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71・貴族主義

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 俺は物語ラノベなどに出てくる貴族と違い、ギュスタン達がまだ若いながら立派な志を持っている事に驚いた。

「はー、貴族様ってのは皆様あんな感じなのか?」

 感心した俺は同じく貴族のヘルムをちょっと尊敬の眼差しで見つめる。

「誤解の無い様言っときますが……あんな事言ってるのは貴族主義者だけですからね?」

 先の大戦から十数年、魔道具アーティファクトで結界を張る事により国同士の争いが無くなり争いは激減、少々平和ボケした今、ノブレス・オブリージュを掲げるのは貴族主義者くらいだと言う。

「そうなのか? ヘルムは違うのか……ふ~ん」
「はぁ~、全然分かってませんね? 確かに彼等は耳障りの良い事を謳ってますが…本来は平民の戦力を削ぐのが目的なんですよ?」

 力の無い民を貴族が守る、それは言い換えれば「貴族が守るのだから民には力は必要無いよね?」って事だ。

 「貴族主義」は平民が攻撃魔法を学ぶ事を推奨していない、寧ろ攻撃魔法は貴族のみが学ぶべきだと主張している。

 この世界は俺の様に魔力が沢山有るだけでは魔法は使えない。使用する魔法の本質を知る事でそのイメージを固める必要があるーーつまり魔法の勉強が必要なのだ。その学ぶ場を平民から取り上げようと言うのが貴族主義と言う訳だ。

「国同士の争いが無くなった今、貴族達が恐れるのは民の反乱ですからね。力さえ奪ってしまえば例え悪政だろうと従うしか無くなります。まぁ三男で領地を統治する事の無いギュスタン達はそんな事まで考えて無いのでしょうが……」
「え~、じゃあ貴族主義者はやっぱり悪い奴なのか? う~ん、分からん!」

「良い悪いは立場によりますからねーー平民は守られる利点があるし、我々貴族としては民が反乱する事を憂慮する事が無くなるだけで、兵力も財源もかなりの削減が見込めます」
「ヘルムは貴族なのに何で貴族主義じゃないんだ?」

「前に言ったでしょう、私は実力主義なんですよ。折角の人材が埋もれたままなんて勿体無い」

 全ての貴族が「貴族主義」を掲げてる訳では無い、全体を通して見れば少ないくらいだ。

 それは、ヘルムの言う様に優れた人材が埋もれてしまう事や、悪政がまかり通り貴族の腐敗が進む事を危惧しているからーーと言う建前もあるが、実は他の貴族の力が強くなるのを危惧しているからと言うのが本音だ。

 国外からの脅威が無くなった現在、貴族達はこぞって自分の領地、地位、利益を上げる事に躍起となっている。優れた人材の発掘や魔法士の教育は領地発展の為には必須である。
 しかし、「貴族主義」が掲げる政策が実現してしまうと一部の貴族だけが巨大な力を持つ事になってしまう。
 
 一部の貴族、それは元々大きな力を持つ四大辺境伯達である。

 貴族のみに攻撃魔法が使える様になれば、単純に貴族の数が多い方が強くなる。そうなれば、力の弱い貴族達は付き従う貴族の数が多い四大辺境伯達の言いなりになるしか無いのである。
 つまり貴族主義者の多くは4大辺境伯に連なる物達なのである。

「現に貴族主義者が多い第一騎士団の団長であるアース団長の実家は四大辺境伯が一つ、ランカスター家ですからね」

 うーん、じゃあ自分の力で成り上がりたい平民にとっては、貴族主義はあまり良い感じでは無いって事か。
 



 その後の話し合いの結果、ギュスタンとジョルク、そして俺がナルの奪還に向かう事になった。

 ジョルクは平民だが、そもそも彼の索敵が無いとナルの居場所が分からない。ギュスタンもこれには渋々了承した。
 そしてギュスタン以外の貴族、サイラスは腕が付いたばかりで戦闘どころでは無いし、ミードとアルバは先程の戦闘での負傷、その傷をマルベルドとヘルムが治療中である。

 流石にギュスタンとジョルクでは不安があるので俺も同行する事になったのだ。ギュスタンは俺に一度負けているせいか特に文句は言わなかった。

「じゃあ、もう切ってもいいのか? なぁ?」
「ふんっ無論だ、早くやれ」

 早速、腕を切り落とそうとするジョルク。いくら回復魔法があるからって躊躇いとか無いもんかね?

「待て待て! 腕切ったら魔法使えなくなるんじゃないの?」
「案ずるな、忘れたか? 俺は両手で魔法を撃つ事が出来るのだぞ。片手有れば十分だ」

「いやいやーーそうじゃ無くてさ、その腕輪自体を壊せばいいんじゃん?」
「ふんっ、そんなに簡単に壊れるものか! 元々は犯罪者を束縛する為の物だぞ、馬鹿者」

 腕輪に付与された防御魔法の効果はかなり高いらしく、通常の魔法では壊す事はおろか傷すら付かないと言う。

「へー、見た目はそんなにゴツく無いのになぁ、どれどれーーふんッ!!」

 俺は試しにジョルクの腕輪を両手で掴むと雑巾を絞る要領で捻りあげる。

ーーバキンッ!!

「あっ……」

 腕輪は物の見事に真っ二つに割れた、というか砕けた。ーー俺、大した力入れてないぞ??

「ーーす、スッゲエ!? やっぱ兄貴は英雄だぜ なぁ!」

「……お、おい、あの男ーーほ、本当に人…なのか?」
 アルバは信じられないと自分の腕輪を引っ張ったり叩いたりして確かめている。

「同じ腕輪だよな……一体どうやって??」
「クック、実質あの男を拘束する事は不可能と言う事か、犯罪し放題だな」

 もしかしたら、腕輪に付与された防御魔法より俺の魔法無効レジストの方が上だったとか?
 詳しい事は分からないが、とりあえず驚き固まっているギュスタンの腕輪も壊す。よし、これでギュスタンも両手が使える万端の状態でナルを助けに行けるな!

 皆が一様に驚き呆れる中、椅子に座るサイラスだけが物凄いジト目で俺を睨んでいる。

「……チッ、この化け物めッ! いとも簡単に腕輪を壊すとはーー腕を切断してまで外した俺が馬鹿みたいだろうがッ!」


 ーーえぇっ? めっちゃ怒られてるんだが……それ俺が悪いの??

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