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65・やられる前に
しおりを挟む苦戦しているミード達の戦闘を丘から見ている者が居た、ヨイチョだ。
最初ヘルムに助けを求めて川沿いへと向かったヨイチョだったが、そこでまさかの光景を目にしてしまう。
「まさか……こっちにも襲撃者が居たなんて…」
辿り着いた川辺でヨイチョが見た物は、跳ね上がる地面に押し潰されるヘルム達の姿だった。
実際はサイラスの収納魔法によってヘルム達は難を逃れているのだが、側から見れば無残に潰された様にしか見えない。
「た、助けなきゃ!!でも一人じゃどうしようも無い、…ナル、そうだ、ナルは何処に!?」
あの時、確かナルはヘルムの指示で雷魔法を落としに行った筈だ。雷が人に落ち無い様にと丘の上へと向かったのは見た。
「まだ雷は鳴ってない…やっぱりナル一人じゃ無理だったのかも…」
あれから何度も雷魔法を使う機会はあったが、それはいずれも側にヨイチョが居る状況でだ。
今回は緊急事態の為、単独での魔法発動を命じたヘルムだったが…ナルの雷嫌いは根が深そうだ。
得体の知れない死霊魔法士の相手だけでは無く、埋まってしまったヘルム達の救助、それをやったであろう魔法士の対処とやらなくてはいけない事が山積みだ。
「落ち着け、一度にやろうとしちゃ駄目だ。一つずつ、優先順位を間違えない様にーー」
大きく息を吸うと肩の傷がズキンッと痛んだ。その痛みは血が流れ意識が朦朧となっていたヨイチョの頭を覚醒させる。
「今一番大事な事は団長達に知らせる事、その為には指輪だ!まずは…ナルを探さなきゃ!」
ジョルク達に知らせる為ナルに雷鳴で合図をさせる、これが最優先だ。ヘルムの救助を優先したい所だが襲撃者が居た場合、攻撃魔法の使えないヨイチョには対処のしようがない。
痛めた肩を押さえながら何とか丘を登ると、そこには案の定魔法が撃てず地面にへたり込むナルが居た。
「ーーナルっ!ナル、皆んなが大変なんだ!」
「ヨイチョ?…ご、ごごめんだもん。やっぱり無理だーーヨイチョっ!?血がっ」
目に涙を浮かべ俯いていたナルの目がヨイチョの傷を見て大きく開く。
「これくらい大丈夫、それより速く魔法を!」
「う、うん」
戸惑いながらも詠唱を始めるナルの背後でヨイチョは丘下で繰り広げられる死霊魔法士とミード達の戦いを観察する。
そしてある事に気が付いた。
「ーーもしかして……ナルっ、あの男を狙うんだ!難しいかも知れないけど僕も居るから!」
「えぇっ!? わ、わわ分かったもん。でも、今日はもう三回目だから…当たっても威力はそんなに…」
「分かってる!それでも良いんだ。それにナルはそっちの方が撃ち易いだろう?」
ナルは誰に落ちるか分からない雷を敵味方が入り乱れる場所へ撃つ事が苦手だった。
それは魔法学園で「雷魔法は加減が難しい、撃つ時は一撃必殺だと思え!」と教わった所為である。ただでさえ制御が難しい魔法だ、もし味方に落ちたら…と考えるとナルは撃つ事をどうしても躊躇ってしまう。
しかし何度も「落とし穴作戦」で雷魔法を使用した結果、衰退の腕輪をした状態での雷魔法には部位欠損や即死など相手に深刻なダメージを与える事が無い事が判明した。そのおかげで腕輪をしていれば、ナルは雷魔法を撃つ事に前程の抵抗は無くなっていた。
意識を集中し複雑な詠唱を唱えるーー実戦で何度も使用した事で、よりイメージが固まった雷魔法は以前よりずっと雷雲を生成するのが速い!
「雷電!!」
ーーーズドォーン!!
一筋の光の束が死霊魔法士を撃ち抜くと同時に雷鳴が鳴り響いた!
「当たった!ナル凄いじゃないか! 直ぐに彼らに合流してあの死霊魔法士をどうにかしよう、予想通りならアイツはもう動けなくなってる筈だ」
「??…わ、わわ分かったんだもん!」
◇
ーーナルの雷魔法が落ちる少し前…。
「ーーまぁ全く違うと言えない所がお前さんの怖い所だな…こういう奴が何故か戦況を変えちまう事があるんだ。ってな事でーー遊びはマジで終わりだ」
男が小声で詠唱すると地面が黒く染まり蠢き出した、そしてそれは近くの鎧に取り憑く。その鎧にはみるみる棘が生え始める、ヨイチョの肩を貫いたあの黒い棘だ!
「や、ヤバいぞミード!?鎧がトゲトゲだらけになってしまった!」
「あれが飛んで来るのか…こうなったらーーやられる前にやるしかなさそうだな!」
これまで男の予想外の攻撃に防戦一方だったミードは賭けに出た。
ーーやられる前にやる!
シンプルな戦法だが実質防御が不可能となった今はこれに賭けるしかない。
一応、保険としてアルバには炎竜巻で迫る鎧を撃ち落として貰う。しかし、炎竜巻が何故効いたのか…今回も効くのかが不確定だ、あてには出来ない。
「おもしれぇ、俺の魔法がお前さん方に当たるのが速いか、お前さん方の魔法が俺に当たるのが速いか…良いねぇ、まるで決闘だな!」
男の言葉を皮切りに周囲は緊張感に包まれる。
ーー最速で魔法を撃ち込む!
狙うは男の腕だ、両手を凍らせ魔法の発動さえ封じてしまえば二人掛で男を取り押さえる事が出来る筈だ。
「氷柱ッ!!」
「はっはっ、遅いな?」
ミードが放った渾身の氷柱は男の前に突如現れた黒い壁に遮られた。
「ここで防御だと!?」
「ひ、卑怯だぞ!ま、魔法の速さ比べだろう?」
「そりゃお前さん方の勝手な思い違いだろ?そもそも魔道具頼りのお前さんにゃ負ける訳が無ぇよ。ーーさぁ こっちの番だな!」
男の魔力が高まるに連れ、付近の鎧がガタガタと揺れフワリと宙に浮く。
「さぁ潰れーー!?」
ーーーズドォーン!!
男の魔法が発動するまさにその時、雷鳴と共に一筋の光の束が男を撃ち抜いた! ナルの雷魔法だ!
「……な、何がーーだが俺は…死んでねぇ…ぞ」
驚くべき事に雷電の直撃を喰らいながらも、男は魔法の発動を止めなかった!
「……最後に…生き残ったヤツが…勝ちなんだ」
ーーー魔法は止まらない!
宙に浮いた鎧は一箇所に向かって今までに無い程の物凄い速さで集束してゆく!
ーーーガンッガガンッ!ドガンッ!ガンッ!
周囲に雷鳴に負けぬ程の衝撃音が響き渡った。
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