだ。
なにかしてみたいんだけど、なにしていいか。」
それで、変な事言うと
みんな笑ってくれるから、気が紛れるって言うか、と
れーみぃは、複雑な気持ちを打ち明けた。
れーみぃの気持ちの、本当のところは
ふつうの家に生まれ育ったNaomiには
わからないところもあるかもしれない。
英国は昔、世界に植民地を持っていたから
アジアンなれーみぃのような、この北欧で
異端に見える成功者の子女、は
それなりに育てられ方にも厳格なものが
あったりもして。
自由にしたい、と言う気持ちも
強いのだろう。
「でもねーぇ?エッチな事したーいってさぁ。
したことあるの?」と、Naomiはわかりきった事を聞く(笑)。
「Naomiだって」と、れーみぃも笑う。
そうよ、と、Naomiは再びRZ250のキーを捻り、キックを下ろした。
暖まったエンジンは、ぱらぱら、と
軽やかな音を立てる。
アクセルを大きく捻ると、軽い音を立てて
エンジンは震えながら回転を上げる。
「いいでしょ?走ろうよ」と、Naomiは
れーみぃを誘う。
エッチよりいいかもよ、と
経験がないだけに、Naomiも普通にその単語を
女の子同士なら言葉にできる(笑)。
実感があると、そうは言えない(笑)。
180度クランクの2ストロークエンジン。
細かい振動が多いので、エンジンを
柔らかくマウントし
アクセルを吹かした時だけきっちりと
支えられるように工夫してあるのは
オーソゴナル・マウントと言う考案だが
その為に、マフラーが前後に揺れるので
初期のRZ250はマフラー割れが多く発生した。
(当時、クレーム返品のマフラーがYAMAHA本社には山になっていました。元社員、筆者(笑)
それでも、変わった機構のオートバイを
自身を持って作るのは
YAMAHAらしい主張、2サイクルのバイクを
愛すれど故の事。
機械にだって愛はあるのだ。
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