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201・ジャイアントスイング
しおりを挟む「全て吹き飛べッ!! 筋肉魔法ジャイアントスイング!!」
「や、やめろ、手を離すな!? アアッ、兄弟ゥーーーーーー!!」
三半規管が悲鳴を上げる鋭い回転の中、縋る様に握っていた手を呆気なく離されたヘイズ。
縦横逆転した世界を横へ向かって落下するかの様に暫く浮遊した後に落葉の海の端へと豪快に突っ込んで行った。
「ペッ、ペッ、おいッ兄弟!!」
突っ込んだ勢いのままゴロゴロと後転しながら枯葉から出てきたヘイズは、ヨタヨタとふらつきながらも怒気を孕んだ声を上げる。着地点に溜まっていた枯葉が落下の衝撃を上手く逃してくれたから良かったものの、通常なら大怪我確実である。ヘイズが怒るのも無理は無い。
未だゆっくりと回り続ける視界の先では、真っ青な顔で膝を付いた大男が盛大に餌付いていた。木にしがみ付いたシェリーは呆れた表情でそれを見ている。
(投げた本人のがダメージあんのかよ……)
オエオエと地面に突っ伏しながら「大丈夫」と弱々しく片手を上げるその姿にすっかり毒気を抜かれたヘイズは、両手で強くパンパンっと自分の頬を叩き、犬の様に身体を大きく震わせる事で回る視界をリセットする。
そうしてハラハラと自身から落ちる大量の枯葉を鬱陶しく払い除けながら、改めて周りを見渡した。
(この先は……さっきの川で間違いねぇな)
運よく飛ばされた先は先程ヘイズが通ってきた道に近い。このまま川へと向かい上流を辿ればきっとガウルが居る巣へと着く筈だ。しかも幸いな事に救出にあたるに唯一問題であった魔獣人は今ここに…………。
「ーーそういやアイツっ、何処にっ!」
あの近辺の枯葉は全て吹き飛ばされ視界は良好だ。しかし先程まで木に体当たりを繰り返していた魔獣人の姿が見当たらない。
(ビビって隠れやがったか?)
ヘイズの身体を武器ーーいや、道具の様に扱い、大量の枯葉をあっという間に一掃したあの魔法(?)は、恐らく魔獣人の巨体すら跳ね飛ばす勢いがあった。尤もその時はヘイズの身体も無事では無かったろうが……。
ヘイズが探しているのが見て分かったのか、木の上ではシェリーが首を横に振っている。あの位置からも見えないとするとやはり枯葉の中へと身を隠したか、もしくはーー。
(まさか……まさか、巣に逃げ帰ったとか無ぇよな!?)
旗色悪いと見て逃げ出したなら兎も角、巣に戻られたりすれば折角のガウルを救出するチャンスが無くなってしまう。
「兄弟! 俺は直ぐにガウルのーー」
その言葉が終わらぬうちに、目の前の落葉の山が突然弾けた!
「グルォァア!!」
咆哮と共に飛び出す魔獣人の長い爪がヘイズを襲う!
「ーーうぉッ!?」
突然の出来事に泡食って仰け反ったのが功を奏したのか、鋭い爪先はヘイズの頬を掠るに留まった。
「糞ッ、こっちかよ!」
振り下ろされた爪が地面を削って再び跳ね上がる、ヘイズは怯む事無く魔獣人の横っ腹へと組み付いた。相手の身体が大きな場合、思い切って距離を詰めた方が意外にも被弾が少ない事をヘイズは経験上知っていたのだ。
やや背後から腰下にしがみ付く形になったヘイズを何とか引き剥がそうと、魔獣人は乱暴にその身体を捻り震わせる。しかし、ヘイズは両手で魔獣人の右脚をしっかりと抱え込みそれを許さない。
「こうなりゃ元同族と言えど構ってられねぇぞ! その腹ぁ、噛み千切ってやる!!」
最早この状態で魔獣人とは戦い辛いなど生温い事は言ってられない。こっちは既に身内がやられているのだ。
(生半可な覚悟じゃこっちがやべぇ、情けと迷いは今は棄てる!)
ーー勝てる勝てないの問題では無く、覚悟の問題。
相手が魔獣人であっても殺す覚悟、それが例えシェリーの弟だったとしても……。
吹っ切れたヘイズは目の前にある魔獣人の無防備な脇腹へ噛み付いてやろうと、その鋭い牙を剥き出し吠えた。
「ガアァッ!!」
ーー途端、カッと開いたヘイズの口が魔獣人から弾かれる。そのまま見えないナニカに突き飛ばされる様にヘイズの体が魔獣人から離れた。
「ーー糞ッ!!」
身体を捻りながら地面スレスレをうつ伏せに着地したヘイズは、尚も吹き荒れる突風に飛ばされぬ様に身体を低くして地面に爪を突き立てる。
全てを拒むかの様に魔獣人の身体から吹き荒れる突風、その呼吸もままならない風量にヘイズは地面に突っ伏したまま動く事が出来ない。
「厄介な風の使い方しやがる!」
身体が押し返される程の強風を只々地面に這いつくばって耐えるヘイズを見て、魔獣人はまるで勝ち誇るかの様に口を歪ませる。
そして喉を一つ鳴らすと、ヘイズに狙いを付ける様に前傾姿勢を取ったーー頭を低く、お尻を上げる猫科特有のあの狩りの体勢である。足場を固める様に足踏み鳴らし、お尻がフリフリと揺れるその仕草は猫なら可愛いくも見えようが、この形では単に恐怖でしかない。
手も足も出ない獲物を前にして、一気に飛び掛からんと魔獣人は両脚に力を入れる。
「ほら、お・す・わ・りっ!」
ーーバシーンッ!
「グエァッ!?」
意気揚々と高く上げられた腰が重い衝撃に潰される。いつの間にか接近していた男に腰を叩かれ、そのまま無理やり地面へと押さえ付けられたのだ。
片手を振り下ろしただけとは思えないその息の止まる様な衝撃は、魔獣人の背骨を突き抜けて下腹部にまで達した。驚きと痛みに動けなくなった魔獣人、強制的に地面へと押し潰されたその姿は、まるでヘイズに向かって五体投地でもしてるかの様だった。
「よしよし、偉いぞ。でもそれは『お座り』じゃなくて『伏せ』だけどな」
「…………兄弟風は? ……いや、片手で??」
ヨロヨロと起き上がったヘイズは、魔獣人を片手で押さえ付けている大男を見て声を震わせるのだった。
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