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45・爆破魔法
しおりを挟むーーー決闘で裸になるなんて聞いた事も見た事も無い!
流石に下までは脱がぬ様だが…それにしても普通は人前で肌を晒すなど羞恥心が湧き起こりそうなものだが、貴族と平民では常識が違うのか?
堂々としたその佇まいは寧ろ得意げにも見える。
(いや違う、そこじゃない!これから戦闘すると言うのに何故下着まで脱いだのかが分からん?)
あの軽鎧だけならまだ分かる。機能を果たせぬ装備を捨て速度を活かそうとしたのだと…だが素肌を晒す事に何の意味が??
(くそ、意図が…全く読めん!)
余りの事態に唖然とし、思考の渦に飲み込まれた俺の一瞬の隙を突いて獣の如く唸り声を上げながら物凄い速さで男が向かって来た!
「ま、まずい」
あっという間に距離が縮むっ!な、なんだあのスピードは!足に風魔法でも付与しているのか!?
咄嗟に右手に溜めた爆破魔法を放つ!
「爆破ブラストッ!」
ーーー爆音が響き爆炎が上がる!
男の速度が予想よりも速く、近距離での爆発に俺にまで爆破の衝撃が襲いかかる。
「チッ、これが狙いだったか!」
忌子の分際で随分と大胆な事をする、あの奇行の全てがこの一瞬の隙を作る為のブラフだったと言うのか!
だが対処された時の事を考えぬとは、所詮は浅知恵。軽鎧も無く何一つ身を守る術も無い状態ではもう起き上がる事は出来まい。
だが次の瞬間、渦巻く爆煙の中を掻き分け筋肉の塊が弾丸の如く飛び出した!
「ーーーな、何ッ!?」
「うおぉらぁあっ!」
男は目の前だっ、半ば無意識に左手に溜まっていた魔法を自分の足元に向かって放った!
「クッ、爆破ブラストォッ!」
目前で閃光と爆炎が爆音と共に周りを吹き飛ばす!
ーーードォンッ!
「ぬおっ!ーーがはッ」
爆風に飛ばされた身体が宙に投げ出され無雑作に地面へと叩きつけられる。
爆破魔法は破壊力・効果範囲は優秀だが近距離になると術者まで巻き込まれるデメリットがある。近距離戦など考えた事も無かったが、やり難いなんてものでは無い!
「ぐぅ…、だ、だがこれでーー距離は取れたぞ!」
全く、爆発の中突っ込んで来る奴など初めて見た!咄嗟に魔力を分散させて威力を殺したが…恐怖心が無いのかあの男はッ!
落ち着け…平静を保て! あまりの迫力に動揺したが、いつも通りのこの距離ならば魔法が撃て無いあの男に反撃手段は無い。
「クソッ、不意打ちとは言え、この俺の服に泥を付けるとは…」
至近距離での爆発だ、あの男も何処かに飛ばされたに違いない。地面にうつ伏せながら揺らぐ爆煙の中に目を凝らすとーーまさかっ?
「飛ばされてーーないだとっ!?」
「結構痛かったけどな」
煙が晴れるにしたがい、こちらにボコボコと隆起した背を向け、両腕を上げ力こぶを見せ付けるかの様なポーズをした男の後姿が現れる。
「結構痛かったーーだと? ふ、ふんっ、随分と痛覚が鈍い身体だな!」
「筋肉魔法バック・ダブルバイセップス!俺が一番信用している広背筋にお前の魔法は効かない!」
何?バッ、バックダブ? 防御魔法か??ーーふざけた事を吐ぬかす!俺の魔法が効かないだと? だったらたっぷり喰らわせてやろう!
立ち上がって胸に付いた泥を払う、これが私服であれば後から賠償を求める所だ。
爆破の詠唱を呟き、両手に魔力を纏わせる。一発で効かぬならーー。
「連続で当てるまでよッ!」
発動した魔法を維持させる事は元より、ほぼ同時に魔法を撃つ事が出来るのはーーこの俺を置いて他には居ない!(見習いの中ではだが…)
だが、俺の手に魔力を宿るのを見た男は既に走り始めていた。それも地を這う様に低く、こちらの狙いを逸らす様に蛇行しながら!その様さまはまるで一匹の大蛇だ!
(クソッ、また距離を詰められる!まさかあの男…初撃で爆破魔法の弱点を看破したというのか!?)
しかし、俺の魔法の方が速いっ!効果範囲が広い爆破魔法は例え相手に当たらなくともーー。
「いくぞ、爆破ブラスト連撃ッ!!」
「筋肉魔法トルネードッ!」
蛇行し曲がった時の慣性を使って横に一回転した男の手には掬った土が握られている。低い体勢はこの為か! 更にぐるんっと回転しながら遠心力を使い此方に向かってその土を放り投げてきた!
「ふんっ、目潰しなんぞ最早意味が無いーーハッ、しまったッ!」
ーーードォガズガンッ!!
放った連撃は俺の目の前で暴発し、爆風によって俺の身体は遥か後方まで吹き飛ばされた。
◇
「ふぃーー、上手くいった!…ウップ」
貴族様は自分の魔法でぶっ飛ばされた、俺は一発も手を出して無いんだから面子とやらは潰してないよな? 後で「自分をもぶっ飛ばず程の凄い威力の魔法を使えるなんて…強いっス!」って言っとけば大丈夫だろ…多分。
しかし、俺が封印したトルネード筋肉魔法をこんなに早く解禁する羽目になるとは…爆破魔法はやはり危険だな、はっきり言って個人戦じゃなきゃ対処のしようが無かった。守れて二人…いや一人が限界だ、あの効果範囲は反則だろう。
唖然とこちらを見つめる残りの貴族を見ながら、ヨイチョに教えて貰ったギュスタン分隊の情報を頭の中で整理する。
(今の貴族様が分隊長のギュスタンだから…うん、他に面倒臭そうな魔法を使う奴は居なさそうだ)
「ーーウップ…あと…四人かぁ…」
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