筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

文字の大きさ
上 下
190 / 286

190・召喚魔法

しおりを挟む

「俺は召喚魔法士だったのか……」

 火照ったてのひらと炎の奥に鎮座する獣を交互に見比べるーー異世界に来て初めて発動した魔法が生活魔法飛び越しての召喚魔法とは……興奮で胸が高鳴る。

(……悪くない、悪くないぞ、寧ろ格好良い!)
 
 多彩な魔法の才能を持つエリート達が集う第三騎士団の中でも召喚魔法士だと言う者を聞いた事が無かった。それどころか調教士テイマーなんて職業も一切話題には上がった事が無いーーつまりこれはきっとレア魔法だ。

 そもそも、獣人がいる世界でそれに近い種の召喚や調教が可能ならば、とっくに改良されて獣人を奴隷化する魔法が生まれてたっておかしくない。しかしそんな話は聞いた事が無いし、仮にそんな魔法があるならば人族ヒューマンと獣人の戦争など起こってはいないだろう。

 つまり、この世界には動物や魔物を使役する魔法自体が無い可能性が有る。そうだなーー寧ろ無いからこそ、誰も俺の召喚魔法士としての才能や可能性を考えつかなかったんじゃないだろうか。

 もしかしたら俺は、この世界での初の召喚魔法士かもしれない。と言う事はこの魔法、レアどころかURウルトラレアも有り得るな!

 くだんの召喚獣と言えば頭を低くして怯えた様にずっと唸っている。
 まぁ初めて召喚されたのだから戸惑うのも仕方ないけれど、いつまでも召喚主である俺への警戒心を解こうとはしないのは何故だろう? 

「おかしいな? 俺は動物からは割と好かれるタイプなのに……そうか! これは主人公と召喚獣が初めて契約を結ぶシーンだ!」

 きっと召喚した後に契約をしなければならないんだ。「君に決めた!」と宣言するのか、血でも飲ますのかーー手順が分からないが、先ずは触れ合いだろう、取り敢えず近付いてみるか。

「うーん、今日は天気が良くないなぁー」(棒)

 そっと立ち上がり、まるでそちらに興味の無いかの様に振る舞いながらゆっくりと足を進める。この際、成るべく相手の目を見ないのがポイントだ。動物界の中では、目を合わせることが敵意のあらわれであると考えられているらしいからな。
 軽く目を合わせただけで敵意って、田舎でイキがる不良ヤンキーみたいだな。いや、この場合は不良ヤンキーが動物的だと言うべきか。

「グォォオオ」

 俺がこれだけ気を遣っているってのに、近付いて行くに連れ召喚獣の唸り声は大きくなって行く。
 もしかしたら「我を従えたくば、汝の力を示せ!」みたいな、一度屈服させなきゃ眷属しないタイプかもしれない。その時はボディに一発良いのを入れてやろうーー左フックだ。

(意思疎通が出来る気がしないけど、大丈夫かな?)

 チラリと見た召喚獣の目はなんだかうつろだ。犬でも猫でも目を見れば何となく喜怒哀楽が読めるものだが、コイツは何だろう……全く感情が読めない。魚類ーーそう、まるで深海に住むサメみたいに表情の無い目だ。

「まぁ、見た目はあまり良くないけど、初めての召喚獣だと思えばその内可愛く見えて……ん? お前、一体何を抱えてーー」

 良く見ると召喚獣は何かを俺から隠す様に抱えこんでいるーー身をよじる召喚獣の腕に潰され、それは小さな呻き声を漏らした。

「う…うぅ……」
「グゥ、グオガァァアア!!」
 
 その声を掻き消す様に召喚獣が突然大きく吠えた。ビリビリと辺りが震える程の咆哮に思わず両手で耳を塞ぐ。その声が洞窟内まで届いたのだろう、ヘイズが槍を片手に血相を変え飛び出してきた。

「どうした兄弟ブロウ!」
「グオッ! ーーグガウッ? 」

 その声に驚いたのか、召喚獣は素早く洞窟へと向きを変え飛び掛かろうと構えるが、ヘイズの持つ槍に怯んだのか一瞬動きを止める。そして次の瞬間、まるでゴリラみたいに片手を地面に付きながら俺の横を駆け抜けて奥の森へと猛然と走り去って行った。

「えっ、おい! 何処に行くんだ俺の召喚獣!?」

 咄嗟に追いかけようとした俺に慌ててヘイズが声を掛け止める。

「駄目だ兄弟ブロウ、深追いは不味い!」
「あ~…………別に取ったりしないのに」

 きっと召喚獣が大事そうに抱えていたのは獲物か何かだったのだろう。俺に取られるとでも思ったのだろうか? 少し前の俺なら兎も角、これから兎肉食べ放題が確定している今、横取りなんて下品な事はしないのに。

 召喚獣が去った森へと名残惜しそうに手を伸ばす俺に向かって、ヘイズは額に滲む汗を払いながら驚きの声を上げる。

「ありゃあ魔獣人マレフィクスだ。まさか本当に出るとは……」
「……えっ? いやいや、魔獣人マレフィクスって、あれは俺が召喚した召喚獣さ」
兄弟ブロウが? 召喚??」
「ちょっと見てて、今もう一度呼んでみるからーー出でよ、俺の召喚獣!」

 俺は先程と同じ様に両手をかざして何度も呼吸方を試すが……再び召喚獣が現れる事は無かった。

「…………召喚に……応じない……か。うん、成る程、やっぱりね。つまりあれは、確かに魔獣人マレフィクスだったって事だ……間違いない」

 バツの悪くなった俺はそれっぽい事を呟きながら、腕を組んで大きく頷いた。

「?? あ、ああーーそうだよな。それにしても流石兄弟ブロウだ、あっさり追っ払っちまうんだからよ」

 よし、上手く誤魔化せた様だ。召喚魔法とか夢見ちゃった自分が恥ずかしい。
 それにしても、俺が召喚したんじゃ無いなら単純にアイツが崖上から飛んで来たって事か? 絶妙なタイミングで現れやがって、紛らわしい!

「おい、何だよ今の咆哮は?」

 恐る恐る洞窟の入り口から顔を覗かせるシェリーは鼻をひくつかせて怪訝な顔をする。

「ーーうっぷ、凄ぇ獣臭だな! それに血の匂い? 熊でも出たのかよ、でも……何だか嗅ぎ慣れた臭いも混じってる様な……」
「あん? 言われてみりゃ確かにーー」

 ヘイズは召喚獣……もとい、魔獣人マレフィクスが居た辺りの臭いを丁寧に嗅ぎ分けてゆく。

 鼻が良いならもっとパッと分かりそうな気もするのだが、俺には感じられない色々な匂いが複雑に絡み合っているので紐解くにはある程度の時間は必要との事。

 視覚的感覚で例えるなら、それこそ俺の得意である「大勢の中からウォーリーを探す」みたいな単純なものでは無く、何度も重ね塗りされた油絵の元の色味を探ぐる様なーー割と繊細で大変な作業らしい。

「犬が鼻が付くんじゃないかってくらい至近距離でオシッコの匂いを嗅ぐのはそう言う訳があったのか!」
「……アンタ、嫌な例え方すんのな」
「シェリーは嗅がないのか?」
「はぁ!? 嗅ぐわけねぇし! ばっかじゃねーの!」

 しまった、「ヘイズ一人で臭いの調査やらせて良いのか?」って意味だったんだけど……言い方間違えたな。

 顔を赤らめたシェリーが憤慨している中、ヘイズは何度も何度も確かめる様に地面の臭いを嗅いでいたのだが、急に「ーー信じられない」とガックリと項垂れて、呻く様に天を仰いだ。

「……嘘だろ? この臭いは……ガウル……だ……」
「あんの馬鹿っ!! きっとアタイ達の跡を付けて来たんだ!」
「ーーえっ? じゃあ、さっきアイツが抱えてたのって……ガウルだったの!?」

 魔獣人マレフィクスが大事そうに抱え去って行ったのは、此処に居る筈の無い狼獣人ガウルだった。

  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...