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23・暴虎馮河

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 ヘルムが立てた作戦通り、コッソリと敵の背後に周り込んだヨイチョとジョルクは手頃な木の陰に隠れていた。

「う~ん、この草丈じゃあ相手の正確な位置が分からないねぇ。魔法撃ってるから大体の場所は分かるんだけどなぁ。ジョルクどうしようか…ジョルク?」

 ふと見ると、さっきまで隣に居たジョルクが居ない。キョロキョロ辺りを見渡していると上からジョルクの大きな声が聞こえてきた。

「さぁ俺に任せろっ!なぁ!」

ーーー何してるの!?

 確かに、確かに木の上からなら相手も見付けやすいけど、向こうからも丸見えじゃないか!?しかも、あんな大声で叫んだら絶対見つかるじゃん、ってか見つかった!

「どわぁぁ!」

 木の枝が弾け、ジョルクが目の前に落ちてきた。

「イッテェなぁッ!」

(あぁ…だろうね、こうなるとは思ってはいたけど…)

ヨイチョは声には出さずに愚痴る。

(大体さ、ジョルクに隠密行動が出来る訳ないんだよなぁ、完全にヘルムの人選ミスだよ)

 ジョルクは見習い団員の中でぶっちぎりで成績が悪い。その原因の一つがこの詠唱の遅さである。

 ジョルクは子供の頃に観た劇中の英雄に強い影響を受けている為、どうしても感情込めて詠唱の文言を言ってしまう癖がある、つまりのだ。そのせいで普通の魔法士の1.5倍は詠唱に時間がかかってしまう。

 それに加え、何故かジョルクは不運にも敵との遭遇率が異様に高い。例えば、出発地点が別々で広い森の中を10人で彷徨った時、敵人との遭遇率はどれくらいだろうか?おそらくは0、多くても20%はいかないだろう。
 ところが、ジョルクの場合はおよそ7割の確率で遭遇してしまうのだ。
 その上、大声で詠唱を始めるものだからすぐに相手に気付かれてしまう。先手のつもりがいつも初手を取られるのだからジョルクの敗戦率は高い。つまりジョルクは見習い一負けてる男なのだ。

「ジョルク!一旦引こうっ!」

 ヨイチョはすぐに風魔法を放つ、先程よりも弱い竜巻が二人の周りを広範囲に包み込んだ。

「逃がさないっスよ!」
「まて、アッチに逃げたぞ?」
「違う違う、コッチだよ!?ほらっあの辺りに!」

 竜巻には埃を吹き飛ばす程度の力しかないが、影響を受けた周りの草木が一斉にガサガサと騒がしく揺れ動き、ヨイチョ達の挙動を隠した。相手が此方を見失なってるうちに拠点とは反対へと逃げる。

「ふー、何とかなったかな?取り敢えずヘルム達と一回合流しようか…あれ、ジョルク?」
「見つけたぜ!正々堂々と勝負しろや。なぁ!」

 ふと見ると、ジョルクは先程とは違う分隊に向かって走り始めていた。こちらを狙っていた分隊は一つではなかったのだ。

「ジョルクっ!ウソだろ?今行っちゃ駄目だろっ!?」



「ど、どどどどうしよう!な、ナルのせいでヨイチョがピンチに!」

 ナルは自分が攻撃出来なかったせいでヨイチョがピンチになったと思い込んでいる。うーん、どうせ俺には魔・法・無・効・の能力チートがあるんだ、突っ込むか?いや、何かもっと良い手を…

「ナル!聞けっ、俺はヨイチョ達を助けに行く!ナルにはやってもらいたい事があるんだ!」
「む、むむむ無理だよぉ、ナルには出来ないもん…」

 自信無く顔を伏せるナルの肩を叩き耳元でを伝える。

「そ、それなら…出来そう…かな? で、でもナルはヨイチョが居ないと魔法が…」
「大丈夫、それまでにヨイチョを連れて来るから!」

 よし、ナルはこれで大丈夫だな。ヘルムは…と見ると完全にやる気を失っているようだ、どうしたもんかな…そうだ!俺はヘルムに向かってこう尋ねた。

「流石だよ、これもヘルムの作戦通りなんだろ?」
「はぁ!?そんな訳ない~」

 激昂しそうなヘルムに手の平を向けてウンウンと頷きながら俺は心底感心してる様に続ける。

「いやいや、分かってるって!頭の悪い俺達には説明しづらいよな?俺が思うに、ヘルムはこの状況にわざと持っていったんだよ」
「そ、そうなの?こ、これは作戦?」

 ナルはパッと顔を上げヘルムを見る。

 こういうのは根拠なんか無くても、自信あり気に押し通すのが良いんだ。

「そうさっ!これで奴等は俺達とジョルク側の両方に気を張らないといけなくなった、チャンスだ!そうだろ?」
「ち、チャンス?そ、そうだねっ、ヘルム凄いっ!」
「んん….チャンス? そうか…成る程そうですね!貴方達には言っても理解出来ないと思ってましたが…これは…そうっ、これを私は狙ってたのですよ!」

 俺はウンウンと一人納得し機嫌が直って冷静さを取り戻したヘルムと軽い打ち合わせをすると塹壕を這い出した。

「ヘルム、じゃあにちょっと行ってくるわ!」

 俺はヨイチョが魔法を放ち逃げ出したタイミングで相手分隊に向かって駆け出した。風の音で俺の足音も消されるし、幸いにも相手は逃げたヨイチョ達に気を取られ此方はおざなりだ。

「よしっ!一丁やってやるかっ!」
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