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15・消えた国境

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 一つ、『パカレー共和国がナルボヌ帝国と開戦した事。』

 一つ、「彼の部隊は王国との国境に沿いナルボヌ帝国へと進軍した小隊の一つで、他にも何部隊かが同ルートを使っている事。』

 一つ、『王国側との国境線を越える予定は無かった事。』

一つ、『パカレー共和国側に王国と事を構える考えは無い事。』

「以上が捕虜の尋問により判明した情報となります」

 ドライゼ城の会議室、各方面のトップが一堂に集まるのは実に三十二年振りである。
イーサム宰相を始めに各大臣、王国の軍部最高司令である左将軍アズール、右将軍ジョンム、海将軍エーギルに加えて四大辺境伯に各主要都市を治める伯爵達。
いつもは広く見える会議室も今や所狭しだ。
数段高い王座でそれを見下ろすサーシゥ王の表情は硬い。

「知らなかっただと?白々しい!大体、国境線の壁をどうやって越えたというのだ!」
「適当な事を言って混乱させるのが目的じゃないのか?」
「ナルボヌ帝国との戦争には王国は中立を保つと宣言した筈だ!」

「此方からも重大な報告がある!」

 パカレー共和国との国境線がある王国東部の防衛を担当するジョンム将軍が声を上げる。

「こちらの調査結果だが…国境沿いの壁は無くなっていたとの事だ…」

「壁が…無い?」

「そうだ、一部では無い。パカレー共和国側の壁全てが無くなっている」

会議室に沈黙が流れる。

 古代アーティファクトが作る国境の壁は今まで絶対だった、それはオーニール大陸に住む全ての者の共通認識。その絶対的な信頼から今まで物理的な壁などは建設されていなかった。両方の同意無くして壁が無くなる事などあり得ない。いや、有り得なかった。

「まさか…アーティファクトが破壊された?」
「何重にも防御魔法が展開しているアーティファクトを?有り得ん!」
「何百年も経っとる、寿命の可能性は?」

暫しの沈黙後に喧々囂々となる会議室。

「北部にあるアーティファクトには結界魔法が掛かってる為近づく事は出来なかった。確認するには王の同行が必要となる、それと…」
「共和国側の元首の同行も必要…か」

ジョンム将軍は頭に光る汗を拭いながら王へと目を向けた。

 元来争いを好まないサーシゥ王は少し目を瞑ると穏やかに言った。

「うむ、まずは早急にパカレー共和国に使者を送る事じゃな。双方をもってアーティファクトの確認と再設定、向こうに敵意が無いのならば応じるはずじゃろ」



「吹っ飛んだんですよ、人がっ!!ゴミみたいにっ!」

 食堂では第三魔法騎士団の団員数人が酒を煽りながらワイワイとアレスの話を聞いていた。

「しかも、帰り道は大猪を担いで平然と歩いて付いてきたんです!魔法を使わずにっ!」

「またまた~ いくらアイツが赤熊みたいな身体してるからって…マジなんスか?」

 国境警備を担当する第三魔法騎士団、通称(第三)にはおよそ600人の団員と使用人100人程が在籍する大所帯だ。
国境沿いにある街に各支部が点在しており全団員が一堂に集まる事はまず無い。
本拠地であるこのイアマの詰所には騎士見習いや使用人など常に100人程が在籍している。

「しかもだよ?・・・・彼の魔力は・・・」



ーーーゴクリっ



「ビエル団長の数倍はあるっ!」

・・・・・・・・・・っぷ

「ぷはーっ!ないわー。アレスさん、流石にそれは無いっス」

 見習い達はアレスが冗談を言ってるんだろうと笑い飛ばしていると、カウンターで鍋を振るっていた調理長のウービンが真面目な顔で言った。

「その話マジだぞ。アイツはウルトの氷柱アイシクルを背中にボコボコ受けながらも平気な顔してジャガイモの皮剥きしてたからな。」

「えぇ~、何してんスか、あの人…」
「相変わらず何考えてるかわかんねー人だよな」
「ウルトさんに?羨ましいっ!」

 いくら大丈夫だからと言って攻撃魔法を人に向けてボコボコ撃って良い訳がない。
それをナチュラルにやるウルトに見習い達はドン引きする。

「そういや、アイツ少しずつ話せる様になってきたんじゃねぇか?」
「おー、なんかクリミアさんが言葉教えてるみたいだぜ」
「マジかー、俺も習いてぇなぁ」

 面倒見も良く、美人でスタイルの良いクリミアは見習い達の中で大人気だ。ウルトも性格はともかく、美人なので一部に熱狂的なファンがいる。

「で、アレスさん、アイツって結局、第三ウチに入るんですか?」

「うーん、ビエル団長は入れたいみたいだね。今は魔法使えないけど、あの魔力量だし…いずれは大きなの戦力になるよ彼は。ただ、身元がねぇ…ネックかな。」

「でも正直、俺は信じられないっスね。ビエル団長より魔力高いとか…魔法を使えない間抜け魔抜けなんて第三ウチには要らないっス!」
「だよな?いくら魔力が高くたって使えないなら意味無いしよぉ」

 第三魔法騎士団は辺境の警備が多い為、孤児院出の団員も少なく無いが決して入団が優しい訳では無い。
辺境ゆえに身分より実力重視なのだ。
見習い達も、数々の試験や面談を突破してここに居る。

 それが出身も怪しい上に言葉も話せない、ましてや魔法も使えない男がホイホイと簡単に入団されては面白くない。
勿論、憧れのクリミアが気にかける彼への嫉妬もあるのだろうが…見習い達の彼に対しての印象はすこぶる悪い。

「まぁ、次の戦闘訓練にはアイツも参加するんだろう?噂が本当かどうか自分達で試してこいよ!」

 ウービンは仕事に区切りがついたのか、自分のコップに酒を注ぎながら言った。

「そうだな…アイツに勝てたヤツにゃ3日間、俺が酒奢ってやるぜ?」
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