22 / 276
22・見習い騎士団の実力
しおりを挟む訓練開始の合図が鳴ってから三時間、草原に残る何かを引きずった跡はすぐに見つかった。勿論、オイラ達にはこれがアイツの分隊が通った跡だって事はすぐに分かったっス!多分これはあのデカいシールドを引きずった跡っスね、間違いないっス!そして、あんな重い装備持ってるのは・・・・アイツしか居ないっス!
オイラ達の分隊は、アイツの分隊が森へ入ったのを見てから少し遅れて森へ入った。事前にアイツがどの方向へ向かうのかを確認しておよその場所を把握したって訳っスよ、オイラ達賢い!
今回の訓練はウービンさんとの賭け狙いの連中がほとんどっスからね、序盤にさっさと倒さないと横取りされるっス。
「見つけたっス!あそこ!あそこに向かって有りったけの魔法を撃つっス!」
「何だあれ?もうキャンプの準備してんのか?」
「ははは、勝負捨ててんだろ」
草むらの中に現れた円形にひらけた場所、彼奴らは此処でキャンプをするつもりっスね。準備が早すぎる気はするけど、あんな重そうな装備を持ち歩いてるんだから体力無くなるのは当然っスね。
一応、穴を掘って隠れてるみたいだけどバレバレっス、あそこの分隊はカスばっかりだから力押しで行くっスよー!!
「これでクリミアさんに晩酌して貰えるっ」
「数は力っスよ!押せ押せで行くっス!」
「石弾丸ストーンパレット!石弾丸ストーンパレット!」
「俺、この訓練が終わったらウルトさんに告白するんだ…俺を・・・・叩いて下さいって!」
『ーーーっぇえ!?』
◇
俺達が付けた目立つ痕跡をノコノコと辿ってきた相手分隊は、簡易的に作られた拠点に向かってすぐに攻撃を仕掛けてきた。土魔法で出来た無数の小さな石粒…点では無く面での全体攻撃だ。
つまり、それは相手分隊には塹壕の中が良く見えてない事を示している。もしも俺達が見えているなら、一点集中で狙って攻撃した方が効率も良いし精神的な圧もかけられるはずだからだ。バラバラと此方を探る様に放たれる土魔法の威力は俺が持つシールドで十分に防げるものだった。
「ん、こんなもんか…えーと二人共、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だもん!ナルは大丈夫…大丈夫だもん!」
「タンク盾役ですか…微妙に使いづらいですね貴方…団長は何を考えてるのでしょう?土魔法で壁作った方が効率的でしょうに…」
ナルは頭上を飛び交う石粒に頭を抱え涙目になっているが、俺は投石を板に受ける程度の衝撃をシールドに感じながら拍子抜けしていた。
正直クリミアやカイルが放つ魔法に比べるとかなりショボい。腕の太さ程ある氷柱を急に顔面目掛けて撃ってくるウルトの魔法の方が何倍も怖い!
(ハッ!?まさかウルトはコレを見越して?)
ウルトは俺が魔法で攻撃される事に慣れさせる為に…いや、そんなわけ無いな。アイツは面白がってやってたわ、純粋に暴力を楽しめるタイプだ絶対!
しかし、こうして見習い団員の魔法を受けてみると正規の騎士団やパカレー軍の凄さが良く分かるな。何というか…当たり前だが見習い団員には殺気がまるで感じられない。
大猪とパカレー軍、短期間に意図せぬ死線を二度も越えて来た俺には精神的な余裕があった。一撃一撃が必殺の威力があったあの時の攻撃の緊張感に比べるとこっちはまるでお遊びだ。
「おいナル、そろそろコッチも反撃しないと怪しまれるぞ?」
拠点には俺とナルとヘルムしか居ない。ヘルムが立てた作戦は分隊を二つに分け、拠点に敵の注意を引き付け、その隙に背後へ回り込んだジョルクとヨイチョが敵を無力化する作戦だ。
本来なら拠点を防衛しながら、向こうの魔力を消耗させつつ攻撃の機会を窺うのが定石らしいのだが、こちらには攻撃魔法を使えるのがジョルクとナルしか居ない。
手数が圧倒的に足りなく決定打に欠ける為、囮組みと奇襲組みの二組に別れたのだ。
「こ、怖いっ!やっぱり無理だもんっ!」
「はぁ?最悪だ…囮の意味無いじゃないですかっ!」
「ま、まぁまぁ、ほらっ俺が石でも投げるからさっ?意外とコントロール良いんだぜ?」
半べそかきだしたナルをオロオロしながら宥める、やっぱりヨイチョ居なきゃ駄目じゃないこの子?ヘルムは癇癪起こしてるし…何だここは、保育園か!?
その時、向こう側からジョルクの大声が聞こえてきた。ここからでも木の枝から相手分隊を見下ろしながらポーズを決めるジョルクが見える。
「さぁ俺に任せろっ!なぁ!」
ジョルクは相手分隊を目視するとすぐに芝居がかった詠唱を始めた。
『我が手に 集いし 大気の鼓動ォ! 風の刃となりて 我が宿敵にィ・・・・』
「ちょっ、馬鹿ですか!?見つかってないアドバンテージが無駄にぃ!?」
「ま、まぁ確かに目立ってはいるけど…先手打てるならいいんじゃないの?」
隣のヘルムが地団駄踏んでイラついてる。・・・おいおい大丈夫か、顔真っ赤だぞ?
確かにさ、見つからない様に一気に制圧するのが理想だろうけど。
「大丈夫だよ、『喧嘩は先手必勝』って言うしさっ」
「普通ならそうですよっ、普通ならっ!彼…ジョルクの場合は違うんですよっ!あぁ、最悪だ!やはり私は周りに恵まれ無い!」
「どわぁぁ!」
ーーージョルクの足元の木が弾け飛ぶ!
ナルは物凄く申し訳なさそうな顔で俺を見上げて言った。
「・・・ジョルク、詠唱が物凄く遅いんだもん…」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
欲しいのならば、全部あげましょう
杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」
今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。
「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」
それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど?
「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」
とお父様。
「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」
とお義母様。
「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」
と専属侍女。
この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。
挙げ句の果てに。
「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」
妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。
そうですか。
欲しいのならば、あげましょう。
ですがもう、こちらも遠慮しませんよ?
◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。
「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。
恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。
一発ネタですが後悔はありません。
テンプレ詰め合わせですがよろしければ。
◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。
カクヨムでも公開しました。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
公爵令嬢のRe.START
鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。
自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。
捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。
契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。
※ファンタジーがメインの作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる