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37・能力検証

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「よし、取り敢えずはこれで大丈夫だろう…」

 池の淵に引き上げた四人を見ながら俺はホッと一息吐ひといきつく。ここに並べて置けば落雷を見たバルトの仲間が助けに来るに違いない。

「ヘルム、悪いけどコイツらに応急手当てだけでもしてやってくれ。バルトの分隊には回復魔法士が居ないんだろ?」
「…まぁ、上位分隊に貸しを作っておくのも悪くないですかね。分かりました、最低限の処置はしておきましょう」

 そう、後々恨まれちゃ困るからな。特にバルトってクレーマーはやたら怒ってたし…ここで放置したらまた何を言ってくるか分からない。

「それにしても、ナルの雷魔法が直撃して何とも無いって凄いね…」
「ご、ごごごめんなさい!ナル、ししら知らなかったんだもん…」
「いや大丈夫だから気にしないで。 ほんと俺もビックリだよ。もしかして腕輪の事を知っていたヨイチョが何とかしてくれたのかなとも思ったんだけど…」

 ヨイチョは少し気まずそうな顔をして目を逸らす。実はナルが詠唱を開始する直前に腕輪の事を思い出してはいたのだが、ナルのメンタルを気遣いその場では言い出せなかったのだ。

 ヨイチョはナルの魔法が無事発動したのを確認してから「彼は腕輪を二つも装備していたから魔法無効レジスト出来なかったかも知れない」とヘルムとナルに打ち明けていた。
 その時のナルの動揺は凄かった!オロオロするナルにヨイチョは平謝りしていたらしいが、判断は間違って無い。事前に伝えてしまったならナルはきっと魔法は撃てなかっただろうから。

 一方のヘルムは「どのみち雷魔法を撃つのは変わりませんからね、作戦を練った段階で決行は決定ですから」と非情な態度だった。
 一見薄情な気もするが、結果を見れば作戦は無事成功。本物の戦場では、大勢を助ける為に少数を犠牲にする事だってあるだろう。判断を迷っていたら全滅する事だってあるのだ。時にこの様な非情とも取れる判断を下す事が出来るのはヘルムの強みかもしれない。

 ジョルクに至っては「兄貴だから大丈夫だろ、なぁ?」と気にもしていなかった。…信頼が重い!

「腕輪ブレスレットが壊れた可能性もあるね、聞いた事無いけど…」
「試してみようぜ兄貴っ! 大気を纏しィ 一振りの斧ォ!」
「ーーッ!? 今すぐその詠唱を止めやがれっ、壊れてなかったらどうすんだよ!」

 今の風斧エアアックスの詠唱だろ?しかも顔面狙いやがって! コイツにはウルトに似たものを感じる…

「…何で攻撃魔法で実験しようとするのか理解出来ませんね…その腕の傷、治しますから早く出して下さい」
「おぉ?そ、そうだよな。ナイスヘルム!ちょっと頼むわ」

 もしも腕輪ブレスレットが壊れているなら魔法は魔法無効レジストされる筈だ、逆に魔法が効くなら腕輪ブレスレットは正常って事になるよな? これからは腕輪ブレスレットを装備さえしとけば俺でも回復魔法の恩恵にあずかる事が出来る。

「どれ、診察を始めますよ…ふむ」

 ヘルムは俺の腕をマジマジと診みながら傷の具合を確認してゆく。俺のイメージでは『ヒール!』って叫んどけば緑色の光に包まれて傷が治るものだと思っていたんだが…実際は違うのな。

 『医学知識あっての回復魔法』、回復魔法士はエリート集団だ。針やメスの代わりに魔法を使うというだけで施す処置は医者と同じだ。

ーーー診察に殺菌、止血、傷の縫合。

 道具や殺菌室が要らない医師って感じだろうか…かなり優秀である。ただ、個人の力量が如実に現れるのも回復魔法士の特徴だ。
 知識が豊富で多様な回復魔法を使えても、魔力量が少なければ処置の途中で終わってしまう可能性がある。手術中に突然「魔力切れだわ」とかゾッとする。
 逆に魔力量が多くても知識が無ければ応急手当て程度しか出来ない。

 ヘルムはどちらかと言うと前者だ。知識は豊富だが魔力量は普通。軽い処置なら日に10~15回、骨折などになると二箇所が限度みたいだ。

「…呆れる程の腕の太さですね、こんなに筋肉必要あります?…まぁ頑丈なのは認めますが… ふむ、軽い擦り傷と打撲ですね。 内出血を止め、傷の洗浄と皮膚の活性化を施しますからじっとしていて下さい」


・・・・結果、残念ながら回復魔法は魔法無効レジストされた。


「腕輪ブレスレットの故障…2つも?あり得ないですね」
「さっきの戦闘で攻撃を結構弾いたりしたからかなぁ? もしかして…コレって物凄く高価だったりする?」
「まぁ高価であるのは確かだけど…」

 マジか!弁償とかしなきゃ駄目だろうか?帰ったらウービンさんに何か良いバイト先が無いか聞いてみよう。

「その腕輪ブレスレットは罪人を拘束する時にも使用されている物です、そんなに簡単に壊れる様な物では無い筈です」
「簡単に壊せる様な魔道具なら犯罪者相手には使えねぇよなぁ?」

 バルト達との戦闘では確かに魔法は効いていた、あのシールドや腹に受けた衝撃は確かだ。
 しかし、ナルの放った雷とヘルムの回復魔法は俺に効かなかった…この違いは何だ?

「う~ん、仲間の魔法は効かない…とか?」
「フレンドリーファイヤ無効か、そんな都合良い事ある?」
「でも、俺の魔法で兄貴は空を飛んだぜ、なぁ?」
「そ、そそそ空を??」
「回復魔法が効かないとか、デメリットじゃないですか。私の魔法が効かないとか最悪ですね貴方」

 自分の能力が分からないのは非常に不便だ。この先の戦略を練るのだって魔法無効レジスト出来るか出来ないかで大分変わるのだから。

「それにしても…そのガリガリに削れた軽鎧やシールド見てると…良く生きてたよね?」
「確かに、この程度の傷で済むのはおかしいですね…」

 ヘルムはボロボロになってもう後頭部を守る事は出来ない俺の兜をまじまじと観察する。

「もしかして…いや、しかし…そんな事が?」
「ヘルムは何か分かったんだもん?」

 ヘルムは徐おもむろに立ち上がるとブツブツ言いながら腰の水筒を外し、何を思ったか俺の頭に中身をぶち撒けた!

「・・・・・・えっ? 何なのこれ…新しいイジメ??」

ーーー折角乾きかけてたのに何してくれてんの!?

「五月蝿いですね、ちょっとくらい我慢しなさい。 ヨイチョ、まだ魔力は残ってますよね?乾燥ドライを掛けて下さい」
「えっ、うん…乾燥ドライっ」

 湯気を出しながらみるみる乾いてゆく軽鎧…
………んっ? 軽鎧だけが…乾いていく??

「やはり!貴方は常に魔法無効レジスト状態なんですよ!」
「流石兄貴だぜっ!」

「ちょっと黙ってて下さい」
「・・・・・・」

 明らかにに理解して無いのに無駄にはしゃぐジョルクを一括したヘルムの眼鏡がキラリっと光る。…なんか『真実は一つ!』とか言い出しそうな雰囲気だ。

「 いいですか、普通魔法無効レジストは魔力を大量に保持する者の魔力が、体外へと溢れ出し相手の魔力をも取り込んで相殺してしまう現象です。溢れ出す範囲は魔力が多い程広範囲ですが、精々自分の周り1m範囲です。当然、その者が纏う装備も範囲内です」
「過去の英雄譚なんかでは伝説級の魔法士がパーティー全体を魔法抵抗レジストで守った…なんて話もあるけどね」

 へー、過去にはそんな凄い魔法士が居たのか…俺みたいな転移者だったりして。

「ここからが大事です…貴方はどういう訳か魔力が溢れる事無く、何と言うか…僅かに滲み出しているのですよ。効果の範囲が物凄く狭くて装備品にまで影響が出ないと考えるのが妥当です。そんなので魔法無効レジスト出来る意味が分かりませんが…魔力が濃いのでしょうかね? この辺りは専門家に調査を依頼しなきゃ分かりませんね」

「成る程、滲み出す魔力!そうだったのか……で、つまり?」

「…そうですね、恐らく…貴方は防具を全て脱ぎ捨てた時のみ…完璧に魔法を魔法無効レジスト出来ます」


ーーーえっ、裸族最強って事??
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