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42・決闘

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「…ほ、本当に真正面から行くのかい?」
「問題ありませんよ、相手が本当に貴族主義ならばね」

 妙に自信満々のヘルムを先頭に一本道を進んで行くと大きな木が見えてきた。その木の下でテーブルを囲んで座る五人が居る。向こうからもこちらが見えている筈だが立ち上がる気配も無い、何だ…戦闘する気は無いのだろうか?

 気にする事無くズンズン進むヘルムに続いて行くと、これ以上は互いの射程範囲という所でやっと向こうが反応した。

「遅いぞっ!平民風情が貴族である我らを待たせるとは不敬であろうがっ!」
「全く…お前達を待ってる間、何杯の茶を飲んだと思うんだ」
「え? …ち、茶?」

「8杯だっ! お陰で腹が苦しくて堪らんっ、この卑怯者どもがっ!」


ーーーはっ? 完全に言い掛かりじゃねぇか!?

  貴族ってのは注がれた茶は飲み干さなきゃ行けないルールでもあるのか? だとしても、お腹が苦しくなるまで飲むなよ!そして注ぐなっ!

 それにしても…まるで俺達がここに来る事を知っていたかの様な口振りだな。
 ジョルク並みの索敵魔法を使えるヤツが居るのか? それにあの不自然なまでの落ち着き様はなんだ?

「ジョルク…周りに他の分隊は?」
「…居ないぜ兄貴、アイツら五人だけだ」

 妙に落ち着いてるから、付近に伏兵でも忍ばせてるのかと思ったが違うのか…単純に舐められてるだけなのか?

「まぁ良いサイラス、その辺りにしておけ。知ってはいるだろうが自己紹介しておこう。俺がベイルード男爵家が三男、ギュスタンだ。」
「・・・・・はぁ、宜しく?」

 肩まで伸びた若干ウェーブがかった栗色の髪の毛をかき揚げながら、上から目線で偉そうに話す様はまさにthe貴族様だ。

「お前っ!? 何だその受け答えはッ、失礼であろうがっ!」
「ふんっ、山猿にまともな返答など期待しておらん、だがやはりお前はここ第三騎士団から排除すべき者だと確信したぞ!」

 何だか今までの連中とは毛色が違うな、俺の名札狙いじゃ無さそうだが…。

「さぁ貴族の魔法を見せてやるっ!覚悟するが良い!」

 サイラスと呼ばれた貴族が立ち上がるのを見て、ヘルムが一歩前へ出る。

「待って下さい、私は其方そちらの分隊に決闘を申し込みます!」

ーーーんんっ、決闘??

 その言葉に全員が一斉ヘルムを見るが、すぐにギュスタン達は笑いだした。

「は、はははっ!決闘と言ったか?お前達と?」
「ふ、くっくっ…これだから無学な平民共は…」

 サイラスは額に手を翳し、やれやれと芝居がかった態度で説明し出す。

「良いか、決闘とは貴族同士が互いの威信と名誉を懸けて行う神聖なるものだ! 身分の違うお前達が、我らに向かって気軽に申し込める様なものではないわっ!」

 そうか、ヘルムは相手がプライドの高い貴族ならば、決闘という挑発に乗ってくると思ったんだな…そうすれば、団体戦では無く個人の…そう、勝ち抜き戦とかにすれば俺達にも勝機はあった。

 ギュスタンの実力はかなりの物らしいが、俺が裸になって直接拳を叩きつけに行けば勝てそうな気がする…しかし、向こうが乗って来ないのなら仕方がない、サッサと違う手を打つべきだ。

 俺は隣に居るヘルムに小声で作戦の変更を打診する。

「ヘルム、一旦引いて落とし穴に誘い込もう」
「いえ、問題無いです。それに彼らはわざわざ追っては来ませんよ」

 ヘルムは更に一歩前に出ると、懐から白いハンカチを取り出し魔法で何かの模様を一瞬で描き出した。

(何だあれは…家紋…か?)

「では、改めて申し込みましょう」

 そしてヘルムはそれをギュスタンの足元へと投げ付けると、いつもでは考えれない程の大声で宣言した。

「我こそはヘルム・フリード、男爵位フリード家の三男! 我が名誉を懸けてギュスタン分隊に決闘を申し込みます。…これならば受けて頂けますね?」





「ほぅ?」

 ギュスタンはヘルムが投げたハンカチを拾い模様を確認する。

 シールドに馬と狐が書かれた紋章…確かフリード家の治める地区は有名な馬の産地だ。叔父自慢の名馬の鞍にこれと同じ紋章を見た覚えがある。

 この白いハンカチに自分の家の紋章を焼き付け相手に投げ付ける行為は、古くから有る貴族同士の決闘宣言時のしきたりだ。貴族には其々独自の紋章が有り、この紋章を相手に見せる事で己の素性を明らかにする意味がある。因みに他家の紋章を模倣する事は法によって禁じられている。

「確かにフリード家の紋章のようだな…良かろう、この決闘受けてやろう」
「では、私は代理として彼を立てます。まさか回復魔法士の私が相手をしなければ卑怯だ…などとは言わないでしょうね?」

「……ふんっ無論だ! だがお前は俺個人にでは無く、ギュスタン分隊に決闘を申し込んだ。その意味分かっているんだろうな?」
「そうだっ、今更発言を覆す様な貴族に有るまじき行為はするなよ?」

 ギュスタンとサイラスが言う様に、確かにヘルムはギュスタン分隊に決闘を申し込んでいた。

「問題有りません、その代わり一対一での決闘を提案します。まさか、集団で一人をいたぶる様なはしませんよね?」
「…ふんっ、好きにするがいい」

「では、10分後にここで」

 悠々と帰って来たヘルムを微妙な作り笑いをする面々が迎える。

「あはは…お帰りなさいませ?」
「ヘルムお前、貴族だったんだな…ですね?」
「へ、ヘヘルム様だもん?」

「はぁ~…私は『貴族主義者』ではありません、今更敬語使われても気持ちが悪いのでやめてほしいですね。 そもそも騎士団に入団した者には身分の差など無く、有るのは階級の差のみですよ」

 ヘルムは心底鬱陶しそうに顔を顰めながら言った。どうやら全ての貴族が『貴族主義』という訳では無いらしい。そういえばビエル団長も貴族らしいが、平民を見下す様な態度は見た事が無いな。

「アイツらはヘルムが貴族だって知らなかったのか、なぁ?」
「私は人付き合いが好きでは無いので…パーティーなども体調不良などを使いなるべく出席を断っていましたし、私をフリード家の者だと知ってるのは数人だと思いますよ」

 ヘルムが妙に自信満々だったのは、自身が貴族だったからか。「貴族の事は貴族に聞け」ってヤツだな。

「それで、どうすんだ?」
「貴方の想像通りですよ…これから一対一でギュスタン分隊と戦って貰います。 勿論、全て勝って貰いますからね?」
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