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第八話 初夜②※(ヒロイン視点)

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 頭のなかにもやがかかって、彼の言葉がよく理解できなかった。ただうわごとのように、訴える。

なか熱くて、気持ち、いい……っ」
「俺も……っ」
「アロイス、好き……っ、あ、」
「ルイーザ、愛しています」

 ぎゅっと抱きしめられて、愛しさと怒張が同時に爆発した。
 
「ああ、あああぁ――っ」
「ぐ……ぅ」

 彼女の雄茎から平らな腹に精液が飛ぶ。それを互いの身体にすりつけるかのようにアロイスの重みが全身にのしかかってきた。熱い、閉じ込められる。だが、その束縛こそがほかでもない自分が望んだものであると、彼女は知っていた。

「はぁ……っ」

 熱いひとときの余韻が全身に巡って、気持ち良かった。
 熱い息を吐いたアロイスの男根が、ずるッと膣から抜けていく。ルイーザのなかには、愛しさと満たされた思いが残された。しっとりとした気怠い時間。
 
「今は痛くても、回数を重ねれば膣への刺激だけでイケるようになります」

 隣で寝そべる茶色い瞳に引き寄せられながら、『回数を重ねる』のセリフに胸が熱くなる。
 
「アロイスは……その……」

 快楽の余韻にフラフラして、言葉が出てこない。アロイスはルイーザが言葉を見つけるのをじっと待ってくれていた。

「……気持ち良かった? ……わたくしにはあなたしかいないから、よくわからないから」

 そのとき、アロイスの表情が目に見えて固まる。

「……そんなことを言われたら、もう一度したくなってしまいます」

 もう一度してもいいのに。だが、破瓜の痛みも血のわずかな匂いも確かに存在して、これ以上続けることはキツそうだ。ルイーザは枕に顔を伏せた。
 
「女として不完全なこの身体で、あなたがちゃんと欲情するかわからなくて。……でも、良かったわ。気持ちよくなってくれたなら」

 不安だった。ホッとしたのと嬉しかったので顔がくしゃくしゃになってしまう。頬を伝う涙を、アロイスが指先で拭った。
 
「それで結婚式の間中、元気がなかったんですか?」
「気が付いていたの?」
「いつも自信たっぷりのあなたが、そんな心配をしていたとは意外です。……可愛い人ですね」
「……あなたはモテるから、信用できないのよ」

 ルイーザが口をとがらせると、それを凹ませようとするかのようにキスが降りてきた。深夜なのに、夫の笑顔が眩しい。

「妬いてくださるんですか?」
「ふん、……妬くもんですか」

 彼女が枕に顔を伏せると、アロイスはそっと頭を撫でてきた。
 
「安心してください。俺が愛を捧げるのは生涯あなた一人ですから」



 初めて一つになれた喜び、一緒に夕飯を囲む温かい日常、愛の言葉と共に贈られた婚約指輪。この世界とは違う服装、違う時代。大型トラックのクラクション、失われた日常。
 
 ――もう、あなたを失くしたくない!

せいちゃん……っ!」

 手を伸ばして虚しく空を切って、ルイーザは目を覚ます。どうやら、夢を見ていたようだ。幸せな始まりから不幸な終わりまで、ダイジェストで見せられた気がする。夢見が悪かったのだと頭を軽く振り、視界に入った美しい寝顔で一気に頭が冴えた。

 ――わたくしたち、つい結婚したのね。

 幸福と情熱に満ちた夜だった。アロイスはまるで宝物のように優しく彼女を愛してくれたのだ。

 ――股の間に、まだ挟まっているみたい。

 事の名残はそれだけで、ルイーザの身体は清められ夜着を纏い、シーツも新しいものに替えられていた。

 ――ほんとうに、わたくしにはもったいないくらいの人。もう一度出会えたわ、誠ちゃん。ん……誠ちゃん? 誰のことだったかしら?
 
「……なんてこと。すべて思い出したわ」

 ルイーザは信じられないとばかりに、目を見開いた。寝て起きたら、前世の記憶が蘇っていたのだ。
 ルイーザの前世は、現代日本に住むOLの髙村麻巳子だ。結婚間近の恋人を交通事故で亡くし結局立ち直れず、四年後にビルの屋上から飛び降りてしまった。ルイーザがふたなりで産まれたのも、前世で自ら命を絶ってしまったことに対するペナルティだそうだ。生まれ変わるときに、こちらの世界の神とそういう話をしたことも思い出したのだ。

 ――結果的にはペナルティどころか、チートだったわね。わたくしがふたなりでなければ、アロイスは結婚を承諾しなかったはずだから。
 
「今世こそ幸せになろうね。誠ちゃん」

 恋人を失った地獄のような四年間は、もう繰り返したくない。そのとき、腕枕していた腕が肩にまわされて、ぎゅうっと抱きしめてきた。
 
「うん……まみちゃん……、今度こそ……」

 アロイスの寝言がこぼれて、彼女のなかで眠っていた時計の針がカチリと動く。
 ルイーザは心の底から幸せが湧きだすのを感じて、これからの人生が楽しみで仕方なかった。
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