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133・光魔法士
しおりを挟むザービアは転がる様に階段を駆け降り、乱暴に扉を開けると外へと飛び出した。
ーーバーンッ!
「ーーお嬢ッ!」
ーードンッ
「うおっ!?」
ところが扉から飛び出した直後ーー硬いゴムの様な感触に大きく弾き飛ばされ、思わず尻餅を着いてしまった。
「な……だ、誰だお前達は! お嬢はどこだ!」
見上げた目線の先には、大きくガッシリとした身体の大男とその肩から迫り出す様に身を乗り出す線の細い眼鏡男が立っていた。
可憐で華奢なイリスとはかけ離れたむさ苦しい男達に意表をつかれ一瞬唖然としたザービアだが、直ぐに警戒心を顕に声を荒らげた。
「ヒヒヒ」
「腕がなるねェ……」
逆光の所為で顔は全く分からないが、敵であるのは間違い無いようだ。その証拠に大男は威嚇する様にバンバンと両手を打ち鳴らしている。
「面白い、どこの分隊か分からんがここまで来れたのは褒めてやる! だがたった二人でこの俺を倒せると思うなよ!」
魔力を練りながらゆっくりと立ち上がると大男を睨み付けるーー意外にも思えるが、イリス分隊の中で一番火力があるのがこの光魔法士ザービアだ。
光魔法は浄化やバリアなどの補助的な使い方が一般的と誤解される事も多いが、強力な攻撃魔法も多々存在する。
光の矢などは、消費魔力に比べ殺傷能力が非常に高く、実体が無い為に風などの妨害を受けずに放つ事が出来るし、ホーリーレイなどレーザーの様に一気に敵を薙ぎ払う魔法もある。
(所詮、名前も知らない下位分隊だーー秒殺して、お嬢の安否を確かめに行かねば!)
長身で肩幅のあるザービアは王国では珍しいガッチリ体型だ。そんな彼は鋭い目と無愛想な表情の所為もあり、威圧感が半端無いと良く周りから怖がられたものだ。
そんな自分の威圧的な風貌を悩んだザービアは、常に肩を窄め、端の方で小さくなっていた。
「ーー怖いかって? いいじゃない、寧ろ頼もしいわよ? ザービアになら安心して背中を預けられる気がするもの」
イリスと同じ分隊になった時に聞いた言葉、この言葉がザービアを変えた。
「そ、そうか? それなら、背後は俺に任せておけばいい」
前向きになったザービアは自分の力を遺憾無く発揮。今や上位分隊の一員として皆に一目置かれる様になり、コンプレックスだった自身の風貌を誇りを持つまでになった。
「お嬢に任されたこの拠点、簡単に奪えると思うなよ!」
しっかりと立ち上がり大きく構えたザービアーーしかし、改めて目の前に対峙する大男を見ると……先程まで誇りに思っていた筈の自分の身体が急に脆弱で貧相に見えてきた……。
(……デカい、何だコイツはーー)
この大男に比べれば、自分など他者と大差無い普通の体格なのでは? と、急に恥ずかしく思えてきて仕方がない……其れ程までに大男とザービアの体格には歴然の差があった。
自分より巨大な物に恐怖心を抱くのは本能である。しかし、魔法という不思議な力があるこの世界では必ずしも《大きい=強い》では無い!
「悪いが時間が勿体無い、加減はしないからなーー神罰!」
詠唱と共に雲を突き抜け斜めに落ちる光の槍、それは大男の無防備な胸を直撃したーー筈だった。
「…………どうやって俺の魔法を打ち消した?」
平然とその場に立ち続ける大男、ザービアは自身の魔法が男に当たる直前に陽炎の様に掻き消えたのを見た。
(何だ今のは? 俺の魔法が消えた……偶然か? もしや、お嬢の事で気が動転して魔力制御を誤ったか?)
「ーーいや、次こそ最後だ! 偶然は二度も続かない」
イリス分隊最強の魔法を扱う自分が下位の名も知らぬ奴に負ける訳が無い。再び魔法を放とうとザービアは詠唱を始めるーー。
「お前、もしかしてまだーー自分がやられないとでも思ってるんじゃないか?」
ーーそんなザービアに、大男はそう鼻で笑って数歩前に出た。
◇
イリス分隊の様な上位の分隊ともなると、国境沿いの害獣駆除などの応援要員として正騎士に連れていかれる事もある。
やる事は仕掛けた罠へと害獣を追い込む為に大声を出したり、駆除した後片付けなどの比較的危険の無い任務ではあるがーー時には運悪く大型害獣と相対する事もある。
ザービアも過去に、体長3mもあろうかと思われる赤熊にバッタリ出くわし、同行する正騎士の後ろで光の矢を放つ援護射撃を経験していた。
単純に大きさだけで言えば大男より赤熊の方が大きい。
(……あの時に比べれば大した事じゃない、しかし、この男から赤熊に匹敵する程の圧力を感じるのは何故だ?)
ゆっくりと距離を詰める大男の威圧感ーーザービアの頬に一筋の滴が流れ、いつの間にか強く握っていた手には汗が塗れていた。
(この俺が……恐れを抱くだと?)
思わず見た汗ばむ両手は微かに震えてさえいた。
「よし、80%から行くか!!」
「……何をーーハッ!?」
一瞬だった、目を逸らし両手を見たその瞬間、大男はガバッと両手を広げ此方に向かって駆けて来た!
慌てて回避行動を取ろうとするがーー
「に、逃げ場がーー無いッ!?」
魔法を主体とした戦闘経験しか無いザービアにとって突進してくる敵との遭遇は初めてだ。
両手を広げる事で横への逃げ道を塞がれてしまっては出来る事などそう多くは無い。
「来るならーー来いっ!」
両腕を顔の前でガッチリと交差し必死にガードする。向かってくるのは攻撃魔法では無い、所詮は人だ。
(デカいがーーそれだけだ! 受け止めて、光の矢を近距離から叩き込んでやる!)
ーーズガンッ!!
腹部への凄ざましい衝撃と共に、一気に後に倒される!
「ガフッ!!」
(何だっ、この衝撃は……受け止められない!?)
受け身をまともに取れないザービアはそのまま後頭部を地面に強く打ち付けた。
「お、お嬢……すみま……せん……」
頭部を守る兜が無ければ頭は確実に割れていたであろう、それ程の衝撃にザービアの意識は次第に薄れていった。
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