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34・目論見通り
しおりを挟む「………消えた?」
「あれは穴…やろか?」
氷雪暴風アイスブラストが削り取っていった直線上、その草原の中によく見るとポッカリと広い穴が空いているのが見える。
……正直、氷雪暴風アイスブラストが当たったかどうか微妙なタイミングだった。当たって落ちたのか…もし、ギリギリ躱して落ちたのなら?
ーーまだ終わっていない!
「ヒュ~、やりやがった!」
「やったっス!ふふん、俺の目論見通りっスね! ……さて、じゃあ俺たちはちゃんとアイツが倒れてるかを確認して来るっス!」
そそくさと駆け足で向かってゆくロッシ達にバルトは声をける。
「待て、俺も行く。まだ終わって無いかもしれねぇ…それにアイツは直接殴るって決めてんだ!」
「…え? そ、そうっスか?いや、代わりに殴ってきてやるっスよ?」
「そうそう、あんな大技出しちゃ疲れたろ?ここで休んでろよ!」
どこか焦った様子のロッシ達の態度にアルマはピンと来た。
(コイツらコッソリ筋肉の「名札」を取りに行く気や!)
「なぁ折角やし皆んなで見に行こうや!ええやろロッシ、何か不都合でもあるんか?」
「な、なんにも無いっス!ある訳無いっス!ヤダなぁ~」
(名札なんて、もうどうでもええけどな。バルトがやり過ぎんよう見てなあかんからなぁ)
あれだけキレてたバルトだ、一見今は落ち着いた様にも見えるが、いざ筋肉を目の前にして、再度頭に血が昇りついつい暴力の歯止めが効かなくなる可能性だってある。
必要以上相手を故意に傷つけるのは減点対象になりうる。ただでさえコッチは三人の「名札」が取られてるのだ、これ以上の減点はまずい。
アルマ達が近づいて行くとそれは6~7m程の楕円に掘られた穴だった。深さはそれ程では無く、せいぜい1.5mくらい、中には膝程まで水が溜まっていて、まるで池の様だ。
筋肉は丁度池の真ん中に辺りで両膝を突きガックリと頭こうべを垂れ座り込んでいた。俯きその表情は見えないがピクリとも動く様子は無い。
「石弾丸ストーンパレット!」
念の為にとユーシスが放った攻撃はガンッと筋肉の俯く頭に当たる。が、筋肉が動く事は無かった。やはり最後の魔法は当たっていたのだ、その証拠に筋肉の軽鎧は無数の傷跡でボロボロだった。
動く気配が無いと分かってからのロッシの行動は早かった。躊躇なく池に飛び込むと、筋肉目掛けて一目散に進んで行く。
「ひゃっはー!「名札」は早い者勝ちっスよ~」
「あ? テメェそういう事かっ!ふざけんな!」
「行けロッシ!俺がバルトを止めっ…アタっ!?」
(はぁー、やっと終わった…まだジョルク達がおるけど…無理して構わなくても良いやろ。もう正直しんどいわ…)
池に飛び込み争いながら戯れる男達を傍目に、アルマはゆっくりと池の淵に腰掛ける。足先に触れる水の冷たさが気持ち良い。
「髪の中が砂でざらっざらや、折角だから頭と顔だけでも洗っとこ」
池に降り、水面に映る顔を見たアルマは自分の顔が如何に泥まみれかを知り引き攣る。すぐに両手で水を掬い上げ、顔を洗い髪を濯ぐ。透き通る水はまるで体にこびり付いた砂と共に戦闘の疲れをも落としてゆく様だ…。
「それにしても他の三人が居ないと思ったら、まさかアイツの逃げ道に落とし穴を掘ってるとはな!相変わらず小狡いなロッシ!」
いの一番で駆け付けたロッシが「名札」を筋肉の首から取るのに手こずってる間に、バルトは羽交い締めで歩みを止めようとするユーシスを適当に捌きながらザブザブと筋肉の方に向かう。
「えっ?俺達じゃ無いっスよ」
「何だよ、褒めてんだぞ?別に卑怯だとかこれっぽっちも思ってねぇって」
「ゼノとレオはさっきアイツにやられちまってさ、ノーザムが治療中だ。3日は動けねぇってよ」
「…あん?だってさっきロッシが言ったろ『目論見通り』ってよ!」
「あれはバルト達がコイツを倒した事っすよ!お陰で楽に「名札」を奪えたっス!フヘヘ あっ、ちゃんと酒は分けるっスよ?一杯くらいは…」
首が太過ぎて「名札」を取るのに梃子てこずるロッシはコッチを振り返りもせずに答える。
「チッじゃあこの穴は偶然空いてたって事か? はッ、惜しかったな、後一歩早く穴に落ちてれば氷雪暴風アイスブラストから逃げ切れたかも知れねぇのにな…、まぁそれはそれだ!散々コケにしてくれたコイツにゃ、たっぷりとお返しさせて貰う!」
「バルトっ、程々にしとき!減点されたらかなわんから!」
(なんや、うちもまた小賢しいロッシが事前に準備した穴やと思っとったわ。アイツ意外と頭は回るからなぁ。 まぁええ、折角やし後で砂まみれのサリュ達も連れて来たろかな)
川から離れたこの付近には水場が少ない。ましてや地面は砂や砂利が多く水が溜まる事自体がほぼ無い。
「それにしてもラッキーやったな!水も透き通る程綺麗やし、そうや!今日はここに寝泊まりすればええんちゃうか?」
今回の戦闘は思ったよりもキツかった。ちょっと格下弄って「名札」取るだけのつもりが、気付けば三人もやられた上に切り札まで二回も使ってしまった。
オマケに筋肉が飛んできて土壁壊したり、筋肉がグルグル回りながら砂を掛けてきたりと今まで経験した事の無い様な出鱈目な戦法?に心身共に疲労したアルマにとっては、この綺麗な池は天国に見えた。
(暗くなったら汚れた身体をサッパリ池で洗い流して気持ち良く寝るんや!もう今日は筋肉は見たく無い!)
そんな事を考えながら、手のひらに溜まる水がユラユラ自分の顔を映すのをぼんやりと見詰めていたアルマはふと気付いた…
ーーーん?…そういえば何でココの水って、こんなに綺麗なん?
泥水では無い、今湧き出たような綺麗な水、雨が溜まったにしては水が綺麗過ぎるし…よく見れば穴はごく最近掘られた形跡が残ってる。
…ロッシ達は掘って無い、勿論ウチらも…残るは…。
ーーーッ!?
「あ、あかんッ!これは罠や!」
アルマが叫んだ時、既に空には不気味に蠢く雲が立ち込み始めていた。
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