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99・二次関数

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 ーー巧遅拙速こうちせっそく! 

 俺がよだれ地帯を三歩で飛び抜けナルから人形を奪うのを見るや否や、ヨイチョは直ぐに水球ウォーターボールを解除する。

 ナルはまるで操り人形の糸が切れる様にその場にガクンと膝から崩れ落ちた。

 「ナルっ! 聞こえるかい? 僕だ、ヨイチョだよ!」

 急ぎ駆けつけたヨイチョはナルを起こすと背中を摩り水を吐き出させる。

「ーーげぼっごほっ…………うぅ……」

 俺の迅速な行動が功を奏したのか、ナルは肺に少し水が入った程度で済んだ様だ。

(きっと幅跳びじゃ届かなかった……流石三段跳び、学生時代に授業で習っておいて良かった……)

 あの頃は「こんな変な飛び方、将来何に使えるんだよ! 陸上選手になる訳でも無いのにっ!」と辟易していたが……全く、世の中何が役に立つか分からないものである。

 例えば、俺の苦手だった数学の「二次関数」ーー俺の人生には一切必要なさげなものであったが……実は魔法を撃つ時の演算に必要なスキルだと判明した。

 カイルが俺に魔法の説明していた時に書いた図が、二次関数のグラフそのものだった時は驚いたものだ。
 二次関数のグラフは放物線を現している。つまり空中を動くものには常にこの放物線の理論が当てはまるらしいーー放出系の魔法然りだ。
 そういえば、大砲の砲弾の動きを計算する際に、この二次関数が研究されたとか数学の先生が言ってたような……。

 兎に角、「こんなチャラい奴が二次関数をサラッと出来るとか腹立つわー」と軽く殺意が芽生えたのと共に、魔法の勉強が俺の想像していたものよりも現実的リアルだった事にガッカリしたのを覚えてるーーもっとファンタジー的なノリだと思ってたのに……。

 まぁつまり、どんな事でも学べる時に学んでおいた方が良いって事だ。
 将来何が必要になるかは、その時になってみなきゃ分からないのだからーー。



 さて、人形マペットは倒したが、まだナルの意識はハッキリしないーーまぁ、あれだけの魔力を消費したのだ、魔力枯渇症状が出て意識が混濁していてもおかしくない……あと、寸前まで溺れてたしな、元気な方がおかしい。

 ヨイチョは洗脳が解けてないのではと酷く心配している様だが、もし解けて無かったとしても大丈夫! 
 俺の頭の中には既に「ナル洗脳解除トレーニングメニュー」が構築されているーー何も心配は要らない。

「ヨイチョ! 取り敢えず集落を出よう、外にはジョルク達も居る。合流してなるべく速くナルをヘルムの所へ連れて行こうーーそれに」

 俺は先程と変わらない光を放つ雷球が浮かぶ空を見上げて言った。

「ナルの魔法が消えない……落ちて来る前に遠くに避難した方が良い気がする……」




 先程ナルを追いかけて学校の敷地程の広さがあるこの村内を走り回ったのだが、集落にしては人の気配が極端に少なかった。押し入った民家の殆どがもぬけの殻で生活感は皆無だったしーー恐らく、ここにはもう先程見た少数のパカレー兵くらいしか居ないのであろう。
 以前の住人がどうなったかのかは考えるまでも無いーー。

 そして、その少数のパカレー兵達は今、ジョルク達が居る集落正門付近を堅めている筈だ!

「正門じゃなく裏門を探してみよう、何処かにあると思うんだーー」

 ーーヨイチョの提案で俺達は正門と反対側、倉庫に程近い壁を隈無く捜索したが裏門らしき物は見当たらなかった。辺鄙な場所にある集落だ、守る門を一つに絞る事で利便性よりも高い警備力を求めたのかも知れない。

「ご、ごめんーーまさか裏門が無いなんて……急いで正門の方へ戻ろう!」
「いや、どうせ正門はパカレー兵だらけで抜ける事は難しいと思うーー大丈夫だ、今からそこの壁を壊すから少し下がっててくれ」

「ーー壁を……壊す? 待って! ここの壁は何重にも防御魔法が付与されていて簡単にはーー」

 俺は背負っていたナルをゴチャゴチャ言ってるヨイチョへ預けると壁に向かって思い切り蹴りを入れる。

「ふんっ!!」

ーードカッツ バキバキッ!!

 何重にも付与された防御魔法? 俺に取ってはただの板切れだ、踏み抜くのは雑作もない。
 両手で壁の隙間を広げながら集落の外へ出ると俺は素早く辺りを見回し見張りの兵が居ないかを確認する。

「良いぞ! ヨイチョ、周りに人は居ない!」
 
 集落の裏側には開拓途中だったのか、所々伐採された大木があちこちに積まれ、そのまま放置されていた。
 人の手が入らぬまま数ヶ月は経過しているのか、倒木の表面には苔やキノコが生い茂り、耕した畑らしき場所も雑草だらけだーーそんな荒れた耕地の少し先には深い森が広がっている。

「おっ、あの森の中を移動すればパカレー兵に見つからずに正門辺りまで行けるな」

 小柄なナルを背負った移動など俺にしてみれば大した負荷では無いのだが、バーベルと違って乱暴には扱えない分どうしたって移動速度は落ちる。
 勿論、俺はバーベルだって普段は乱暴には扱わないけどね!

「……何でこんな簡単に壁を壊せるのか謎なんだけどーー」

 ナルを背負いヨロヨロと壁の隙間から出てきたヨイチョが壁の穴を眺めながら呆れた様に呟いた。

「そりゃあ、俺が魔法無効レジスト持ちだからさ」

「……君の中の常識がどうなってるか分からないけれどーー例え防御魔法が付与されていなくても、壁を蹴り壊す事なんて普通は出来ないからね?」

 
 
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