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41・ギュスタン分隊

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「ギュスタン分隊?」

 渋い顔をしながら向こうの状況を事細かに報告するヨイチョ、詳細な情報はありがたい。

「なぁ…ギュスタンって、あのギュスタンか?」
「強いのか?」
「う~ん、強い!けど何というか…面倒な相手かな」

 ギュスタン分隊は貴族のみで構成された『貴族主義』の分隊らしい。良く聞く平民には高圧的な態度を取るヤツか、平民ですら無い俺は正直関わりたく無いな。
……あれ、そういや今の俺って立場的に何なんだろ…サーシゥ王国民?…難民? どちらにせよ『貴族主義』とは仲良くなれそうもない。


「……やり過ごすか…」
「ところが、なんだか動く気配が無いんだよね。まるで誰かを待ってる様な…」
「どこかの分隊と合流するつもりかもしれませんね…」

 この辺りの地形的には、ギュスタン分隊が居座る道を通らなくては先に進めそうに無い。迂回するには崖を登るか、川を渡って向こう岸から進むか…。
 どちらにしても、俺や身体能力が高いジョルク以外には厳しい選択だ。

「じゃあ俺と兄貴で正面からバーンッとやっちまおうぜ、なぁ?」
「何だよ、そのツートップ特攻大作戦は…嫌だよ」

 ジョルクの立てる作戦はいつだって特攻メインなので、立案した途端にヘルムに一蹴される。
 もう少し戦略の勉強をしないと折角の鳥瞰視点ちょうかんしてん魔法が勿体無い。ヘルムに頼んで少し戦略模擬板ゲームでも教わった方が良いんじゃないだろうか?

 偵察に行ったヨイチョによると、この先に居るギュスタン分隊は割と有名らしく、使用する魔法系統などはすぐに判明した。だが、まともにやり合って勝てる気はしない。…爆破魔法って何だよ、おっかねぇ…。

「どうする? ゴールの拠点までは後何日くらいかかりそうなんだ?」
「後2日あれば着きそうかな、日程的には余裕あるけど…他の分隊よりも早く着かないと僕たちには厳しいよ」

 そう、ゴール地点の拠点は到着するだけでは駄目なのだ。最終的に制圧している分隊の勝利となるので期限まで防衛、もしくは占拠している分隊の排除を行わなければならない。
 攻撃魔法士が少ない我が分隊は、誰よりも早く到着して防衛戦に徹するのが一番良いのだ。

「どうするヘルム?」
「ギュスタン分隊は貴族主義と言っていましたね…」
「そうだね、割と有名ではあるんだけど…まぁヘルムにはあまり興味無いか」

 ヘルムは親指の爪を噛み、自分のバックから取り出した戦略模擬板ゲームに駒を並べてゆく。爪を噛むのはヘルムが長考する時の癖だ。
 マス目に置いたこちらの戦力、ヨイチョの持ち帰った情報から判明している相手の配置。彼の頭の中で今まで培った膨大な棋譜データから最善の一手を模索しているのだろう。

 暫くして、ずり下がる眼鏡をクイッと左手で直しながらヘルムは新たな作戦を皆に伝えた。


「そうですね……ジョルクの言う通り、正面から行ってみましょう」

ーーーえ、「ツートップ特攻大作戦」採用するの? マジで??





 川と崖に挟まれた 馬車が一台通れる程の道沿いには、とても大きな樹木が立っていた。空に向かい伸びるその無数の枝々には沢山の葉が生い茂り、まるで大きな日傘の様に太陽の光りを遮っている。

 その涼しげな木陰で本日5杯目の茶を飲み干したギュスタンは、ガチャリと銀のゴブレットを簡易テーブルに乱暴に置くと言った。

「遅いっ! 本当に奴らはここを通るんだろうな?」

 ギュスタン分隊がこの道に陣取ってもう3時間が過ぎようとしている。まだ訓練期間の猶予はあるので焦る必要は無いのだが、平民ごときに時間を取られている事がギュスタンには許せなかった。

「大丈夫だ、昨日バクスの奴から連絡が来た。情報通りのルートを通るならば、この道は避けられない」

 サイラスは手の平サイズの石版をペチペチと叩いて言った。この石版は通信機であり、同じ種類の端末石版同士で音声通信が出来るという魔道具だ。元の世界で言えば、携帯というよりはトランシーバーが近いだろう。
 石版だけに重量があり使用時間も回数も限られているが、通信出来る魔道具はかなり高価である。しかも持ち運び出来るサイズとなれば庶民にはとても手が出ない様な代物ではあるが、貴族である彼等にとってそこは大した問題では無い。

「バクス…商人の息子だったか、平民などの情報はアテになるのか?」
「あぁ、それは大丈夫だ。バクスの父が営む商会は、我がノルジット家御用達だからな!下手な事をすれば父上に取り引きを止めるよう進言すると言ってある」

「ククッ、おおかたその魔道具も、そのバクスとやらに無理を言って用意させたのだろう?」
「おい、人聞きが悪いなマルベルド。今回の訓練でこの魔道具の有用性が広まれば宣伝になるだろう?俺はバクスにチャンスを与えてやっただけだ」

 サイラスはバクスにあの男の痕跡を探らせると、この魔道具を使い定期的に報告させていた。
 そして昨日、あの男がこのルートを辿り此方へ向かっている事と、尾行していたバクス分隊が何・故・か・奴等に見つかり戦闘になり負けた事が分かった。

「チッ、全く使えない奴だっ!」
「はっ、アレに負けたのか? 一体どうやったら負けれるんだ?」
「きっと目を瞑って戦ったんだろう」

 魔道具の通信時間が短いせいで、戦闘の詳細は分からなかったが、ちょっと前まで言葉も話せなかった男と、まともに魔法を発動させれれない連中に負けるとは情け無い。

「もう一度バクスに確認を取れ。これ以上待ってられん、今すぐあの男をここに連れて来いと伝えろ!」

 ジリジリと上がる気温に若干苛立ちながら、6杯目の茶を自ら注ぎ入れるギュスタンの言葉に、サイラスはやれやれと魔道具に魔力を込めるとバクスに新たな指示を出した。

「バクス、聞こえるな? もう一仕事してもらうぞ!次の失敗は許さんからな?」
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