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28・鉄壁のバルト分隊
しおりを挟む「クソッ!さっさとソイツを起こせっ!」
(万年最下位野郎なんかの魔法喰らって負けましたとか冗談じゃねぇぞっ!)
分隊長のバルトは苦虫を噛み潰したような顔で風斧エアアックスを喰らって昏倒しているジルを一瞥すると銀色に輝くシールドを睨み付けた。
いきなり現れやがったアイツのせいだ、間抜け魔抜けと聞いていたが盾役タンクとはな。確かに盾役タンクなら魔法は関係無ぇ。土魔法で作った壁の方が盾役タンクなんかよりよっぽど使えると思ってたが…その場に合わせて最適な動きをする「考える壁」と考えりゃ確かに有効だ。まさか万年最下位野郎の詠唱を許しちまう程とは思わなかった。ただの土壁だったらヤツはいつもみたいにのこのこと前に出て来てトロい詠唱してた筈だからな。
「仕方ねぇ…ドルニス!土壁アースウォールを作れ、取り敢えず…前だけでいい」
「うむ、了解した。まさかジョルク相手に防御を考えなきゃならないとはな…」
「サリュ・・・・・お前もだ…」
「はぁー、そこまでする必要ある?私弱い者イジメ好きじゃないんだけどなー」
頬を膨らませたサリュは、面倒くさげに溜息を吐くと詠唱を始める。
(あん?あれはロッシの合図か…悪いが、お前らが来る頃には全て終わってるかもな)
目の前には毅然と佇む銀のシールド、その後方の空に浮かぶ二つの光を見ながらバルトは乾いた唇を舐め呟いた。
「この俺がまともに相手してやるんだから光栄に思えよ」
◇
ジョルクの索敵によれば、林を通って拠点に戻ると、さっきの二人を相手にする必要がある。目の前の分隊も何とかしなきゃならない。時間が経って両方を一度に!ってのは勘弁して欲しい…さて、どうするか。
「信じられない…僕達相手に土壁アースウォールを使うなんて…」
シールドの影からチラッと前を確認すると、確かに土壁がゆっくりと地面から迫り上がるのが見える。
「何で?防御すんのは普通だろ?」
「自慢じゃないけど、僕達に防御なんて必要無いからね!」
そりゃ…確かに自慢じゃないな。
「『鉄壁のバルト分隊』彼等は上位の分隊なんだ、普段なら僕らなんて相手にすらされない、基本素・通・り・だよ?今回は…「君賭け」目当てで僕達なんかを狙ったんたろうけど、まさかまともに相手してくれるなんて!」
「俺的にはずっと油断してくれてた方が良かったけどな…」
「兄貴っ!俺の攻撃が当たったからだぜ!」
上位分隊なのかよ、じゃあ先にコッチを何とかしなきゃ不味いな。放っておくと後から詰められそうだ。それに土壁を張ったって事は向こうもやる気なんだろう。
「ヨイチョ、バルト分隊?だかには回復魔法士は?」
「居ない筈だよ、あそこは『鉄壁』って言われるだけあって被弾率が極端に低いから必要無いって…」
よしっ、じゃあさっきジョルクが一人倒したから後は四人だな。ヘルムと練った作戦的には、コイツらを半分に減らせば林方面から来る二人と丁度良い感じの人数になる筈だ。
「ジョルク、近辺に他の分隊は居ないよな?来たらすぐに知らせろよ?勝手に突っ込むのは無しだ」
「近くにゃ居ねぇよ、大丈夫だ!」
「こっちには攻撃手段がお前しか居ないから任せたぞ?あと二人頼む、出来るよな?」
「あぁ、任せろ兄貴っ!テンション上がるなぁっ!」
ジョルクは目を爛々と輝かせ歌う様に詠唱を始める。身振り手振りを使った大袈裟な詠唱はまるでミュージカルを見てるようだ。
ーーードガンッ!ドガガンッ!
「うわっ!?」
シールドに当たる相手の攻撃の圧が一段上がった?
一人欠けて手数は減ったが一撃の重さがさっきまでと段違いだ。どうやら遊びは終わりらしい…流石は上位分隊の攻撃だ、いい加減シールドを掴む握力がしんどくなってきた。
(特にあのバルトってヤツの風魔法がヤバいっ!)
ダンボールや板など面積の大きな物を運んでいる時、弱い風が吹いただけなのに風圧に板を手から持ってかれた経験は無いだろうか?風は受ける面積によって威力が変わる。何トンもあるトラックだって突風で転がってしまう事があるのだ。
シールドが飛ばされてしまえば身を守る物は一切無くなる、それは即ち敗北だ。
(ジョルクの魔法だってちゃんと効果があるって事は分かったからな。もう少しだ、踏ん張れ俺っ!)
ーーードカッ!ブォン!!
クッ、あいつシールドへ当たる突風の角度を微妙に変えてきやがる!気を抜くと腕ごと後方に飛ばされそうだ!
(だが、お前の詠唱してる間は絶対に俺が護ってやる!ジョルク、頼むぞっ!)
・・・・・・・・・・・っ!
・・・・・・・・・・・グッ!
・・・・・・・・・・・ぬぅおおッ!!
ーーーーーいやっ遅いなっ!?
「いくら何でも長過ぎるっ!腕が彼方へ飛んで行っちゃいそう!ジョルク!早く攻撃してくださいっ!」
「すまん兄貴!狙いが定まんねぇんだなぁ…」
「ほんとだ…何か向こう側が…増えてる?」
確かにあの辺一帯が何だかブレて見える…何かの魔法か?これじゃあ確かに狙いづらいな。…成る程、これが被弾率の低い理由か…硬いだけじゃ無いって訳だ…だが。
「おいジョルク、目で直接見るな。上から狙え!」
「ーーーあぁそうかっ!分かったぜっ! 風斧エアアックスッ!」
氷柱や石礫などの直線的な攻撃と違い、弧を描く風斧には正面の壁など意味が無い。壁には内側に居る対象を隠す効果もあり闇雲に攻撃しても当たる確率は低いのだが、今のジョルクにそれは通用しない。
何せ空から見下ろせるのだ。丸見えだ、壁など無いに等しい。そしてジョルクの索敵が優れている点がもう一つあった。
ーーーガッンッ!
「なんっ…でよ…!?」
風斧は不規則に揺れ動きながら土壁の奥へと吸い込まれ、その勢いのままに一人の少女の額へとぶち当たった。
少女は納得いかない表情を浮かべたまま、上体を後屈するとその場にバタンと倒れた。
ジョルクの索敵魔法は見下ろす効果の他に、何と熱源探知まで出来るのだ!相手が透明になろうがブレて見えようが、体温がある限りジョルクの索敵からは逃げられない。
「スゲェ、二連続ヒットだぜ、見たか兄貴っ?なぁッ!」
「全く…こんな凄い能力あるクセに何で今まで使わなかったんだよ?」
「あ~、最初は赤色に見えてるヤツが敵だと思ってたんだけどよぉ。敵も仲間もその辺にいる兎もリスも全部が赤くなるから何だか分からなくなってやめた!」
「ジョルクの場合、見えた所でどうしようもないだろうしねぇ」
あぁそうか、詠唱遅いからなジョルク…。しかし上位索敵魔法にあの身体能力…暗殺者アサシンとか狙撃手スナイパー目指したら凄い事になりそうだな!
・・・勿論、あの癖の強い詠唱が直ればだけど。
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