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第二部
16.魔女、暴君さまに晒しの刑に処される②※
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「手を離して。――美味しい食事や清潔な環境に礼を言うのも、ダメなの? 料理長のトニは、太ももに熱湯がかかって火傷をしたのよ。床磨きのヴェイニーは、手にできた肉刺が潰れていたわ。わたしは薬を塗ってあげただけよ。二人とも喜んでいたわ」
「トニはあなたのヒップラインに目を奪われて、大鍋から手を滑らせた。怠け者のヴェイニーがまじめに仕事し始めたのは、あなたが来てからだ」
「……星が瞬くのも雨が降るのも、わたしのせいだっていうの?」
ウルリッヒは、彼女が考えていた以上に疲れていて、物事を判断する能力まで衰えているのだ。無理もない。連日、廷臣たちから結婚話を押されて、辟易している。そのうえ、とうの愛妾にまで嫁をとれと言われては、彼としては立つ瀬がない。
「わかってちょうだい。魔女を人間の枠におさめようとしても無駄よ。わたしはここでは異分子なの。どうふるまおうと、人間の目には奇異に映るわ。はやく、森へ帰して」
彼女は何度目かもわからない訴えを繰り返したが、聞き飽きているウルリッヒは完全に流した。
「衛兵たちとも、仲良く立ち話していたそうだな。新しい『晩餐』の相手を物色していたのか? それとも、俺に隠れて、つまみ食いするつもりだったか? ――ふたり同時に」
「ふたり同時!? そんな下品なことするわけがないでしょ! 破廉恥、最低」
イルヴァが眼をむいて抗議すると、男はなぜかテーブルに残っていたニルギリのお茶を飲み干してしまった。大きな手に小さなティー・カップがおもちゃのようだ。
「もうっ! 飲みたかったら、ヘイニを呼びなさいよ。行儀が悪いわよ」
「俺は若造二人がかりより、あなたを満足させている自信はある。どちらにしろ、俺以外の相手とはできないんだろう?」
――ムカつく。
ニヤニヤとした顔で、彼女が必死に隠していたことを言い当てられた。魔女のプライドを刺激されて、思ってもみない言葉がするりと出る。
「あら、本当。大した自信ね。だったら、わたしも試してみていい? 王都の何がいいって、田舎より殿方の数が圧倒的に多いことよね。魔女の『晩餐』もいつも同じ味だと飽きちゃうの……、何するのよ!?」
碧眼の鋭さが増したかと思いきや、イルヴァは荷物のように抱えられた。このまま部屋の外に出るのかとドキドキしたが、両扉の前でストンと降ろされて内心安堵する。
ウルリッヒはさっそく腕の中に閉じ込めた魔女の、赤毛に隠れていた耳に唇を寄せた。それだけで、官能のスイッチを入れられてしまう。
「んっ、ちょっと……っ、ここでするの? こんな昼間から?」
「そうだ」
異論を許さない、威圧的な声に、胸がどきどきした。
昼日中に扉の前でやるなんて、今までにない趣向だ。別にいいのだ、好きにすればいい。魔女は『晩餐』が好物だし、ウルリッヒが日常のどうにもならない屈託をイルヴァの身体で発散させようと、不満はない。彼女はどちらかというと、奥まった寝室で優しく突かれるのが好みだが、言い争いをするより睦み合っている方が何倍もいい。
本音を言うなら、ウルリッヒに妬かれたのは嬉しかったし、彼が結婚したら『晩餐』にあずかることも出来なくなってしまうので、できるうちにたくさんしたい。
耳朶を舌で探られ、吐息があがる。ウルリッヒに口への接吻を禁じたせいか、まぶたや鼻先、頬やあごの先まで、唇を寄せられた。イルヴァのこころがたまらない愛おしさで満たされ、熱くなる。
「ふ……、ぁ」
「イルヴァは可愛いな」
「あ……んっ、はぁっ」
紫色のドレスと白い下穿きが、床に滑り落ちた。右手だけで軍服の襟を開けようとすると、上から軽く抑えられる。関節の太い、大きな手が、とてもセクシーだ。
「ウルリッヒは、脱がないの?」
「たまには、燃えるだろう? 一人だけ裸でいるのは、どんな気分だ?」
彼女は、自身を見下ろした。しろく輝く双丘の頂上には、薄紅色の小山がつんとたっている。谷間をなだらかな曲線がすべり、線のようなくぼみをたどり、無毛の小さな丘へと続いていた。永遠に変わらない、魔女の肢体だ。
「……さらし者にされているみたい。悪い王さま、どこでこんな遊びを覚えたの?」
「自分を捨てた魔女にいつか仕返しをしてやろうと、爪を研いでいた」
冗談のような恨みがましい言葉を受け、彼女はくすっと笑う。男の吐息が首筋をかすめ、それがくすぐったくて、のけぞった。
「嘘つき」
「柔らかくて、暖かいな。新雪のように清らかに見えるのに、触ると途端に妖艶になる。しっとりとした肌が手に吸い付いてきて、先端を口に含むだけで、可愛らしい喘ぎ声がころがりおちてくる」
彼女は、いつもより饒舌なウルリッヒに不信感を覚える。やわやわと胸を触られて揉みこまれて、乳房の先がツンっと快感を訴えた。
「あ……んっ、今日、へんよ」
「まだ、気づかないのか?」
ウルリッヒの面白がるような視線は、両扉に向けられていた。そこは二人の近衛兵によって護られているから、誰も入ってくることはできないはず。
――そうだったわ!
イリスとベンヤミンがこの扉の向こうで警護の任についている。仕事中で持ち場を離れられない彼らに、わざと情交の声音を聞かせようとしている? 自分に露出の趣味はない。
彼女の顔から一気に血の気が引いた。
「いや、離して……っ 悪趣味すぎるわ」
声はすでに震えていた。右手だけで軍服の肩を押したが、びくともしない。ウルリッヒは、魔女の抵抗などものともせず、ぷっくりと膨らんだピンクの乳輪を吸い込む。
「ひぃ……っ、やぁ……っ」
イルヴァの心境に反して、身体は快楽ののぼり坂を一気に駆け上がった。
「声を押さえなくてもいいのか?」
くぐもった笑い声に指摘され、慌てて右手で口をふさぐ。近衛兵たちに聞かれたかと思うと、肌が粟立つような快感がいや増し、下腹から胸の先までぞくぞくした。
「嫌なら、もっと本気で抗うだろう? 令嬢をカエルに変えられるなら、俺の首を落とすことなど造作もないはずだ」
「やめて」
ウルリッヒはひどい。イルヴァにできるはずがないと、分かっているからこその言葉だ。
「トニはあなたのヒップラインに目を奪われて、大鍋から手を滑らせた。怠け者のヴェイニーがまじめに仕事し始めたのは、あなたが来てからだ」
「……星が瞬くのも雨が降るのも、わたしのせいだっていうの?」
ウルリッヒは、彼女が考えていた以上に疲れていて、物事を判断する能力まで衰えているのだ。無理もない。連日、廷臣たちから結婚話を押されて、辟易している。そのうえ、とうの愛妾にまで嫁をとれと言われては、彼としては立つ瀬がない。
「わかってちょうだい。魔女を人間の枠におさめようとしても無駄よ。わたしはここでは異分子なの。どうふるまおうと、人間の目には奇異に映るわ。はやく、森へ帰して」
彼女は何度目かもわからない訴えを繰り返したが、聞き飽きているウルリッヒは完全に流した。
「衛兵たちとも、仲良く立ち話していたそうだな。新しい『晩餐』の相手を物色していたのか? それとも、俺に隠れて、つまみ食いするつもりだったか? ――ふたり同時に」
「ふたり同時!? そんな下品なことするわけがないでしょ! 破廉恥、最低」
イルヴァが眼をむいて抗議すると、男はなぜかテーブルに残っていたニルギリのお茶を飲み干してしまった。大きな手に小さなティー・カップがおもちゃのようだ。
「もうっ! 飲みたかったら、ヘイニを呼びなさいよ。行儀が悪いわよ」
「俺は若造二人がかりより、あなたを満足させている自信はある。どちらにしろ、俺以外の相手とはできないんだろう?」
――ムカつく。
ニヤニヤとした顔で、彼女が必死に隠していたことを言い当てられた。魔女のプライドを刺激されて、思ってもみない言葉がするりと出る。
「あら、本当。大した自信ね。だったら、わたしも試してみていい? 王都の何がいいって、田舎より殿方の数が圧倒的に多いことよね。魔女の『晩餐』もいつも同じ味だと飽きちゃうの……、何するのよ!?」
碧眼の鋭さが増したかと思いきや、イルヴァは荷物のように抱えられた。このまま部屋の外に出るのかとドキドキしたが、両扉の前でストンと降ろされて内心安堵する。
ウルリッヒはさっそく腕の中に閉じ込めた魔女の、赤毛に隠れていた耳に唇を寄せた。それだけで、官能のスイッチを入れられてしまう。
「んっ、ちょっと……っ、ここでするの? こんな昼間から?」
「そうだ」
異論を許さない、威圧的な声に、胸がどきどきした。
昼日中に扉の前でやるなんて、今までにない趣向だ。別にいいのだ、好きにすればいい。魔女は『晩餐』が好物だし、ウルリッヒが日常のどうにもならない屈託をイルヴァの身体で発散させようと、不満はない。彼女はどちらかというと、奥まった寝室で優しく突かれるのが好みだが、言い争いをするより睦み合っている方が何倍もいい。
本音を言うなら、ウルリッヒに妬かれたのは嬉しかったし、彼が結婚したら『晩餐』にあずかることも出来なくなってしまうので、できるうちにたくさんしたい。
耳朶を舌で探られ、吐息があがる。ウルリッヒに口への接吻を禁じたせいか、まぶたや鼻先、頬やあごの先まで、唇を寄せられた。イルヴァのこころがたまらない愛おしさで満たされ、熱くなる。
「ふ……、ぁ」
「イルヴァは可愛いな」
「あ……んっ、はぁっ」
紫色のドレスと白い下穿きが、床に滑り落ちた。右手だけで軍服の襟を開けようとすると、上から軽く抑えられる。関節の太い、大きな手が、とてもセクシーだ。
「ウルリッヒは、脱がないの?」
「たまには、燃えるだろう? 一人だけ裸でいるのは、どんな気分だ?」
彼女は、自身を見下ろした。しろく輝く双丘の頂上には、薄紅色の小山がつんとたっている。谷間をなだらかな曲線がすべり、線のようなくぼみをたどり、無毛の小さな丘へと続いていた。永遠に変わらない、魔女の肢体だ。
「……さらし者にされているみたい。悪い王さま、どこでこんな遊びを覚えたの?」
「自分を捨てた魔女にいつか仕返しをしてやろうと、爪を研いでいた」
冗談のような恨みがましい言葉を受け、彼女はくすっと笑う。男の吐息が首筋をかすめ、それがくすぐったくて、のけぞった。
「嘘つき」
「柔らかくて、暖かいな。新雪のように清らかに見えるのに、触ると途端に妖艶になる。しっとりとした肌が手に吸い付いてきて、先端を口に含むだけで、可愛らしい喘ぎ声がころがりおちてくる」
彼女は、いつもより饒舌なウルリッヒに不信感を覚える。やわやわと胸を触られて揉みこまれて、乳房の先がツンっと快感を訴えた。
「あ……んっ、今日、へんよ」
「まだ、気づかないのか?」
ウルリッヒの面白がるような視線は、両扉に向けられていた。そこは二人の近衛兵によって護られているから、誰も入ってくることはできないはず。
――そうだったわ!
イリスとベンヤミンがこの扉の向こうで警護の任についている。仕事中で持ち場を離れられない彼らに、わざと情交の声音を聞かせようとしている? 自分に露出の趣味はない。
彼女の顔から一気に血の気が引いた。
「いや、離して……っ 悪趣味すぎるわ」
声はすでに震えていた。右手だけで軍服の肩を押したが、びくともしない。ウルリッヒは、魔女の抵抗などものともせず、ぷっくりと膨らんだピンクの乳輪を吸い込む。
「ひぃ……っ、やぁ……っ」
イルヴァの心境に反して、身体は快楽ののぼり坂を一気に駆け上がった。
「声を押さえなくてもいいのか?」
くぐもった笑い声に指摘され、慌てて右手で口をふさぐ。近衛兵たちに聞かれたかと思うと、肌が粟立つような快感がいや増し、下腹から胸の先までぞくぞくした。
「嫌なら、もっと本気で抗うだろう? 令嬢をカエルに変えられるなら、俺の首を落とすことなど造作もないはずだ」
「やめて」
ウルリッヒはひどい。イルヴァにできるはずがないと、分かっているからこその言葉だ。
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