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24・「hit and run」
しおりを挟むシールドを担ぎ、風に騒つく草中を駆ける。この見通しの悪さならまだ二人は見つかって無い…はずっ!
奴等は余裕があるのか馬鹿なのか、大声で喚きながら魔法を撃っている。居場所バレバレじゃねぇか…一体、普段の訓練じゃどうしてるんだ?
…いや違うか、俺達を舐めきってるのか。奴らに取っちゃ俺達との一戦は訓練じゃなく『酒を賭けたゲーム』なんだろう。
そりゃあ、俺だってもう気づいてるさ。うちの分隊は他と比べりゃちょっと…そう、ほんのちょっとだけ見劣りするって事くらいは。だけどそこまで舐めプされるとさっ・・・
「見返してやりたくなるよなっ!」
草むらを掻き分け一気に奴等のど真ん中へと躍り出る。
「うおらぁッ!」
「・・・・・・はえっ?」
此方を全く警戒してなかったのか、ポカーンとした顔で立ち尽くす相手に向かって、俺は容赦なくシールドをぶん回した!
「うべらっ!?」
「ぶべっ!?」
シールドの表面をそれぞれ顔面と側頭部にまともに食らった二人は身体を一回捻りながら地面に倒れこみ白目を剥いた。他の者は急な状況に脳が追いつかないのか此方を凝視して硬直している。俺はその場をすぐに離れ、恐らくジョルク達が居るであろう方向へと一目散に駆け出した。
( 一撃離脱ってやつだ、ざまあみろっ!)
念の為、林に入り魔法を躱す様にジグザグに走るが、どうやら反撃は無さそうだ。
(・・・・あっ、そういやコレ訓練だった!ムカついたから割と本気でやったけど…死んでないよな?)
思わずやっちゃった感はあるけど、防具着けてたし、回復魔法あるし、異世界だし、大丈夫だよね?…多分。
暫くすると、前方からジョルクの大声と魔法の破裂音が聞こえて来た。
やべぇ、もう誰かと戦ってる!?戦闘音を聞いて違う分隊も寄って来やがったか。
前回の大猪を使ったみたいに、さっきの奴等を誘き寄せて混戦を狙うか?いや、ヘルムの話だといくつかの分隊が俺の名札を狩る為に協力している恐れがあるんだっけか?じゃあ挟撃されちゃう恐れがあるな。
「ウービンさん、面倒な事してくれたなぁ…取り敢えず、急いでジョルク達に合流しなきゃ!」
◇
「なっ…なっ…あ、アイツっス!」
「だ、大丈夫かっ!?おいノーザム、回復っ、回復を早くっ!」
「ま、待ってろ、すぐに…うわっこれは…」
側頭部を打たれたゼノの兜はひしゃげ変形している。これは脱がせられるだろうか…めり込んでる。顔面を強打したレオは…綺麗に鼻の骨が潰れてる、歯も何本かが粉々だ。こんなの…こんなの俺程度の回復魔法掛けたってすぐに治るもんじゃないぞ!
「・・・駄目だっ…二人共、まともに歩けるまで多分三日はかかる。戦闘なんて今は無理だ…」
誰だよ、お前回復魔法の出番なんて無いって言ってた奴は!ここまでの負傷者を野外で回復なんて想定外もいいとこだ。
「一撃!?腕輪してんのに?おかしいだろっ!」
「違うっ…アイツ魔法を使ってないんだ!腕輪とか関係無いんだよ!」
回復魔法士のノーザムはゼノの兜を何とか脱がせる事に成功、恐らく骨折したであろう頭蓋骨の修復に取り掛かる。ひしゃげたこの兜だって支給品だけどそれなりの防護魔法がかかってるってのに…まるで役に立って無い。いや、兜があったからこそ、ゼノの頭はまだ有るとも言える。
「意味わかんねぇ!魔法無しだと?そんな訳あるかっ、何かズルしてるに違いねぇ!」
残念だが、二人がこんな状態では今回の訓練で俺達が上位に入る事は出来ない。それでも3~4日ここで回復に専念して、残りの三日で拠点まで・・・脱落者無しで拠点まで辿り着ければなんとか及第点は貰えるはずだ。
ーーーだが、その前にっ・・・・
「アイツの『名札』だけでは意地でも取ってやる!」
「そうっス!このままじゃ終われないっスよ!せめて酒はゲットするっス!」
確かにこのままじゃ終われない!さっきは不意を突かれて近接されたけど、距離を取ればこっちが断然有利・・・・ん?
(そういえば、何でさっきアイツが来たのが分からなかったんだ?俺の周り5mの範囲内には感知魔法を掛けてあったんだぞ?)
ーーー気付いた途端、ノーザムの背中に冷たい汗が流れた。
感知魔法は一種の結界だ、範囲内に侵入する者が居ればその魔力を察知する。それが例え空の上だろうが地面の中だろうが、結界内に入れば必ず感知される筈なのだ。感知されないとすれば魔力の無い虫や死人くらい…。
ーーそれじゃアイツは…一体何なんだ!?
人は自分の理解が及ばない相手には底知れぬ恐ろしさを感じるものだ。
「お、俺はここでゼノとレオを回復させなきゃならないからな…二人で大丈夫か?ヤバそうなら今回は諦めても…」
「ふふ~ん、大丈夫っス!俺達の後方から付いて来てた分隊とは既に話がついてるっス!」
「いつの間に・・・・他の分隊と協力して倒すのか?」
『一つの獲物を協力して狩る』確かに効率は圧倒的に良い。広く、隠れる場所が多いこのフィールドにおいて人員の増加は願っても無い事である。
しかし今回の様に獲物の数が少ない場合、後々報酬の配分で揉める事が多い。報酬の酒は無限では無いのだと少し不満気なユーシスに向かってニヤつきながらロッシは言った。
「大丈夫っスよ、アイツを倒すまでの協力は約束したっスけどね。その後の事は何も決めて無いっス!あくまで倒すまでの協力関係、つまり『名札』は早い者勝ちって事っス!」
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