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61・覚悟の差

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 (アイツがあの魔法陣を設置した土魔法士か…)

 サイラスは「鰐の口」から脱出後、対岸から見えない場所に位置取って川を渡って来る者が居ないか監視を始めた。すると、予想通りえらく長身の男がフラフラと川を渡って来るのが見えた。

「アイツ何か…変だな?」

 サイラスは男の姿に違和感を持つ、何と言うか手足が異様に長く身体全体のバランスがおかしいのだ。身体の大きさと頭の大きさが合っていないせいで、大人用のコートを羽織った子供達が肩車して歩いている様な…妙な感じに見える。
 男は川を渡り終えると特に周りを警戒する事も無く真っ直ぐに罠が発動した瓦礫の山へと向かう。
 
(やはり確認に来たか…予想通りだな。一人なら不意を突けば俺一人でも拘束出来るかもしれん)

 近くの草むらに身を隠していたサイラスは、男の背後からソッと近づく。すると男が独り言をブツブツ言っているのが聞こえてきた。

「…でも確かにさっきのは凄く良かったよね!下半身を狙ったのが良かったのかな、素敵な声が聞けたもの!」
「タスケテ!ドウシテ!ユルシテ!」

 男は実に愉しげに、たった今観てきた喜劇の感想を語る様にーー嬉々として悦に浸る。

(素敵だと!?…あの惨状の事を言っているのか? あの地獄の様な光景の事を!!)

 人を殺すにはそれなりの理由があるものだと思っていた。そこには後悔が有ると思っていた、やむ得ぬ事情から手に掛けたと思いたかった。
 
 生きる為に仕方なく…
 獣と見間違えて…
 山賊だと思ったから…
 そっちが先に手を出したから…

 やった事は許せない、しかし何かしらここまでする理由が有ったのだとサイラスは思いたかった。

(だが違うーー愉しんでいる!コイツはただ自分が愉しむ為に人を…バクス達を殺したのか!)

 この瞬間、サイラスから男を拘束するという選択肢が消えた。

ーーコイツを生かしておいてはいけない…。

 怒りと悲しみと畏れがごちゃ混ぜになった様な感情が心の中を掻き乱す。気付けばサイラスは隠れるのを忘れ、男の背に向かって言葉をぶつけていた。

「アレはお前がやったのか……」

ーー明らかに悪手だ、完全なる失態だ。

 先程まで男は油断していた、しかしサイラスが声を掛けたせいで男に行動するチャンスが出来てしまった。それは攻撃か逃亡か…いずれにせよ、サイラスは男を拘束する絶好の機会を自ら逃したのだ…。
 ところが意外な事に男は逃げるどころかサイラスの問い掛けに反応した。

「何だい…君泣いてるの? あぁ分かった!きっと大事な人を亡くしちゃったんだね!」
「アノコカナ?ドノコカナ?ドッチモ?」

(~~~ッ!? お前がッ!それを言うのかッ!!)

 サイラスは亜空間から先程収納した土槍を一本解放する、指定場所は男の右足上部1Mの高さだ。

ーードスンッ!

「あ"ぁッ!」

 鋭く重い土槍は、重力によって男の右足を難なく貫いた。

「お前がッ!お前がやったのかっ!!」

ーードスンッ!

「ーーあがぁッ!」

 一度堰を切った怒りは止まらない、土槍は男の右足の甲に続き今度派右膝を砕いた!

「何だよお前!ーー何で、何でそこに居る? さっき僕が潰してやった筈だろう!」
「ナンデ!ドウシテ!シンデナイ!」

 そして遂にサイラスは無言で男の頭上に土槍を解放する、訓練では決して狙う事が無かった急所への攻撃。

ーーそれは男の生命を奪う一撃だ。
       
 、実に単純な魔法。

 複雑な計算が必要とされる攻撃魔法と違い、生活魔法に分類される収納魔法は単純な魔法構築な為詠唱の必要は無い。そして、無詠唱の魔法は攻撃のタイミングが分かりづらい為対処が難しい。

ーーードスンッ!!

 それでも男が咄嗟の機転で土槍を躱せたのは、戦闘経験の差か、もしくは覚悟の差か。

「はぁ、土槍が…凄く重かったよ!こうでもしなきゃ頭を潰されてた!」
「オモイ?アブナイ!シカタナイ!」

 まだ経験の無いサイラスは無意識にその必殺の一撃を、人を殺す事をためらってしまった…。
 その僅かな時間で男はなんと自分の右足を躊躇なく切断し、その場から後に倒れる事で土槍が頭に落ちるのを退避したのだ!

「あ~ぁ、いきなり酷いことするねお前。あのパーツ右足はお気に入りだったのに!」
「ヒドイ!モウ!アナダラケ!」

 男の表情は変わらず、まるで痛みなど毛ほど感じていない様に尻餅を着いたままサイラスに悪態を吐く。

 あくまで無表情な男にサイラスは不気味な物を感じ、興奮状態から一気に醒めた。冷静になってよく見れば、土槍が貫通した足にも男にも血が出る素振りは無い。

「ーーー義足?」

「どう、良く出来てるでしょ?凄いだろう、作るのにも結構な時間掛かったんだよ!………よくも壊しやがったなッ!」
「コワシタ!セッカク!ツクッタノニ!」

 無表情のまま激昂する男、アンバランスな長身は身の丈に合わない長い義足を着けていたからだった。

「まぁ良いや、さっきの三人とお前ので新しいの作るから!」
「カワリノ、アシ、ヨコセ!」

「まさか…その義足……死体で出来ているのかっ!?」

「おや、好みじゃなかった?でも、人型作るなら材料だってそこに寄せてかなきゃだろう?僕はさ、作るからにはリアルに作りたいんだよ!」
「キッチリ!シッカリ!マゴコロコメテ!」

「そうさ、何たって僕は人形創作者パペットクリエイターだからね!」
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